ねじまきレポート⑤/レポーター:北澤和也

舞台について語るときに

真の村上主義者は、原作が舞台化されても観に行かない一

というのは真っ赤な嘘だ。私が村上さんのエッセイから一文をもじらせていただいた。

結論からお話すると、原作を読んだ方には舞台を是非観ていただきたい。これ、絶対おもしろいやつ!である。これまで文章(自分の感覚)で読んでいた内容に動きと音が加わることにより、当然ではあるがよりリアルに感じることができるようになる。
勿論、原作を読んだことがない方にも舞台を観ていただきたい。一つの作品として、役者の皆さんの演技、ダンス、演奏、舞台のセット、全てを楽しめるはずである(舞台稽古では演奏を聴くことはできなかったため、あくまで推測。あの空間に素敵な演奏が加わったら…と期待してしまう)。

2020年舞台写真/撮影:田中亜紀

私自身は真の村上主義者であるため、舞台は観に行く予定がなかった。
株式会社ホリプロから“ねじまきレポーター”に任命されて、舞台稽古を観せていただくまでは。

これから記載する内容は、これまでに舞台を一度も観たことがない、ごく普通の会社員が、舞台稽古を初めて拝見して感じたことである。私が記載した内容をご覧になっていただき、一人でも多くの方が「お、観てみようかな」と思っていただけたら、これ以上の喜びはない。

まずは一番最初に観せていただいたシーン。
門脇麦さん演じる笠原メイが井戸の中にいるトオルに対して、死について語りかけるシーンに圧倒された。なんだろう、原作を読んだときよりも一言一言がずっしりと身体に覆い被さってくる。
音で表現すると「ビリッ、ビリッ、ビリッ。グサッ、グサッ、グサッ」「(ゆっくりと)くねっ、くねくね、くね、くね…はらり」こんな感じ。
色にすると、濃い緑と黒に、光のような輝きが差し込む感じ。

後で原作を読み返してみたが、セリフが若干原作のままではなかったように思える。でもそれに気づかないくらい、門脇麦さんが発する声の重みが強かった。一番最初のシーンで、個人的にはこの日一番圧巻された。
そしてもう一つ驚いたことは(舞台では普通のことかもしれないが)、演技が緻密であるということ。トオルのアクションについて、これでもかと言うまで演出の方が指導をして、本人たちも動作を何度も確認をしていた。え、ここまでするの?そんなに細かい部分までこだわるの?本番はその場の流れで動くものじゃないの?その言葉に尽きる(素人的な考えかもしれないが)。

続いて二番目のシーン。
成河さんがアクションでトオルの心情を表現する。
音で表現すると「ドンドン、うーん、ドンドン、う、う、うーん、はぁはぁ、ドンドン、うーーーん、はい!」音にするとこんな感じ。
色にすると、黒から白に反転する感じ。
言葉がなくても身体の動きと音だけでここまで表現できること、観客側も同じ空気を味わえることに驚いた。あれ?原作読んだときと自分のイメージは違ったかも。そうだとしても引き込まれていることに間違いはない。
今度はそこにはダンサーの皆さんが加わる。音で表現すると「(静かなタッチで)スッ、トン、トン、ターン、トントン、スッ」こんな感じ。
色にすると、濃い緑がグルグルしている感じ。

ここで感じたのは、アクションが凄いということ。何が凄いって、一人ひとりがご自身の強みを表現しつつ、全体でまとまりのある表現になっている。このときはまだ未完成だと思うが…これが完成したときは、どんな衝撃を受けるのだろうか?

舞台を見学させていただく中で、後で気づいたことだが、舞台には結構な傾斜がある。この傾斜が観客に対して、視覚的にリアルさを感じさせている要因の一つだと思われる。それにしても…この傾斜で皆さんが演技しているが、見た目以上にかなりハードなはずである。息切れしていない様子を見ると、皆さん体力がありすぎる。
このシーン見て思ったのは「舞台とは、頭(想像力と記憶力)と身体を使うスポーツだ」ということである。

最後に三番目のシーン。
トオルとマルタが初めて出会う。

音で表現すると「ピーン、ふっ、ピーン」、こんな感じ。緊張感の中に、何か異次元なものを感じる。これはマルタ特有の雰囲気から発せられるもの?
色にすると、白と黒。対比。
ここでは静かな雰囲気の中でピリッとするシーンである。原作と比較して、あれ?こんな感じだっけ?と思ったが、演出内容について教えていただいたところ、比喩を表現するためにとあるものが登場しているとのこと。確かに、そういうことか!と後々納得。二番目のシーンでもあったが、小説を舞台で表現するために、原作とは違った視点からアプローチを行って比喩を表現しているのかもしれない。もしかして他にも沢山出てくるのでは…?

原作を読んでいる方は、事前に「このシーンが使われるかな」「原作ではこうだけれども、舞台で表現するとどうなるかな」ということを見立てながら観てみるのも面白いかもしれない。

最後にまとめると、繰り返しにはなるが、これ、絶対に観たほうがいいやつ!である。原作との対比を楽しみつつ、原作とは別物として楽しむのもありでは?と思った。
実際に本番を観てどう感じるのだろうか。やれやれ。

作品名舞台『ねじまき鳥クロニクル』
期間2023年11月7日(火)~11月26日(日)
会場東京芸術劇場プレイハウス / ▼座席表
上演時間1幕90分/休憩15分/2幕75分(計3時間)予定
チケット料金S席:平日10,800円/土日祝11,800円
サイドシート:共通8,500円
U-25(25歳以下限定):6,500円
(全席指定・税込)
ツアー公演大阪、愛知
作品HPhttps://horipro-stage.jp/stage/nejimaki2023/

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