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「僕のこんな姿はもう見られないと思う」『ハムレット』主演の柿澤勇人にインタビュー
  • インタビュー

彩の国シェイクスピア・シリーズ2ndが2024年5月に始動。その1作目『ハムレット』が、2024年5月7日(火) から彩の国さいたま芸術劇場大ホールにて上演されます。

蜷川幸雄さんのもとでシェイクスピア全37戯曲を完全上演することを目指し、1998年のスタート以来、国内外に次々と話題作を発表してきた彩の国シェイクスピア・シリーズ。シリーズ完結間際でこの世を去った蜷川さんから芸術監督のバトンを引き継いだ吉田鋼太郎さんは、2017年から残された5作品を上演し、23年2月に『ジョン王』をもってシリーズを完結させました。

しかしその後も、新たなシリーズを望む声が多く寄せられました。その声に押された吉田さんがこの度「彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd」を立ち上げ、記念すべき1作目として『ハムレット』を上演します。

今回ハムレット役を演じるのは、柿澤勇人さん。本番まで1ヶ月を切った4月某日、稽古中の柿澤さんに稽古の感想や作品への手応え、そしてここ最近の活動についてを語ってもらいました。

(取材・文:五月女菜穂/撮影:すずきみわ子)

01  逃げられるものなら逃げたい
02  「俺、全然成長していないなと痛感する」
03  ぼろぼろな僕を見て

▼稽古場映像ダイジェスト

逃げられるものなら逃げたい

ーーお稽古の状況はいかがですか。

毎日満身創痍です(笑)。
稽古としては、1場ずつトライ&エラーを繰り返して、徐々に徐々に“たった1つの正解”を見つけていこうという段階です。今回の稽古場は楽しいと思ったことはないですね。むしろ今は毎日稽古場に行きたくないと思っています。

ーー柿澤さんは、トライ&エラーを繰り返す現場がお好きだと思っていました。特に大変だと感じる理由は。

大嫌いですよ(笑)。
正解を教えてもらって、和気藹々とやっていく方がずっと好きです。

大変だと感じる理由ですか?もうすべてです。
こんな状態で本番を迎えられるのか……こんなことを感じたのも初めてかもしれません。
逃げられるものなら逃げたいぐらい、大変です。

ーー吉田鋼太郎さんからはどういうオーダーを今受けているのですか。

鋼太郎さん自身、40年近くシェイクスピア作品に携わって、鋼太郎さんなりの正解や理想とする画があるので、とにかくまずはそれに追いつけるようにくらいついていこうという感じです。

鋼太郎さんは『ハムレット』に対する強い思い入れと愛があるけれど、今回のカンパニーのメンバーはシェイクスピアに慣れ親しんだ人はほとんどいないから、「何が面白いんだろう?」「何が魅力なんだろう?」というのを皆でずっと模索しながらやっています。当然40年選手と理解度も違いますし、同じレベルに数か月で到達するなんて無理な話ですが……

とはいえ、とても魅力的な俳優が集まったので、これからの稽古期間でブラッシュアップして、個が出てくるのかな。ここからが更なる勝負かなと思っています。

ーー鋼太郎さんの見えている画を実現しつつ、その先に何か新しいものが見えたら、もっと別のものが加えられたら……ということですよね。

そう、最終的にはそこを目指ししていきたいな。
やっぱり最後、舞台に立ち、演じるのは俳優です。
がんじがらめのままだったら、心が壊れてしまうと思うし、僕らがやる意味がなくなってしまいます。少しずつ正解を見つけて、その先に何かを見出せたらいいけれど。

稽古場では演出家の言うことがすべてだと思うのですが、これからは「そうじゃない」「それだけじゃない」と言えるモーメントもきっと作っていかなくてはいけないとも思っています。
正解や解釈は無限にある気がしています。

僕自身、早く全体像を掴めたらいいなと思っていますが、「こういう感じか」としっくり思えるシーンがまだ1つもないんです。
楽しんでやるとか、 力を抜いてやれるシーンはまだ1つもない。
家に帰って、ちゃんと頭をすっきりさせて予習/復習したいけれど、同じぐらい身体を休ませることも大事。いろいろ焦ります。

いや、みんななぜ『ハムレット』をやりたがるんでしょうね。
確かに僕も鋼太郎さんに「お前ならやれるよ」と声をかけてもらって、すごく嬉しかったし、名誉なことだと思ったから挑戦しようと思ったんですけど、いざやってみるとつらいことしかない(笑)。
(役として)みんなに裏切られるし、誰も何も本音をぶつけてくれないし、みんな僕のことを利用しようとするし……
でも名優たちがこぞって『ハムレット』をやりたがる理由は必ずどこかにあるはずなので、それを早く見つけたいと思います。

ーー観るのとやるのとでは大違いですか。

はい、全然違いますね。
僕もいろいろなバージョンの『ハムレット』を観てきましたが、やってみて初めて分かったことがたくさんありますよ。

「俺、全然成長していないなと痛感する」

ーー柿澤さんが過去に出演された、彩の国シェイクスピア・シリーズ『アテネのタイモン』(2017)との違いは?

2017年上演 彩の国シェイクスピア・シリーズ第33弾 『アテネのタイモン』 撮影:渡部孝弘

『アテネのタイモン』はすごく楽しかったですね。
スタートとゴールが明確で、「ここは内に向かって言え/ここは世界に向かって言え」という演出をつけてもらいあとはやりたい放題でした(笑)。
とにかく見せ場のシーンを頑張ればよかったというのもあると思います。

何より若かった。
鋼太郎さん、(藤原)竜也さん、(横田)栄司さんら先輩たちに囲まれて、お酒も飲めて、本当に楽しかった。

ーー今回もそうなれればいいのですが……。

絶対無理!!
もうプライベートは省エネして、身体を休めて、真面目にならないとダメです。これまでで1番ストイックというか、やれることをただひたすら一生懸命やっている感じですよ。

ーー彩の国シェイクスピア・シリーズといえば、やはり蜷川幸雄さんあってのシリーズだと思います。柿澤さんとして、蜷川さんを思い出すことは?

彩の国さいたま芸術劇場に来ると、嫌でも思い出しますよね。
日曜日や休館日は駐車場から劇場に入ろうとするとき、自力でドアを開けなくてはいけないところとか変わってない(笑)。劇場に入ると「ああ今日も生きて帰れるのかな」と思ったり、劇場を後にすると「ああ今日はこれができなかったな」と思ったり、あの毎日を思い出します。他の稽古場にはない、特別な匂いみたいなものもありますね。

僕は『海辺のカフカ』でトータル7年ほどご一緒しただけなので、他の諸先輩方に比べたら全然ですけど、劇場内にある大稽古場で蜷川さんから千本ノックを受けました。あの初演からもう12年ぐらい経つのかな。今もあの頃と変わらず、同じ稽古場で、ボコボコにされています。俺、全然成長していないなと痛感しています。

ぼろぼろな僕を見て

ーー柿澤さんの活動を振り返っていきたいのですが、昨年は『東京ラブストーリー』の地方公演から始まって、『ジキル&ハイド』、『スクールオブロック』、そして『オデッサ』と出演が続きました。

歌ってばかりいましたね(笑)。
振り返るとずっと稽古場にいたなと思います。
『ジキル&ハイド』は感情的になると音がうまく当たらなくなる感覚があったので、ボイストレーナーの先生に毎日技術的なことを見てもらっていたし、『スクールオブロック』はギターを弾けるようになるために夜遅くまで居残り練習していたし……鍛錬することが求められた1年でした。

2023年上演 ミュージカル『ジキル&ハイド』©東宝/ホリプロステージ
2023年上演 ミュージカル『スクールオブロック』撮影:田中亜紀

『オデッサ』もとにかく英語と鹿児島弁を毎日覚えて、正しい音で喋らなくてはいけなかったですしね。必死になりすぎて、三谷(幸喜)さんにも「稽古中盤まで話しかけられなかった」と言われたほど、寄せ付けないオーラがあったみたいです。

2024年 舞台『オデッサ』撮影:宮川舞子

ーー『ハムレット』を意識したのは、いつのタイミングですか。

『オデッサ』の地方公演中に、上演台本が手元に届きました。だから公演が終わったら、ホテルにすぐ帰って、『ハムレット』を覚えて……。
もっと前から勉強しておけばよかったのかもしれないです。

ーーお話を伺っていると、柿澤さんは、楽勝でできることは逆に面白味を感じないといいますか、何かにチャレンジすることを楽しんでいる印象があります。

全然ですよ!
鋼太郎さんにも三谷さんにも、追い詰められるとすごい力を発揮すると言われますけど、本当にやめてほしい(笑)。
逃げるか戦うかの二択しかないわけでしょう?ツラいです。

……でも、ハムレットという役はそういう役なんでしょうね。
演劇界でも1番と言われるぐらいのセリフ量だし、世界の名優たちが悩んでもがいて演じてきている役ですから。なにせデンマークの王子ですから、そりゃ大変ですよね。僕らとは比べ物にならないぐらいの精神状態だろうし、追い詰められて、がんじがらめになって。それでも戦おう、復讐しようと決めて。中途半端にやれるような役ではないというのはよく分かります。

ーー逃げずに戦うという選択をとっている柿澤さん。何がそうさせているのですか。

うーん。なんででしょうね。結局これしかできないからかな。

ーーもうそれが仕事だから、と。

最初はすごく楽しかったんですけどね。でもやればやるほど責任やプレッシャーみたいなものがどんどんついてきて、怖くなってくる。
……でもたまに楽しいと思うときもあって、そのためにやっているようなものですかね。

ーーそれはどんなときに楽しいと感じるのですか。

本番中の一瞬ですね。一週間舞台に立って、そのうちの1公演あるかないか。「この一言!」とか「この一瞬!」という感じ(笑)。

今は『ハムレット』を最後までやれることだけを願って生きています。

ーー最後に観客のみなさんに一言お願いします!

とにかくぼろぼろな僕を観に来てください。人間、ここまでぼろぼろになるんだ、追い詰められるとこういう風になっちゃうんだと思って頂ければと考えています。

安っぽい言葉ですけど、今後、僕のこんな姿はもう見られないと思います。 「いろいろな意味ですごいものを観た」と感じてもらえるように、とにかく最後まで頑張りたいと思います。


期間2024年5月7日(火)~26日(日)
会場彩の国さいたま芸術劇場 大ホール / ▼座席表
※改修工事により一部の座席の視界改善に伴う座席仕様の変更がございます。詳しくは劇場ホームページをご覧ください。
チケット料金SAFメンバーズ
S席:9,300円
A席:7,500円
B席:5,600円

【一般】
S席:10,000円
A席:8,000円
B席:6,000円
U-25:2,000円 ※劇場でのみ取扱い>>
公演詳細https://horipro-stage.jp/stage/hamlet2024/

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