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世界を虜にした少年の夢!ミュージカル『ビリー・エリオット』稽古場レポート
  • レポート

一人の少年の夢が、周りの大人たち、そしていつしか寂れゆく炭鉱の街全体の希望になっていく、夢を諦めない尊さと勇気を描き世界中を熱狂させ続けるミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』。日本でも2017年の初演、2020年の再演が累計20万人を超える観客動員数を記録し、今年2024年、。1年間に及ぶ育成型オーディションを勝ち抜いた4人の新たなビリーを迎えた待望の三度目となる公演準備が着々と進んでいる。そんなカンパニー、関係者全員が顔を合わせる5月某日、都内の稽古場を密着した。

(取材・文:橘 涼香/撮影:田中亜紀)


分刻みで進むプロフェッショナルな稽古

稽古はなんと6つのスタジオを駆使した分刻みのスケジュールが組まれていて、その一覧表を目にしただけで、こんなことって可能なの?と驚いたほどだが、そこは選び抜かれたキャストと、この作品を知り尽くした超一流のクリエイティブスタッフが集う稽古場。

例えば「15分本読み、15分立ち稽古、今日この場面が最後まで行かなくても全く構いません」と演出捕のエド・バーンサイドがタイムテーブルを提示すると、それが寸分違わずピタリと実行される様は潔い限り。キャストに求められる集中力も相当なものだと思うが、それでも稽古場に全くピリピリした様子はなく、全員が前向きにいまやるべきことに取り組みつつ、きちんと周りが見えているプロフェッショナルさに感心させられる。

そんな空気のなか、はじまったのは「朝食」のシーン。

日本初演からビリーのお父さんを演じ続けている益岡徹、おばあちゃんの根岸季衣、今回が初参加の兄トニーの西川大貴で場面が進んでいく。一見簡易に見えるが、ちゃんと階段を昇ることもできる稽古場セットのなかで、朝食の支度をしながらお父さんが何度も「ビリー!」と呼ぶタイミングと動きが入念に繰り返されていく。演出捕のエドがこだわっているのは、芝居として成立していても、ミュージカルとして成立しているか?という点で、オーケストラの演奏を一人で担う大迫力の稽古ピアニストの音楽が入ってくると意図が一層明確になり、音と台詞がピタッとあった瞬間の心地よさに「なるほど!」と思わされる。益岡の慣れを一切排除した真摯な取り組み。根岸のワンテンポズレているようで、肝心なところはちゃんとわかっている匙加減の絶妙さ。西川の明確な意図が伝わる一つひとつの動きが面白い。

左より)ビリー・エリオット役:渡部出日寿、おばあちゃん役:根岸季衣
2020年舞台写真_撮影:田中亜紀 

お父さん役として新参加の鶴見辰吾、同じくトニーの吉田広大にチェンジすると、フライパンをどちらの手で取るのか、父と息子のプラカードを巡る攻防で「父が勝ち、息子が負けたことを明確に!」など細かい指示を、真剣に実践する二人がみるみる変化していくのがわかる。何度目かのトライのあと「素晴らしい!格段に良くなりました」と演出席から大きな拍手が贈られ、キャストの対応力に目を瞠った。

ダブルキャストの妙味があふれる芝居

スタジオを移動して益岡のお父さんが、安蘭けいのウィルキンソン先生宅を訪れるクリスマスの夜の芝居稽古へ。

この日が初立ち稽古とあって、ビリーに本当にバレエの才能があるのかを知りたいと、迷いあぐねながらここまで来る間にすっかり前のめりになっているお父さんと、それを迎えるウィルキンソン先生双方の心理が丁寧に説明される。キャスト二人共にこの役柄の経験者だが、初めて役に臨むように一つひとつの解説を真摯に聞く姿勢に胸打たれる。なかでも上着の前をかきあわせ、空を見上げる仕草だけで、非常に蒸し暑かった日にも関わらず、広い稽古場が一瞬にして雪の舞うクリスマスの夜に変わる、演劇マジックが感動的だ。

ここでウィルキンソン先生がホワイトカラー、お父さんがブルーカラーに属している、イギリスの階級社会による二人の間にある溝が、お父さんの張る意地につながっていることもわかり、ビリーに深い愛情を持っているのは同じなのに、なかなか共通項を見出せない二人の姿が切ない。

左より)ウィルキンソン先生役:安蘭けい、お父さん役:益岡 徹
2020年舞台写真_撮影:田中亜紀 

時間とスタジオを変えて、初参加の濱田めぐみと鶴見辰吾ペアでも同じ稽古が行われた。

安蘭の先生に宿るシニカルな表現のなかに秘められた熱い思いが、ビリーをバレエ学校に通わせる費用の高額さに大きなショックを受ける益岡お父さんに伝わらない様。濱田の先生がグッとオープンで磊落な雰囲気を醸し出すなか、鶴見お父さんが先生の好意を反射的に断ってしまったことに自分で気づいているからこそ、状況の打開を考えあぐねる様子。と、初めての立ち稽古というこの時点で、二組の先生とお父さんが、全く異なるやりとりを見せてくれていて、組み合わせを変えたリピートもしてみたいという気持ちが高まった。

身体に染み込むまで繰り返すダンスの振付

また別スタジオでは、大人キャストによる「SOLIDARITY」の振付が精力的に続いていた。

日本初演から携わっている振付捕のトム・ホッジソンは「いま身体にしみこませてしまえば、これからが楽なので慣れて欲しい」と、椅子にあがるタイミング、ライトを指す角度、膝の曲げ方などを、一人ひとり念入りに確認していく。その最中も「スマイル、スマイル!」と頻繁に声がかけられ、大人キャストたちもひとつのシークエンスが何度も繰り返される苦しいだろう振付確認のなかで笑顔をたやさない。トニーの西川大貴と吉田広大が指示を待つことなく、タイミングを計って互いに交代しあい、気づいたことを共に確認していく様が、ダブルキャスト制を多く敷いている日本のミュージカル界で活躍している人ならではの、経験値の高さを感じさせる。

ここから全員の顔合わせの前に、大人キャストと交代して4人のビリー浅田良舞、石黒瑛土、井上宇一郎、春山嘉夢一、やはり4人のビリーの親友マイケルの髙橋維束、豊本燦汰、西山遥都、渡邉隼人がスタジオにやってくる。

そのままウォームアップ、そしてタップの様々なパターンを8人全員で踊るビリーとマイケルたち。トムは「(顔合わせで)色々な人がくるけれども、皆さんの明るさ、楽しさを伝えましょう!」と声をかけ、顔合わせで披露するパフォーマンスを確認。「距離感を意識して、詰まってこないように!みんなが仲間でみんなが大好きだと伝わるように!」と中に入って共に踊り、「OK!最高ですよ!」と盛り上げていく。大人キャストに対していた時とはまるで違う接し方がこの作品に長く携わっている人のスキルの高さを感じさせるし、どうしたって緊張しているだろうビリーとマイケルたちからも、自然にキラキラした笑顔がこぼれ出てくるのが目に鮮やかだ。

顔合わせ&ビリー・マイケルによるパフォーマンス初披露

その勢いを持続したまま、ミュージカル『ビリー・エリオット』が如何に壮大なプロジェクトかがわかる、大人数での顔合わせへ。キャスト、スタッフ、スーツ姿の関係者と紹介が続き、スモールボーイ役の三人は名前を呼ばれたあと椅子の上に立って「はい!」と返事をするなど微笑ましい笑顔も広がるなか、いよいよビリー&マイケルの初パフォーマンス披露へ。

トムと全員が広いスタジオのセンターで円陣を組み、大きな声を出してパフォーマンスがスタート。ついさっき確認稽古を見たばかりなのに、弾ける笑顔とタップがピタリと揃っている本番エンジンのかかった8人の堂々とした姿に圧倒される。はじめはマイケルたちが、続いてビリーたちが前列に出てきて、もっと楽しく、もっと笑顔で!と踊る様に見ているこちらも自然に笑顔になっていくのがわかる。今年のビリーはバレエが得意な4人が選ばれているが、ポップで明るいパフォーマンスもすっかり手中に収めていて、声を揃えた「フィニッシュ!」で決まった全員に、万雷の拍手喝采が巻き起こった。あぁ、今年のミュージカル『ビリー・エリオット』もきっと2024年版だけが持つ、新しい輝きで魅了してくれるに違いない、そんな確信を持った時間だった。

\\ パフォーマンスの様子はぜひ特番で! //

ひたむきな稽古が作品を輝かせていく

前列中央より)ビリー役:加藤航世、ウィルキンソン先生役:柚希礼音
2017年舞台写真_撮影:阿部高之

この後も稽古は続き、ウィルキンソン先生の娘デビーをはじめとしたバレエガールズたちが加わった「SOLIDARITY」では、力強く踊る大人キャストの前を駆け抜けようとしたガールズたちがタイミングを失して総崩れになってしまう瞬間もあったが、そのアクシデントにも稽古場に広がるのは爆笑の渦。益岡と芋洗坂係長が目を細めて「可愛いね~」と子供たちを見守る視線も温かく、トムが「お客様はあなた方を見ていますよ!シャープに!YES!GOOD!」と声をかけ、終始和やかな雰囲気で稽古が続いた。

この一日を通じて、十分知っていたつもりのミュージカル『ビリー・エリオット』が、如何に緻密に構成されたエンターティメント作品かということを、また改めて感じ取れた思いがする。さらにこうして続いていく一つひとつの稽古の積み重ねが、7月27日東京建物Brillia HALLでの開幕を皮切りに、11月24日の大阪・SkyシアターMBSでの大千穐楽まで続く長丁場の公演を輝かせ続けてくれることだろう。そんな本番が待ち遠しくてならない稽古場取材だった。

作品名Daiwa House presents ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』
期間【東京公演】
オープニング公演:2024年7月27日(土)~8月1日(木)
本公演:2024年8月2日(金)~10月26日(土)
【大阪公演】
2024年11月9日(土)~24日(日)
会場【東京公演】東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場) / ▼座席表
【大阪公演】SkyシアターMBS
チケット料金【東京公演】
S席:平日¥15,000/土日祝¥15,500
A席:平日¥12,000/土日祝¥12,500
B席:平日¥ 9,000/土日祝¥ 9,500
Yシート:¥ 2,000(期間限定販売・20歳以下対象チケット)※ホリプロステージのみ取扱
 
【大阪公演】
S席:平日¥15,000/土日祝¥15,500
U-25:平日¥12,000/土日祝¥12,500
 
チケット販売詳細>>
作品HPhttps://horipro-stage.jp/stage/billyelliot2024/

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