ねじまきレポート③/レポーター:さんふら

特に注目したのは「インバルさんの舞台の作り方」

この日見学したのは、“特に踊る”方々のダンスの稽古です。プールのシーンとホテルのシーンの2つを見ることができたので、その様子を稽古場の雰囲気とともに分かりやすくお伝えできればと思います。

稽古場に入って目に飛び込んできたのは大きなセット。今回は再演のため、初演で使用したセットをそのまま稽古場に持ってきて使用しているそうです。より舞台感が増して気持ちが高まります。では早速、稽古をしている様子を見ていきたいと思います。

まずはプールのシーンから。今回は再演ですが、このシーンは今回の公演のために一から新しくしたシーンだそうです。はしごが付いているプールサイドを模したセットを使って、プールサイドと水中とを表現していきます。ねじまき鳥クロニクルでは、「水」が大きなキーワードとなっていますが、舞台上では水なしで、踊りのみでプールを表現する必要があります。はしごの降り方や足を開いて移動する角度まで細かく稽古していきます。踊る方々それぞれが異なる動きでプールを表現していたことが印象的でした。また、はしごを降りる動きひとつとっても違う形で表現していたり、ねじのような動きも取り入れられていたり・・・と表現の幅広さに驚かされました。一連の流れを確認しようと通しを始めようとすると、今日は予定には入っていなかったものの、稽古場に来ていた渡辺大知さんもここに参加!音声に合わせて通しをやる中、歌を口ずさむ姿も見ることができました。渡辺さんのように、稽古のない日でも稽古場に訪れる出演者の方は多いそうです。

2,3時間ほど使って丁寧に仕上げた後は、ドアが上手側、下手側にそれぞれ5つ付いたセットを使ってホテルでのシーンをつくっていきます。このシーンには台本がありません。どうやってこのドアをダンスに使っていくのかと見ていると、ドアからの出入りと舞台上の空間で表現していきます。バラバラな動きであるのにもかかわらず、一人が踊りの中でドアを開けると同時に別の方がそのドアから舞台上に入ってきたり、ドアとドアの間の隙間を通り過ぎたりするため、タイミングがとても重要なシーンです。また、ドアの一つ一つが稼働式のセットになっており、これも踊る方々自らで移動させていました。このシーンは間違いなく踊る方々の中での信頼関係が出来上がっているからこそできるものだと感じました。踊る方々はなんと25cm程のドアの隙間を通っているそうです。何人かの出演者の方も隙間を通ることにチャレンジしており、和気あいあいとしたカンパニーの様子が見られました。また、出演者の方が稽古場にいらっしゃると、この公演の演出・振付・美術であるインバルさんが、「How are you~?」と声をかけていらっしゃいました。こういった雰囲気が、カンパニー内の信頼を高め、良い作品作りにつながっているのだと思いました。

稽古を通して特に注目したところは、インバルさんの舞台の作り方です。一人ずつ、あるいは一パートずつそれぞれに指導し、自らも手本を見せたり、一緒に踊ったりする姿に驚きました。踊る全員を一度に指導するのだと思っていましたが、インバルさんは一つの動きに対して一人ずつに名前を呼んでアドバイスをしながら丁寧に振付をしていました。一人ずつで指導を行ったとしても、全員でやるとうまくまとまるので、頭の中に全体のイメージがしっかりあるのだと感じました。また、うまくいかない際には、「こんな選択肢もあるのだけど。」といくつかの選択肢を示し、実際に試すことで、最初のものとは全く違っていても、よりよいものになった瞬間を見て、インバルさんの柔軟性もこの作品を作る大切な要素なのだと感じました。

原作の作者である村上春樹さんの作品は独特で不思議な世界観があるため、どのように舞台上で表現をするのかとても気になっていました。稽古場を見学してみて、インバルさんの舞台の作り方のおかげで、独立した動きを統一されたものに、そしてその中に異質さも感じさせるような表現を可能にしており、村上春樹作品ならではの不思議な世界観を、繊細で忠実に表現することができるのだと感じました。

今回見させていただいたシーンは、衣装や照明などもつくとより素晴らしいものになっているのではないかと思います。気になった方は是非劇場に足を運んでいただき、舞台『ねじまき鳥クロニクル』の世界観を存分に味わっていただきたいです。

作品名舞台『ねじまき鳥クロニクル』
期間2023年11月7日(火)~11月26日(日)
会場東京芸術劇場プレイハウス / ▼座席表
上演時間1幕90分/休憩15分/2幕75分(計3時間)予定
チケット料金S席:平日10,800円/土日祝11,800円
サイドシート:共通8,500円
U-25(25歳以下限定):6,500円
(全席指定・税込)
ツアー公演大阪、愛知
作品HPhttps://horipro-stage.jp/stage/nejimaki2023/

PICK UP CONTENTS