ねじまきレポート⑥/レポーター:遠藤玲奈
言語の壁を越えた共同作業
【はじめに】
株式会社ホリプロから“ねじまきレポーター”に任命され、『ねじまき鳥クロニクル』の稽古を見学しました。芝居は生ものだとよく言いますが、それは稽古の段階でも言えることで、稽古場で色々な物事が徐々につくられていく様子を見ることができました。この点について、興味深いと思ったことを場面ごとに書いていきたいと思います。
【井戸の場面】
まず見学したのは、井戸の中で考え事をしている岡田トオルに対して、笠原メイが上から話しかける場面です。トオルを演じる役者は成河さんと渡辺大知さんの二人ですが、ダブルキャストではないと聞いていたので、どのように演じ分けられるのか、気になっていました。この場面では、二人の役者が手足を絡めて、二人一組でトオルを演じていました。その状態から、少しずつ離れていったり、上半身を起こしたりするので、スムーズな体の動きを含めた演技は難しいことだろうと想像しました。
役者を動かす演出家は英語で話し、稽古場には通訳がいました。体の動きや向きについては、どの言語でも説明するのが難しいと思いますが、きちんと指示していた演出家と通訳の言葉の力に感銘を受けました。また、役者は台本を手放しているので、その場でメモを取ることはできず、稽古場で決まった動きは体で覚えるしかありません。役者の技量にも感動しました。
トオルを演じる二人の役者のうち、どちらがどの台詞を言うかについては、台本の時点で指定されているとのことでした。しかし、動きは稽古場で決めていくそうです。稽古場から演劇が生み出されるということを、肌で感じることができました。役者たちが真剣に、なおかつ和やかな雰囲気で取り組んでいたことが印象的でした。
【休憩時間】
15分間の休憩中には、スタッフの手で舞台セットが直されていました。ここでも、演劇をつくり上げていく様子を見て取ることができました。また、先ほどの場面に出ていた三人の役者は、自主練習に励んでいました。役者たちの熱が伝わってきました。
【衣裳合わせ】
ダンサーの衣裳合わせも見学することができました。衣裳を身につけたダンサーは、実際に踊ってみて、それをもとに丈やレイヤーがその場で調整されていきました。それを見て、本番の衣裳はまた少し違うものになるかもしれないと思ったので、稽古場での衣裳合わせを見ることができたのは貴重な機会だと思いました。
【トオルとクミコが話す場面】
次に見学したのは、トオルとクミコが電話で話す場面です。原作ではコンピューターを使って会話をする場面ですが、今回の上演では電話での会話に変更されています。トオルとクミコが台詞を言い演技をする他、ダンサーが壁を動かして空間のゆがみを表現していました。
場面のはじめに電話が鳴り、トオルはそれを取ろうとしますが、体が言うことを聞かず、なかなか取ることができません。トオルが格闘する様子を、演出家は自ら実演して見せながら指示していました。ダンスとまではいかないにしても、しっかりと決められた動きが求められるということで、イメージを伝える演出家も、それを体現する役者も、見事だと思いました。本作品の上演言語は日本語ですが、演出家用に英語の台本も用意されていました。役者がどの台詞を言っているのか、通訳が入り、言語の壁を越えた共同作業に感服しました。
トオルが電話に苦労する様子は、動きの大きさのためにコミカルにも見えますが、電話に出た後の声のトーンは落ち着いていて、同時に緊張感も帯びていて、舞台上の雰囲気が一気に変わったと思いました。稽古の段階から、役者の素晴らしさを感じました。
トオルとクミコが話をしている間、ダンサーは壁を動かして空間のゆがみを表現し、それから舞台上で踊ります。それを見て、ダンサーの動きはもちろん、舞台セットが印象的だと思いました。今回は再演ということで、舞台セットは仮のものではなく、既に出来上がったものでした。舞台には傾斜がついていて、舞台奥の床が高くなっていました。このような舞台を八百屋舞台と呼ぶそうです。観客にとって見えやすくなる効果があり、この作品においては表現の幅が広がるという効果も期待されます。今回はキャットウォークから稽古を見学しました。上から見ていると、舞台の傾斜は目立たないのですが、役者やダンサーの動きを見ると、転がったり、重力に任せて動いたりしていたので、意外と傾斜があるのだと気付きました。足元の不安定さは、動かせる壁と相まって、トオルの動揺や、あいまいな世界を表現しているのかもしれないと思いました。
【おわりに】
稽古場見学を通して、作品づくりの過程を間近で見ることができました。役者の動きや演技だけでなく、セットや衣裳の調整も含めて、創作の様子を見ることができて良かったです。本番では、劇場で上演されるものが、一つの完成形として観客に受け止められます。しかし、今回の稽古見学を経て、その完成形が出来上がるまでのことを知ったり、想像したりすることは楽しいと思いました。これから観劇する時には、劇場で起こることをしっかりと受け取った上で、その前の段階にも思いを馳せてみようと思いました。
1. I was appointed as a reporter by HoriPro Inc., and I had a chance to visit and see a rehearsal for The Wind-Up Bird Chronicle, a stage adaptation of a novel by Haruki Murakami. I enjoyed seeing how the company created the production step by step.
2. First, they showed me a scene when Toru Okada, a protagonist, contemplates in a well and Mei Kasahara talks to him from above the well. Toru is played by two actors: Songha and Daichi Watanabe. However, the casting is not on a daily rotating basis. They play a single role in turn, or simultaneously, to express the equivocalness of Toru. In this scene, they appear on stage together and play Toru by intertwining their limbs. Then they get separated gradually, so I imagined how hard it would be for them to move smoothly.
The director spoke to Japanese-speaking actors in English through a translator. It is difficult to explain how to move and turn one’s body in either language, but both the director and the translator did it well. I also admired actors, who do not have a script with them and have to remember what the director says without writing it down.
An action is suggested, carried out and fixed in a rehearsal. During this process, the actors earnestly and amiably worked on a rehearsal.
3. During a 15-minute break, staff members fixed the stage set. Again, I actually felt the production coming to life. Also, the two actors who play Toru and the actor who plays Mei reviewed the previous scene. I perceived these actors’ earnestness.
4. After the break, they showed me costume coordination for dancers. Dancers tried dancing with their costumes, and then the length and shape of the costumes were adjusted. By seeing such a process, I thought the costumes might be changed again, so it was a rare opportunity to see them at this point.
5. Next, they showed me a scene when Toru and Kumiko, his wife, talk on the phone. In the novel by Murakami, they communicate through computers, but the change was made to make a stage production. While Toru and Kumiko are talking, dancers move the walls surrounding them to express a distorted world.
At the beginning of the scene, Toru tries to answer the phone, but he can’t because his body doesn’t move in the way he wants. In a rehearsal, the director showed how he struggles by acting by herself. Although it was not as much as dancing, she as a director and choreographer asked for a particular action and the actor responded to it. I felt good communication between them beyond the barrier of different languages.
Toru’s struggle seems to be somewhat comical, but when he finally answers the phone, his voice sounds calm, serious and nervous. I was amazed at the actor’s versatility.
While Toru and Kumiko are talking, dancers move walls, and then they dance. Seeing this part of the scene, I found the stage set impressive. In this production, there is a raked stage, which makes it easier for audiences to see what’s happening on the stage. I supposed the raked stage was also effective in expressing an unstable world along with the movable walls when I saw dancers rolling with gravity.
6. Through the rehearsal, I saw the process closely where the company created the production, such as actors’ and dancers’ practice on action and choreography, adjustment of costumes and stage sets by staff members, and so on. When performed at a theatre, what audiences see is a kind of finalized version of a production. However, by seeing the rehearsal, I noticed it is interesting to know or imagine the process before the finalized one. From now on, I can enjoy any productions, including The Wind-Up Bird Chronicle and also other stage performances, twice: by experiencing them at a theatre and by thinking about the handmade process in a rehearsal.
作品名 | 舞台『ねじまき鳥クロニクル』 |
期間 | 2023年11月7日(火)~11月26日(日) |
会場 | 東京芸術劇場プレイハウス / ▼座席表 |
上演時間 | 1幕90分/休憩15分/2幕75分(計3時間)予定 |
チケット料金 | S席:平日10,800円/土日祝11,800円 サイドシート:共通8,500円 U-25(25歳以下限定):6,500円 (全席指定・税込) |
ツアー公演 | 大阪、愛知 |
作品HP | https://horipro-stage.jp/stage/nejimaki2023/ |