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「“王である”ことを心に留めて挑む、三度目のリア王。」/彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.3『リア王』リア役 吉田鋼太郎にインタビュー
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「彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd」注目の第三弾は、『リア王』。本シリーズ芸術監督の吉田鋼太郎が、タイトルロールのリアを演じる。吉田が、シェイクスピア作品で主演を務めるのは9年ぶりとなる。シェイクスピアの最高傑作とも評される四大悲劇の一つである「リア王」への思い、今回の演出を託した長塚圭史と生み出す新たな「リア王」像についてなど、本作への意気込みを聞いた。

(取材・文:上野紀子)

01  ただの老人の悲劇ではない
02  一言で言うなら、“全編地獄絵図”。

ただの老人の悲劇ではない

――彩の国シェイクスピア・シリーズ2ndを発進され、その第3弾でいよいよタイトルロールを担いますね。『リア王』は過去にも演じていらっしゃるそうですが、今のご自身が挑む、その意識について伺いたいと思います。

『リア王』は過去に二度演じていまして、30代と40代の時でしたね。やはり若い時は多少年齢的な違和感があるなと思いながら演じていました。年齢を重ねてきた今なら、無理がない(笑)。つまり演じるにあたって、その役の気持ちが分からないとやり辛いわけですよ。『リア王』はまず、王の怒りから物語が急激に始まりますよね。一番愛している末娘が自分に対して望むことを言ってくれなかった、それで怒り出す。いくら何でも急に怒り出し過ぎでは!?と昔は思っていたんですよ。でも歳を取ると、すぐ名前が出て来なかったり、物を取り落としたりすることが本当に増えて来る。その度に自己嫌悪になり、こんなはずではなかった……といったストレスに襲われる。そうすると自然と怒りっぽくなるわけです。リア王はまず怒りから始まり、そこから怒りの塊となって風や嵐に立ち向かっていくわけで、そこは絶対にリアリティを持ってやらないと芝居が成立しない。そのリアルな感情は、今の自分なら無理なくやれそうでよかったな、これからかなという気持ちでいますね。

――今回の演出を手掛ける長塚圭史さんが、「リア王という役はとても演出と兼ねてやれるような、片手間に出来る役ではない。鋼太郎さんが自分に演出を託したことが理解出来る」とおっしゃっていました。

そうですね。憑依、没入しないと出来ない役ではあるなと思います。一つ心に留めているのが“王である”ということ。たとえば最近は現代に置き換える演出も見られますけど、絶対に替えの利かない、圧倒的に頂点にいる人が失位していく、その衝撃がリア王には重要なんですね。かつて戦争もして、いろんなものに立ち向かったであろう、たくさんの家来や市民を跪かせたであろう人。そのパワーを基本的に持っている人だということ。「風よ吹け!」と嵐に向かうシーンがありますが、それはただ怒りと悲しみを撒き散らしているのではなく、かつての自分はそれに立ち向かっていったけれども今はもう立ち向かえない。それでももう一度、立ち向かおうとして、でも出来ずに発狂しているわけです。その絶対的な王の威厳を考えずにやってしまうと、違う見え方になってしまうので。だから、ただの老人の悲劇ではない。

長塚君とは何度も一緒に作品づくりをしていますけど、彼の作品を見ていると、社会や人間の闇の部分を描き出すことに非常に長けている劇作家、演出家だなと感じるんですね。本人もそういう世界を好んでいると思うし、『リア王』という作品はダークサイドな出来事のオンパレードなので、ピッタリじゃないかなと。圭史君がどこまで『リア王』の闇の部分を突きつけてくれるのか、とても興味がありますね。

一言で言うなら、“全編地獄絵図”。

――共演には実力と華を併せ持つ方々が揃い、豪華な布陣となりました。長塚さんとのお話し合いのうえのキャスティングでしょうか。

藤原竜也君と石原さとみさんは僕のほうからお願いしました。ほかの方々はほぼ圭史君のキャスティングですね。竜也君は本人の希望でもあるんですよ、「エドガーをやってみたい」と。あの役も本当に大変な、自分を全部剥き出しにしてやらなければいけない役なので、それは彼がやったほうがいいだろうなと。さとみさんは、いい意味でシェイクスピア慣れしていないところがとてもいい。台詞を朗誦っぽくせず、ちゃんと今を生きる人として、生の言葉を口にする人なので。しかも末娘のコーディーリアではなく長女のゴネリル役で、それは見てみたいなと思いますよね。最初はコーディーリアを想定していたけれど、「さとみちゃんはゴネリルがいいんじゃない?」と、圭史君の助言でゴネリル役になりました。

そのほかの役は、圭史君が僕の大好きな俳優さんを連れてきてくれたので、嬉しいですね。いい意味で蜷川組の色を持たない方々が集まったので、とても新鮮ですし、見たことのないシェイクスピアの演技を見せてくれるのではないか、よりリアルで血の通ったことをやってくれるのではないかという期待があります。

2021年上演 舞台写真『終わりよければすべてよし』/撮影:渡部孝弘

――近年は期せずして『リア王』の上演が続いていますが、あらためてこの作品の魅力をどう考えますか?

一言で言うなら、“全編地獄絵図”。でも皆、地獄絵図を見るのが好きじゃないですか(笑)。姉妹を手玉に取る色悪がいたり、目玉をくり抜かれたり、どんどん人が死んでいったりと、どこを切り取っても明るい要素がない。そこが見どころの一つではありますよね。ただ、シェイクスピアの四大悲劇の一つと謳われる作品ですから、地獄だけのはずはない、とは思うんです。そこに救いや希望といったものがはたしてあるのか、それはまだ見えないけれど、いつものように極限まで稽古をやれば、きっと見えてくるものがあるのではないかなと思っていますね。

シェイクスピア戯曲には皆さんの想像を超える世界があり、『リア王』はその中で一、二を争う強度を持った芝居です。こんなにも人間の汚い部分が次から次へと表れる芝居があるのだろうかと、初めてご覧になる方はきっとビックリすると思うんですよ。演劇でこんな気持ちになるんだ!と、ぜひそのビックリを体験しに来ていただきたいと思います。

彩の国シェイクスピア・シリーズ 2ndについて

1998年のスタート以来、芸術監督蜷川幸雄のもとで、国内外に次々と話題作を発表してきた彩の国シェイクスピア・シリーズ。シェイクスピアの全37作品を上演することを目指したこのシリーズは、2017年から芸術監督を吉田鋼太郎に引き継ぎ、2021年5月の第37弾『終わりよければすべてよし』をもって完結。20年に上演中止となった第36弾『ジョン王』も改めて上演が決まり23年2月に真のラストを迎えた。シリーズ完結間近でこの世を去った蜷川幸雄から芸術監督を託された吉田鋼太郎に遺された5作は、日本ではほとんど上演されない演目ばかり。しかしその戯曲を、丁寧に読み込み大胆な解釈と繊細な演出で見事に観客を喜ばせた吉田に、新たなシリーズを望む声が多く寄せられた。

手前:吉田鋼太郎、奥:柿澤勇人

Vol.1 『ハムレット』/2024年5月7日(火)~26日(日)上演
演出・上演台本:吉田鋼太郎
主演:柿澤勇人

シンプルなセットで俳優の芝居を引き立たせ、「シェイクスピアの言葉」の力を前面に出す異色の演出で大きな注目を集め、ただならぬ熱量でお客様を魅了した。満を持してハムレット役に挑んだ柿澤勇人は、第32回読売演劇大賞中間選考会で男優賞にノミネートされるなど、“無二の適役”とも評された。

マクベス役:藤原竜也

Vol.2『マクベス』/2025年5月8日(木)~5月25日(日)上演
演出・上演台本:吉田鋼太郎
主演:藤原竜也

40代を迎えた藤原竜也が満を持してタイトルロールに挑んだ、シェイクスピアの四大悲劇『マクベス』。初のシェイクスピア作品挑戦となった土屋太鳳が演じるマクベス夫人と共に、身の丈に合わない野望を抱き引き返せない地獄の道をまっしぐらに突き進む男と、互いに絶望的な孤独を抱えた夫婦の姿を、丁寧かつエネルギッシュに魅せ大きな反響を得た。


作品名彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd Vol.3『リア王』
日程2026年5月5日(火祝)~5月24日(日)
会場彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
座席表
チケット料金【SAFメンバーズ】>>
S席:11,000円
A席:9,300円
B席:7,500円
 
【一般】
S席:12,000円
A席:10,000円
B席:8,000円
U-25:3,000円※公演時25歳以下/B席対象/劇場のみ取扱/入場時要身分証明書
(全席指定・税込)
ツアー公演宮城、愛知、大阪、福岡、岡山公演あり
作品HPhttps://horipro-stage.jp/stage/kinglear2026/

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