特集・インタビュー
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【寄稿再掲記事 第2弾】
各ナンバーにつけられた日本語訳詞は、作者リー・ホールの意図を的確に伝えるため、海外スタッフと綿密な打ち合わせの末に生まれたもの。
翻訳の際のエピソードや訳詞の狙いについて、高橋亜子さんに伺いました。
※本文は2020年公演プログラム寄稿の再掲です。
作品解説コラム 第1・3弾も公開中!
(2020年公演舞台写真撮影:田中亜紀)
星と炭鉱夫とビリー
訳詞をしながら、この作品は歌詞が全体にわたって絶妙に計算されていることを感じました。
例えば一曲目〈The Stars Look Down(星は見ている)〉で炭鉱夫たちは夜空の星たちが行くべき道へと導いてくれると信じ、仰ぎ見ます。つまり自分たちは星に照らされる存在と捉えているわけです。
一方、この曲中でビリーだけは「僕を抱き上げて〜いつか飛べるさ」と、自分自身が星に向かって飛翔しようとします。炭鉱夫たちと逆に、星のように人々を照らす高みを目指すビリー。またこの“星”は、お父さんがトニーと言い争う〈He Could Go and Shine(あいつには輝く道がある)〉での「輝くあの星に あいつは なれるかも」の“星”を示唆しています。また、ビリーのフレーズは、オールダー・ビリーと踊る〈Swan Lake Pas de Deux(スワン・レイク・パドドゥ)〉で高く舞い上がることにも重なるようです。ラストナンバー〈Once We Were Kings(過ぎし日の王様)〉は〈The Stars Look Down〉と対の曲でもあり、未来へと高く舞い上がったビリーに対し、炭鉱夫たちは「冷たい地の底へと 我ら共にいざ行こう」と再び地中へと降りていく。考え抜かれた構成になっています。
日本語にはない感覚“Love you”
〈The Letter(手紙)〉は、亡くなったお母さんが、ビリーが18歳になってから読むようにと遺した手紙だと、演出補のサイモンから言われました。特に最後の歌詞「Love you forever」の“Love you”はものすごく日常的な言葉なので、特別な表現にしないようにとのリクエストがありました。“Love you”は電話を切る時、“じゃあね、またね”と言う感覚。その日常的な言葉に、お母さんは最後の手紙だから“forever”をつけたのだと。日本語で“愛”と言うと、どうしても特別感が出てしまうので、何パターンも考えて、最終的に「いつまでも」という表現に落ち着きました。
ちなみにこの“forever”は〈Solidarity(団結を永遠に)〉のサビの歌詞「Solidarity forever(団結だ 永遠に)」に繋がっています。家族や炭鉱の人々の人間関係が“forever”に表れている気がします。
石炭に対して「電気」は未来を表す
〈Electricity(電気のように)〉はサイモンから、「この曲は旅です」と説明を受けました。ビリーが踊っている時にどういう状態になるのか、何を感じているのかを発見するまでの旅で、一行ごとに段階があり、最終的に電気を発見し、自由へとたどり着きます。
最初は“Electricity”という単語、“電気”と訳していませんでした。詞にするには語感が強いように思えたからです。すると、サイモンが「“電気”という言葉を使ってください。この“電気”という言葉は“石炭”に対して使われている言葉で、時代の変遷も表しているので」と。それを知った上でロンドン版の映像を改めて見たら、作品がとても深く広がって見えました。
ビリーが行き着く“自由(Free)”という言葉も、〈Grandma’s Song(おばあちゃんの歌)〉〈Expressing Yourself(自分を表現しよう)〉〈Once We Were Kings〉など、この作品に多用されているのも興味深いところです。
この再演に関して思うのは、今もまさに、かつての当たり前が当たり前ではなくなっているし、このコロナ禍を過ぎた後は、私たちの愛したものがいくつも失われているのかもしれません。けれど、それでもあの炭鉱夫たちのように、自分らしく、誇り高く生きることの素晴らしさを感じていただければと思います。
\期間限定公開中!2020年公演舞台映像/
2024年公演概要
作品名 | Daiwa House presents ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』 |
期間 | 【東京公演】 オープニング公演:2024年7月27日(土)~8月1日(木) 本公演:2024年8月2日(金)~10月26日(土) 【大阪公演】 2024年11月9日(土)~24日(日) |
会場 | 【東京公演】東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場) / ▼座席表 【大阪公演】SkyシアターMBS |
チケット料金 | 【東京公演】 S席:平日¥15,000/土日祝¥15,500 A席:平日¥12,000/土日祝¥12,500 B席:平日¥ 9,000/土日祝¥ 9,500 Yシート:¥ 2,000(期間限定販売・20歳以下対象チケット)※ホリプロステージのみ取扱 【大阪公演】 S席:平日¥15,000/土日祝¥15,500 U-25:平日¥12,000/土日祝¥12,500 チケット販売詳細>> |
作品HP | https://horipro-stage.jp/stage/billyelliot2024/ |