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「三谷さんの作品は自分が演じる役を大好きになるんです」/『ハリー・ポッターと呪いの子』『オデッサ』に出演する迫田孝也にインタビュー
  • インタビュー

近年はジャンルを超えた硬軟自在の活躍から目が離せない迫田孝也。

その俳優人生の節目には、いつも三谷幸喜作品があった。

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(取材・文:市川安紀/撮影:HIRO KIMURA)

01  三谷幸喜に人生相談
02  ターニングポイント!
03  丁々発止の会話劇

三谷幸喜に人生相談

ーードラマ『VIVANT』も話題でした。主演の堺雅人さんとは三谷幸喜さん脚本の大河ドラマ『真田丸』(16年)で信頼厚い主従関係でしたが、今回迫田さんは堺さんを裏切って悲惨な末路を……

そうなんです。もう本当に腹をかっさばこうかと思いました。主君に対して何てことをしているんだ俺は!と。『真田丸』は初めて出演した大河ドラマだったので、思い出深いです。

ーーではそんなお話もおいおい伺いつつ。そもそも俳優を目指されたのはどんなきっかけが?

20歳のとき、夏休みに奄美大島でバイトをしていたホテルに、山田洋次監督のご一行がいらしていたんです。お手伝いをするうちにこの業界に興味を持って、俳優になりたいなと。親に大学は卒業すると約束したので、卒業してから何の当てもなく東京に出てきました。

もともとドラマや映画を観るのは好きで、中でも三谷さんの舞台を映画化した『12人の優しい日本人』(91年)がすごく心に残っていて。俳優として東京で勝負しようと思った時に、パッと浮かんだ目標が「三谷幸喜さんと一緒に作品をつくること」でした。

──実際にその後、映画『ザ・マジックアワー』(08年)で三谷作品に初出演されます。

小劇場の劇団で活動していた時、事務所からオーディションに行くように言われたんです。上京して7、8年、劇団での居心地も良くなっていたんですが、「そうだ、俺は三谷さんを目指して出てきたんじゃないか!」と突然初心を思い出して。オーディションでは三谷さんもいらっしゃる前で、渡された台本の一場面を演じて、AD役で合格することができました。佐藤浩市さんや唐沢寿明さんもいらっしゃる現場で撮影した後、家に帰って「よっしゃ!」と思ったのを覚えています。キラキラした思い出になりました。

──その後三谷さんの映画も挟みながら、舞台の三谷作品は『三谷版 桜の園』(12年)が初参加です。次がいよいよ『酒と涙とジキルとハイド』(14年)との出会いですね。

『桜の園』は刺激的な経験でした。舞台の稽古では三谷さんの演出や解釈に長い時間触れていられますし、一流の方々が集まる空間で演じられる時間は、魅力的で虜になりました。でも同時にその頃、将来に悩んでいたんです。劇団を飛び出してからうまくいかない時期も続いて、もう次はないという思いで三谷さんに相談すると、『酒と涙と〜』をやってみないかと言っていただいて。しかも出演者は片岡愛之助さん、優香さん、藤井隆さんと僕の4人だけ。驚きました。

2014年上演『酒と涙とジキルとハイド』/撮影:渡部孝弘

ターニングポイント!

ーー背水の陣で臨んだ『酒と涙とジキルとハイド』では、愛之助さん扮するジキル博士の助手プール役。舞台を引っ掻き回して爆笑を誘うキーマンで、迫田さんの代表作になりました。

僕にとってはターニングポイント中のターニングポイントです。みんなを後ろから動かしてほくそ笑みながら見ているような役どころで、台本を読むだけでも笑えたし、やっていても本当に面白かったですね。三谷さんから「お前にこれができるのか?」と挑戦を与えられた気がして、とにかく三谷さんの思いに応えよう、言われたことを忠実に表現しようと、がむしゃらでした。

ーー好評を受けて2018年には再演と台湾公演もありました。

そうそう、台湾はオペラハウスみたいな大きい劇場だったんですが、満員の客席中が「ここまでウケるか?!」ってくらいウケて、本当にビックリでした。

ーー『酒と涙〜』初演の後、『真田丸』で大河ドラマに初出演。周りの反応はいかがでしたか。

今まで僕を知らなかった方たちにも初めて認識してもらえた作品だと思います。実家に帰ると父親が「これ(サイン)書いてくれねぇか?」って嬉しそうに言ってきたり。こういう仕事をしていることを、親に対して初めて自信を持って言えるようになりました。ちょっと親孝行ができたかなと。

また堺さんをはじめ素晴らしい役者さんたちとご一緒したことで、自分のステージを上げていかないとこの方たちと決して同じ場所に立つことはできない、という意識も強くなりました。もっと面白いシーンにできたはずなのに、自分の腰が引けていたせいでトーンダウンしてしまった、と反省することも度々あり、どうやったらあの方たちと同じ土俵で戦えるのか、模索しながら自分と戦っていた時期だと思います。

ーーその後、三谷さんの舞台では柿澤勇人さん主演『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』(19年)で、すっとぼけたレストレイド警部役がいい味わいでした。

すっとぼけて……ました?おかしいな、自分では特にそのつもりはないんですけど、そう見えるんですかね。三谷さんから見た迫田像には、よく言えば軽妙、悪く言えば軽薄というか、そういう面があるのかもしれません。実際にこの時はすごく楽に、力の抜けた芝居ができたので、もしかしたら自分の中にもそういう一面はあるのかな?とも思いつつ。ちょっと自分では納得のいかない部分も……いやいや、ウソです、三谷さんが見ている僕がたぶん僕です! 『酒と涙〜』も『愛と哀しみ〜』も、愛着の深い作品です。

丁々発止の会話劇

ーー年明けには、三谷さん久々の新作書き下ろし舞台『オデッサ』が登場します。柿澤さん、宮澤エマさん、迫田さんという、昨年大きな話題を呼んだ三谷脚本の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも出演された3人が、再び顔を合わせるという意味でも待ち遠しいです。

奇しくも、大河で言うと源頼朝の息子(実朝=柿澤)、義妹(実衣=宮澤)、弟(範頼=迫田)が一堂に会するわけですけど、今回は設定がアメリカのテキサスらしいので、ガラッと様変わりですね。

ーー現段階での情報では、テキサスのオデッサで殺人容疑をかけられた日本人旅行客が、日本語のできない警察官と通訳の青年と繰り広げる密室会話劇、とのことですが。迫田さんは殺人容疑者……?

顔つきからしておそらくそんな気はしますけど、蓋を開けてみないとわからないですよね。密室の会話劇は三谷さんの得意とする分野ですし、楽しみです。言葉の応酬の裏に、複雑な感情のぶつかり合いが繰り広げられるのだろうなと。三者三様、誰かが誰かを騙そうとしているのか、ずっとハラハラドキドキが続くような作品になるのでは?と、勝手に想像しています。でも三谷さんのことですから、こちらの予想は軽々と覆されるでしょうね。早く台本が読みたいです。

──改めて、役者さんとして三谷作品を演じる醍醐味はどんなところにありますか。

自分が演じる役を大好きになる、ってことですね。三谷さんはきっと全ての登場人物に対して愛を持って書いていらっしゃるから、僕たちも演じていて、役と一心同体になれる感覚があるんです。それがすごく楽しいですし、作品が終わった後も、自分の血肉となって残るというか。その先もずっと違和感なく一緒にいられるような感覚を持てるのは素敵ですよね。僕の中には(『真田丸』の)三十郎も、範頼も、プールも、レストレイドも……みんないます。

──今回の舞台について何か三谷さんからメッセージなどはありましたか。

それはまだないですね。『真田丸』の時には、撮影前に「僕の三十郎に恥をかかせないでくれ」と言われましたけど。今度はどうだろう……何か言われるかな?

──『オデッサ』の前に、舞台では『ハリー・ポッターと呪いの子』デビューもされていますね。

ロン・ウィーズリー役で8月末から登場しています。ちょっとイギリスの魔法の世界へ旅してから、テキサスに行こうかと思っています。

考えたら三谷さんの舞台では今まで外国人の役ばかりだったので、『オデッサ』は初の日本人役になるかもしれないですね。

いずれにせよ、少人数で作品をつくり上げるのが今から本当に楽しみです。共演の2人とも勝手知ったる仲なので、この作品もきっと忘れられない出会いになると思います。


▼迫田孝也 今後の出演舞台


・2024年1月8日(月祝)~28日(日)東京公演: 舞台『オデッサ』
・絶賛ロングラン公演中! 舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』ロン・ウィーズリー役

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