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村上春樹による小説「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」が2026年1月、世界で初めて舞台化されます。
その舞台化に先駆けて、本作に出演を予定している富田望生さん(“ハードボイルド・ワンダーランド”のピンクの女役)と駒木根葵汰さん(“世界の終り”の僕役※島村龍乃介さんとのWキャスト)による原作小説の朗読会が11月5日、開催されました。
イベントでは、原作小説の朗読のほか、富田さんと駒木根さんによるトークも披露されました。司会は、原作「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を出版した新潮社で村上春樹さんを担当する編集者・寺島哲也さん。イベントの様子を写真と共にお伝えします。
(取材・文:五月女菜穂/撮影:板場俊)
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村上春樹ライブラリーで、原作小説を朗読

会場となったのは、早稲田大学国際文学館。通称、村上春樹ライブラリー。同館は2021年10月に開館し、早稲田大学出身の作家・村上春樹さんから寄託・寄贈された小説、エッセイなどの執筆関係資料や、海外で翻訳された膨大な著作、レコードコレクションなどを保管、公開しています。
寺島さん:世界で唯一無二の空間です。建物は、村上文学の愛読者である隈研吾さんが村上ワールドを構想して作りました。「ライブラリーに表現されたパラレルワールドを楽しんでほしい」と、隈さんは語っています。建物の外壁に作られた、波打っている木製の庇(ひさし)は、トンネルの中に入ったような階段の本棚とともに、非常に特徴的です。
隈さんはこうも言っています。「春樹さんは小説を通じて、普通の世界に穴を開けてくれる。何でもない小さなドアを開けると、読者は突然別の世界に迷い込んでしまう。外壁の儚い庇は、時空のねじれの表象であり、庇によって実体的世界と非実体的世界がパラレルにそこに出現する」……。今ここにいる皆さんは、まさに村上ワールドの空間にいるということです。
夜ですから、「やみくろ」が息をひそめていたり、どこかに本物の「一角獣」が現れるかもしれません(笑)。
この日は村上春樹ライブラリーの地下1階スペースと階段スペースでイベントが行われ、およそ66人のオーディエンスが来場しました。観客との距離が近かったこともあり、富田さんも駒木根さんもやや緊張しているご様子。

駒木根さん:僕はこの作品で初めて舞台に出演します。人前で何かをする経験があまりなく、しかも得意なタイプでもないので、こうしてお客さんと同じ目線の高さにいることにドキドキしています。一歩ずつ下がってもらいたいぐらい(笑)。でも、こういう機会もなかなかないので、一瞬一瞬を噛み締めながら大切にしていきたいです。
富田さん:普段は黙読するので、小説を声に出して読む機会はないですよね。新しい経験をさせていただいているなと思いながら、自宅で声を出して読んでいました。……これから私が読む部分にも、私が演じるピンクの女が出てきます。演じる側からすると、どうしてもピンクの女の目線になってしまうのですが、今回はまだお稽古に入る前なので、私自身としてフラットに読みたいなと思っています。
「The End Of The World」というSkeeter Davis(スキータ・デイヴィス)の曲とともに、小説の冒頭「太陽はなぜ今も輝きつづけるのか/鳥たちはなぜ唄いつづけるのか/彼らは知らないのだろうか/世界がもう終ってしまったことを」という朗読がなされました。
富田さんが第1章「ハードボイルド・ワンダーランドーエレベーター、無音、肥満ー」、駒木根さんが第2章「世界の終りー金色の獣ー」、続いて、富田さんが第17章「ハードボイルド・ワンダーランドー世界の終り、チャーリー・パーカー、時限爆弾ー」、駒木根さんが第36章「世界の終りー手風琴ー」から抜粋された箇所を朗読しました。静まり返った空間に響く、2人の声。観客はその紡がれる言葉から世界を想像していきました。


朗読を終えた感想は?演出家の印象は?2人にとってのパラレルワールドとは?
朗読を終えた2人に感想を聞きました。
富田さん:読んでいる私も聴いてくださっている皆さんも、言葉と音にただただ身を預ける空間。緊張しましたが、すごく心地のいい空間でした。
駒木根さん:正直、僕はそんなことを考える暇もなかったです。1つ読み間違えたら、パニックになってしまって、自分がどこの世界にいるのか分からなくなりました(笑)
富田さん:でもとても優しいお声でしたよ。……舞台作品は本読み稽古から始まっていろいろ組み立てていくわけですが、稽古の中でゆっくり変わっていくものもあれば、目まぐるしく変わっていくこともあって。それが舞台の面白いところだと思います。今回のように声も何も知らない状態の中で、まず朗読でご一緒できたのは、貴重な時間でした。
駒木根さん:そうですね。僕は富田さんのテンポ感が好きでした。僕はどうしても「読もう」としてしまったんですけど、富田さんはすごくなだらかで、肩に力が入っていない感じで。目を閉じて聴いている方もいらっしゃいましたが、僕も途中目を閉じて聴きたくなるぐらい。すごく心地のいい声でした。
今回の舞台の演出・振付を手掛けるのは、フランスを代表する世界的アーティストであるフィリップ・ドゥクフレさん。31歳でアルベールビル冬季オリンピック開・閉会式を演出し、サーカスと映像トリック、ダンスとが交錯する奇想天外な手法で世界を驚かせた人物です。ドゥクフレさんについてや、稽古に向けての期待感について、2人に尋ねるとーー。
駒木根さん:ドゥクフレさんは、目が格好いい。純粋さやパッションを感じました。お話はフランス語と英語が入り混じっていて……とりあえず僕は何に対しても「はい」と熱い返事をしていました(笑)
富田さん:ドゥクフレさんに『僕はダンサーだから身体表現を求めるけど、君は踊れるかい?』と言われて、ますます楽しみだなと思って!舞台はナマモノ。板の上で身体表現含めて、視覚、聴覚、いろいろなものが研ぎ澄まされる時間になるだろうなと思うと、自分がやる以前にすごくワクワクしました!
駒木根:僕は何も分からないので、稽古に何を持っていったらいいのかということから聞いて……。まず台本と、筆記用具と、着替え、室内履き、軽食を持っていった方がいいと言われました(笑)。今日の朗読会も含めて、これから始まるんだなという実感がいよいよ出てきました。
ちなみにトークを重ねる中で、富田さんと駒木根さんが同い年であることが発覚。駒木根さんは「同世代の方もいて、心強いです」と話していました。

小説のテーマである「パラレルワールド」に関連して、2人の「パラレルワールド」に関する質問も。すると2人の口からは意外なエピソードが……!
富田さん:特定の匂いを嗅ぐと、と小説の中にも出ていますが、私はそれが特定の匂いなのか分かりませんが、途端に究極のデジャブが起こることがあって。遠い昔に感じたことがあって、この先どうなるかが瞬時に見えてしまうような感覚に至ることが小さい頃から結構あります。それから、他の人からは見えないカンちゃんというお友達がいて、母親にご飯を用意してもらったりしていました。5歳のときにお別れしたんですけど、「カンちゃんは元の世界に戻った」と言っていたそうです。
駒木根さん:僕、幼い頃に幽体離脱ができたんです。生きるとか死ぬとか、そういうことを考えているときに、ふぅーっと息を吐くと、自分が自分でなくなってしまう感覚になって、「やばい、戻らないと」と思うと戻る。それで「死ぬ怖さ」みたいなことを感じたり、「魂と自分の体」を漠然と感じたりするようになったんです。



「私の中での正解を見つけたい」「まずは自分が後悔しないように」
最後に、舞台の意気込みを尋ねました。
富田さん:本当に楽しみです。一刻一刻と、この物語と私自身が出会う瞬間が近づいていると思うとすごく楽しみです。小説を読んでも、私の中で世界に対する概念とか哲学とか、人に対する愛の概念とか、知らなかった扉が開けられたり、その扉だけが見えてきたりして……いざその世界へ入っていくんだなと思って、とにかく私は今楽しみで仕方ありません。
小説を読んでも、上演台本を読んでも、私の中でもピンクの女に対して分からない部分がまだまだ多くて。そのわからない部分に決まった正解があるとも思っていないのですが、でも私はその世界で生きる以上、私の中での正解を見つけたいなと思っている最中です。
この小説のすべてを表現することは、時間が決められている以上、なかなかないかもしれないけれど、流れている時間は同じだと思います。今、私の家には上演台本と小説を隣り合わせに置いているんですけど、小説を正解を求めるために読むのではなくて、何かのきっかけがあるのではないかと思いながら向き合っています。すごく貴重な経験だと思います。そういったことを繰り返しながら、もがきながら、常に楽しいな、面白いなと思いながら本番を迎えたい。ぜひ皆様、足をお運びいただけたら嬉しいです。頑張ります。

駒木根さん:僕は初舞台になりますが、こういう素晴らしい作品と素晴らしいチームに囲まれてできることが本当に光栄です。正直、自分がその舞台上に立っている姿を、まだなかなか想像ができないんですけれど、想像ができないからこそ、どんな風にもなれると思っています。
まだ本番まで時間があるので、まずは自分が後悔しないように、この作品としっかりと向き合って、チームのみんなともしっかりとコミュニケーションをとって、より良い作品に仕上げていきたいです。皆さんも期待して待ってくださったら嬉しいなと思います。また劇場でお会いできることを楽しみにしております。

公演は2026年1月10日(土)から東京芸術劇場プレイハウスで開幕し、宮城、愛知、兵庫、福岡で上演されます。

関連動画
▼プロモーションビデオ▼
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』YouTube再生リスト>>
https://youtube.com/playlist?list=PL-s10xE3SW0ZexC06f05vhT6qMZUiBFqO&si=39tlBKHeY99MhJuS
インタビュー記事公開中
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■“世界の終り”僕役にWキャストで出演決定!駒木根葵汰、島村龍乃介インタビュー/舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

| 作品名 | Sky presents 舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』 |
| 日程 | 2026年1月10日(土)~2月1日(日) |
| 会場 | 東京芸術劇場プレイハウス 座席表 |
| チケット情報 | ホリプロステージにて東京公演チケット絶賛販売中! チケット詳細はこちら>> |
| ツアー公演 | 宮城・愛知・兵庫・福岡公演あり |
| 作品HP | https://horipro-stage.jp/stage/sekainoowari2026/ |


