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ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』が2024年5月16日(木)から新国立劇場 中劇場で上演される。
ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』は、2001年にフランスで生まれ、世界20カ国以上で600万人以上を動員したメガヒット作品で、日本では小池修一郎演出により2010年に宝塚歌劇団によって初演。
その大反響を追い風に、翌11年に新たに誕生したのが、このミュージカル『ロミオ&ジュリエット』日本オリジナルバージョンだ。上演の度に大きな注目を集め、17年には演出を一新し更なる反響を得て、今回は21年以来3年ぶり6度目の上演となる。
今回、ジュリエット役に抜擢された吉柳咲良(奥田いろはとWキャスト)。2017年〜22年に『ピーター・パン』を演じていた印象が強い吉柳は、配役について自分でも「予想外」と話す。ただ、歌やミュージカルに懸ける思いは人一倍強い彼女。どんな風に作品と向き合っているのか。そしてラストティーンの今何を思うのか。話を聞いた。
(取材・文:五月女菜穂/撮影:番正しおり)
#ジュリエットは似ても似つかない存在だけれど
ーー本作への出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
私は前回の『ロミオ&ジュリエット』(2021)を観ていて、そのときに楽曲が素晴らしくて、大好きな作品となりました。
2021年上演『ロミオ&ジュリエット』左)伊原六花、右)黒羽麻璃央/©︎岡本隆史、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』2021公演事務局
物語としても、ジュリエットとロミオが出会ってから終わりまで、本当に短い期間に起こる出来事を描いているわけですが、そのすべてのことに入り込んでしまいました。
若さゆえに突っ走ってしまう2人のことを応援したい気持ちと、「そうなってしまってはダメ」と思うもどかしい気持ちとが入り混じって……観終わった後に「すごくよかった」と思った記憶があります。
「自分もあの歌を歌いたい!」と思っていたところ、オーディションを受ける機会をいただいて。それはとても嬉しかったですね。
でも正直、自信は全然ありませんでした。私の中にあるジュリエット像がまだ曖昧だったし、ジュリエットと自分は似ても似つかない存在だと思っていたから。オーディションではとても緊張してしまい、あまり手応えがなかったので、出演が決まったときは予想外で「え?本当に?」と何度も聞き返してしまいました。
ーー段々と出演する喜びを感じているのでしょうか?
そうですね。「あの楽曲を歌えるんだ!」という喜びがあります。
でもジュリエットは可憐なお嬢様で、私にはない部分をたくさん持っている子なので、自分がどうジュリエットを演じていくかはまだまだこれから研究が必要で。もともと私は長く『ピーター・パン』を演じてきて、私自身の素は、年齢も性別も違うけれどピーターの方が近いところが多いんです。だから、試行錯誤をしている最中ですね。
ーー作品をご覧になって、1番印象に残っているのは楽曲ですか?
そうですね。特に私が好きな楽曲は「エメ」。やはり「エメ」はこの作品の代表的な曲ですし、カラオケで 1人で歌うぐらいに好きな1曲です。早く稽古場で「エメ」を歌いたくて、ワクワクしています(笑)。あの場面は本当に愛を誓うシーンというか、ジュリエットとロミオが大人になって覚悟を1つ決める瞬間じゃないですか。あの曲で1幕を終えるのがすごく素敵ですよね。
それから「ひばりの歌声」もとても好きです。お互いにあんなに近くで思い合いながらも、行かなきゃいけない。切なさともどかしさがあって、愛が溢れていて。私はあのシーンを観ると、すごく苦しい気持ちになるのと同時に、純粋にまっすぐに愛し合っている気持ちが羨ましくもなります。
ーージュリエット役のWキャストは奥田いろはさん。印象を教えてください。
いろははすごく可愛いんです。初めてお会いしたのは昨年末の歌稽古のときで、ご挨拶程度だったんですけど、先日のビジュアル撮影のときに「なんて呼んだらいいですか?」と話しかけてくれて。「何でもいいよ」と返したら「さく姉と呼んでいいですか」と(笑)。もう可愛くてしょうがないですよね。その瞬間から「私はあの子を守り抜く」とロミオのように決めました(笑)。
一方で、芯がしっかりあって、内に秘めている強さもどこか感じられるんです。まっすぐでピュアで心優しい子だけど、どこかに強さみたいなものを感じるので、私は一目見たときからジュリエットらしさを感じました。だからいろはがジュリエット役に選ばれた理由、すごく分かります。
ーー同じ舞台に立つわけではないですが、一緒に役を作っていくパートナーとしては信頼できる存在なのですね。
そうですね。可愛らしい年下っぽさはありますけど、 私が何かをしてあげる必要なんて全然なくて、1人でどんどん新しいことに挑戦していけるんでしょうね。切磋琢磨して、互いにない部分を補って支え合っていきたいです。私自身も色々と勉強になる部分がたくさんあると思っています。
ーーロミオ役のお二人についてはどうですか?
お二人ともめちゃくちゃ面白いです。
まず小関さんは以前一度ご挨拶したことがあったのですが、その際は色々お話したわけではなかったので、今回改めてご挨拶させていただきました。小関さんがまとうオーラや雰囲気は、人を温かくしてくれるというか、安心感を感じるというか、すごく優しいじゃないですか。だから安心して飛び込める。役を演じる上でも、色々と相談ができそうだなと頼りにしています。
そして、岡宮さんはツッコミが鋭くて、すごく面白い人です。それに声が素敵で、聞き心地がいいなと思います。……実は岡宮さんと私、誕生日が1日違いなんですね。それが分かったときに「もうマブじゃん」なんて話して(笑)、ノリが最高です。
お二人ともすごく優しいし、明るいし、気さくに話してくださるし、稽古も楽しくやれそうな予感がしています。
#『ピーター・パン』は「心の支えだった」
ーーオーディションの際のエピソードで印象に残っていることを教えてください。
(演出の)小池さんに「吉柳さんは地に足がついているように見えますが、ジュリエットはもっと浮き足立ってバルコニーで歌っているタイプだと思う」と言われたことが印象に残っています。それから「ジュリエットって、水をみんなで飲みましょうとなった場合に、水が配られるのを待つ人なんです。吉柳さんは自分から水を配るタイプじゃないですか?」とも(笑)。
私は男の子っぽさというか、ピーター・パンっぽさがまだ若干捨て切れていないし、素の自分はそちら側にある人間なので、ジュリエットとしての細かい立ち振る舞いをご指摘いただいたんだと思います。まだジュリエット像みたいなものとかけ離れたところにいるけど、稽古の中で自分なりのジュリエットを見つけていければと思います。
ーー思えば、これまで吉柳さんは『デスノート THE MUSICAL』では栗山民也さん、『ピーター・パン』では藤田俊太郎さんや森新太郎さんと、名だたる演出家とタッグを組まれてきましたね。
2020年上演『デスノートTHE MUSICAL』弥海砂役:吉柳咲良/演出:栗山民也/(C)大場つぐみ・小畑健/集英社
2021年上演『ピーター・パン』ピーター・パン役:吉柳咲良/演出:藤田俊太郎/撮影:渡部孝弘
そうですね。私はビシバシ鍛えてもらった方がいいなと思っています。分からないことを分からないままにしておきたくないし、生半可なものを作りたくないので。
もちろん厳しいことを言われて、それに対してナイーブになったり、 悔しい思いをしたりすることもきっとあると思うんです。でも演出家の皆さんは絶対に私たちの為にならないことは言わないですから、そこは信じてついていきたいなと思っています。
……こう思えるようになったのは、森さんの演出を受けたことが大きいかな。『ピーター・パン』の稽古場で、「もう出来ない」と泣いたことがあったんですよ。そうしたら森さんに「お前が生半可なエネルギーで1度でもこの舞台に立ってみろ。誰もお前がピーター・パンだと思わないし、誰もこの舞台を観たいと思わない。絶対に1秒たりとも気を抜くな」と言われて。
私たちはお客さんがお金を払って観に来てくださっている以上のものをお返ししたいという気持ちがあるし、純粋にやっぱり楽しんでいただきたい。そのために、必ずその役である必要がある。一瞬でも気を抜くと、お客さんの心は離れてしまう。改めて森さんの言葉で気付かされたんですよね。
2021年上演『ピーター・パン』ピーター・パン役:吉柳咲良/演出:森新太郎/撮影:宮川舞子
ーー『ピーター・パン』に長年出演されてきましたが、やはりそのご経験は吉柳さんにとっても土台になっていると感じますか?
そうですね。あの経験は自分の中でとても大きいものだと思います。「ピーター・パンがある」という安心感があったからこそ、この仕事を続けてこれたなとも思うんですよね。やはり仕事がないとちょっと不安になったりしてしまうんですけど、「夏になればあそこに戻れる」と思って、自分を支えていたこともありました。
この仕事をしていると、どうしても実年齢より大人にならなきゃいけない瞬間というのがあって、必死に何かを我慢したり、何かを妥協したりしてきたんですけど、ピーター・パンという場所なら私は子どもに戻れた。心の支えになっていたなと思います。
本夏上演 ミュージカル『ピーター・パン』>>https://horipro-stage.jp/stage/peterpan/
#憧れの女優は変わらず石原さとみさん、高畑充希さん
ーー最近はテレビや映画など映像でも活躍されていますね。舞台でのお芝居と、映像でのお芝居に違いは感じられますか?
舞台だからもっと大袈裟に、映像だからナチュラルに、などとはあまり考えてないですし、そんなに大きな違いは感じていないです。
ただ私はミュージカルを長くやってきて、歌が芝居を助けてくれたり、歌が物語を引っ張ってくれたりすることを知っています。だからミュージカルの舞台に立つときは「歌」の力をとても感じます。それから、やはり生で感じるお客さんのエネルギーも大きい。それは舞台ならではだなと思います。
私は何よりも現場が好きなんだと思います。同じ作品を一緒に作っている人たちといる時間がすごく好きなんです。1つのゴールを目指して一緒に頑張っている人たちの存在は、とても励みになるし、いろいろな人のお芝居を間近で見て、すごく勉強にもなるので、映像も舞台もどちらも全力で頑張っていきたいですね。
ーー俳優業を始めた頃は石原さとみさんに憧れていた吉柳さん。それは今も変わりませんか?
2019年上演『アジアの女』左より)山内圭哉、吉田鋼太郎、石原さとみ/撮影:宮川舞子
はい!今も変わらず、さとみさんのような女優さんになりたいと思いますし、女優という職業でなかったとしても、さとみさんみたいな人になりたいと思うほど、人として尊敬しています。
ーー人としても俳優としても石原さんのようになりたい。でも全く同じというわけではなく、自分らしさを出していきたい。そう考えると、「ミュージカル」は吉柳さんの大きな強みになるのかもしれませんね。
そうかもしれませんね。私は歌がすごく好きで、歌を強みにしていきたいと思っています。
2012年上演『ピーター・パン』ピーター・パン役:高畑充希/撮影:渡部孝弘
ピーター・パンを演じられていた高畑充希さんにも憧れます。充希さんは歌がすごくお上手だし、「この人には敵わない」といつも思います。それに、私はいつも自分のことであっぷあっぷしてしまうのですが、充希さんはいつもフラットで頼もしいイメージがあって。
私もあんな風に舞台に堂々と立って、毎回120%の力を出し切れる女優さんになりたいです。
……いろいろな先輩方の素敵なところをいっぱい吸収して、自分だけの何かを探して磨き続けたいですね。
ーー吉柳さんは歌がお好きとお話しされていましたが、もともとはダンスを習っていたんですよね。
はい。仲がいい友達が習っていて、私もやりたいと思い、5歳か6歳かそれぐらいの頃からヒップホップを習っていました。親も「やりたいことがあるならとりあえず1回やってみなさい。あなたの人生だから」と応援してくれて。かなりのめり込みましたね。
私は音楽が好きだから、小さい頃から音楽に触れている時間が楽しかったんだと思います。だから、歌を本格的にやり始めたのは『ピーター・パン』への出演が決まってからですけど、昔からカラオケ好きの母に付き合ってカラオケに行ったり、車の中でも音楽をずっと流していたりしていたので、歌うことも大好きでしたよ。
ーー最近ではSNSで歌を配信されていますよね。歌うことのどんなところに魅力を感じていますか?
歌って、自分自身が楽器じゃないですか。自分の中で鳴る音がメロディーになっていくというだけですごく楽しいんです。
それから、歌詞に込められた意味を探って、それを表現するのも好き。自分自身と歌詞に込められた感情とをリンクさせて、歌えたら本当に楽しいなと思うんですよね。
#ラストティーンの今、思うこと
ーーもうすぐ20歳を迎えられますが、ラストティーンの心境は?
私は早く20歳になりたかった人間なんですが、いざ自分があと数日で20歳になると思うと、このままでいいのかなと思う部分がありますね。
10代のときは周りが助けてくれるのが当たり前の環境でした。もちろんそれに対して感謝の気持ちを忘れたことはないですけど、気づけばそれが当たり前になっていたところもあって。20歳になることで、もっと自分の責任が大きくなっていくことを自覚しないといけないなと思うんです。
20歳前後のときって、今後もこの仕事を続けていけるのか?と悩む年齢だと思うんですよ。私はこの先どうしていきたいんだろう?どういう気持ちで仕事に挑むんだろう?と。まだまだ考えが甘いところがあるので、20歳になるからには気持ちを入れ替えていく必要があると思いますし、これまで周囲に支えてもらった分、私もいずれ支えられる立場になれるようにもっと余裕を持って行動しないといけないなと思うんですよね。
ーー何かやり残したことはありますか?
うーん。やり残したことはあんまりないかもしれません。遊びにも時間をものすごく使ったし、反抗期もちゃんとあったし(笑)、家族との時間もちゃんととっていたし、いろんなことを経験させてもらっていたから。
ただ、仕事のことを考えない日はなかったな。それぐらい自分の中で切っても切り離せないものだったということだと思うんですが、それがちょっと切なくもあります。自分の中でストップがかかる瞬間がいつもあったし、できないことに対しての恐怖もしっかり感じてきたから、純粋に何も考えずにいれた時間が果たしてあったのか……。
でもそんなこともひっくるめて、すべてがいい経験だったと思いますし、これからもきっとこんな風に生きていくと思うので、やり残したことはないかな。
ーープライベートでの癒しの時間は?
私はカラオケがすごく好きなので、 リフレッシュといえばカラオケに行くことだったんですけど、舞台や歌の仕事の機会が増えて、自分で好き勝手に声を潰している場合ではなくなってきて……だいぶ行く機会が減りましたね。
その代わり、私はカフェに友達と行く機会を増やしてます。モーニングを一緒に食べたり、真面目なことを真面目な空気のまま話し込んだり。
そういう時間って有意義だなと思うし、 いろいろな話を共有できる相手がいることが何よりもリフレッシュになっていると思います。
ーー今後のキャリアの目標を教えてください。
女優としてこういうキャリアを積みたいとか、こういう賞を目指したいとか、そういう具体的な目標は明確にはまだなくて。
私は与えてもらった作品や役に対して、どれだけ真摯に向き合っていけるかを大切にしたいと思っています。それから、これまでたくさん周りの人に助けてもらったからこそ今があるし、支えがなければここにはいないので、その支えになってくれた人たちにどれだけ恩返しができるかも大事にしたい。きちんと感謝の気持ちを伝えていきたいですね。
ーーちなみに仕事の悩みはどなたに相談されることが多いですか?
同じ事務所で仲が良い子にもよく話しますし、母にもたまに話したりします。どちらかというと放任主義な母なのですが、「あなたの人生はあなたが決めること。辞めたいなら辞めればいいし、それでも続けるというのなら続ければいい。ただ、自分のやりたいこと/言いたいことがあるなら、それなりの努力と成果を見せなさい」とよく言われて。
言いたいことを言うことなんて誰にでもできるけど、それを何もできてない人が言ったらただのわがまま。それを意見としてちゃんと通すためには、頑張るしかないーー。そんなメッセージを心に刻みつつ、私が選んで始めたことだから、誠意を持って最後までやり切りたいなと思います。
ーーということは、今のところ、これからも俳優を続けていく覚悟がある。
はい。ここで辞めるのはすごく悔しい。なぜなら自分に負けた気がするから。私は何よりも自分に負けることが1番ムカつくし、それが1番許せないんです。
女優としてどんな最後を迎えるか、全然分からないですけど、いい気持ちで「もう私やりきったな」と思う日が来るまでは、納得いくまで、この仕事を辞めたいとは思わないです。
ーー最後に、ファンの方へのメッセージをお願いします!
私を知っている方々は『ピーター・パン』のイメージが強いからこそ「『ロミオ&ジュリエット』にジュリエット役で出るんですか?」と意外だったと思うんですね。でも、だからこそ観に来ていただきたい。「私、こっちもできるんです」と堂々と言いたいから。
本格的な稽古はまだ始まっていないですけど、切磋琢磨して、みんなで頑張っていけたらいいな。もうビシバシ鍛えていただいて、私は自分の納得いく形で舞台に立てるように頑張るだけです。意外性やギャップを感じに来てくれるだけでも面白いと思います!
何よりも皆さんに観にきていただけるのが心から嬉しくて、とても楽しみです。何回も練習したし、歌への情熱は人一倍あると思ってるので、「歌が上手くなったね」と皆さんに言ってもらえるように頑張ります!
【東京公演】
期間 | 2024年5月16日(木)~6月10日(月) |
会場 | 新国立劇場 中劇場 / ▼座席表 |
チケット料金 | S席:平日14,000円/土日祝・千穐楽(6/10)15,000円 A席:平日9,000円/土日祝・千穐楽(6/10)9,500円 |
チケット詳細 | https://horipro-stage.jp/rj2024/#tokyo |
【大阪公演】
期間 | 2024年7月3日(水)~7月15日(月・祝) |
会場 | 梅田芸術劇場メインホール / ▼座席表 |
チケット料金 | S席:平日14,000円/土日祝15,000円 A席:平日9,000円/土日祝9,500円 B席:平日5,500円/土日祝6,000円 |
チケット詳細 | https://horipro-stage.jp/rj2024/#osaka |
※ほか【愛知公演】2024年6月22日(土)・6月23日(日) 刈谷市総合文化センターにて上演いたします。ホリプロステージでのチケット取り扱いはございません。