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舞台『中村仲蔵 〜歌舞伎王国 下剋上異聞〜』特別対談 藤原竜也×神田伯山
  • インタビュー

江戸時代中期、血筋がものを言う歌舞伎界で、裸一貫から大スターに登りつめた伝説の歌舞伎役者・初代中村仲蔵。逆境をはねのけ、自身の才覚と努力だけでどん底から這い上がった仲蔵の物語は、なお講談や落語の人気演目になっている。舞台『中村仲蔵〜歌舞伎王国 下剋上異聞〜』でこの不世出の役者を演じる藤原竜也と、現代にあって講談の魅力を広く知らしめた立役者である人気講談師・神田伯山が、中村仲蔵の魅力を語り尽くす。

(構成・文:市川安紀撮影:井上綾乃

01  孤独の中でのし上がったストイックな革命児
02  自分と闘い、情熱を持ち続けるということ
03  あえて自分からアウェーに行く

孤独の中でのし上がったストイックな革命児

藤原:はじめまして。緊張するなあ。イメージは伯山さんが仲蔵そのものですよね。

伯山:とんでもない。実は僕、仲蔵のお芝居を歌舞伎役者さん以外でやるなら、お世辞抜きに藤原さんがいいと前から思ってたんですよ。役者さんのことはそんなに存じ上げないですけども、熱量と技術、両方を兼ね備えた藤原さんは仲蔵にピッタリだなと。

藤原:いやぁ、難しいです。演劇ではありますけど、歌舞伎の台詞や踊りもあって、どこまで忠実に再現するのか。(ドラマ版で仲蔵役を演じた)中村勘九郎さんや歌舞伎の方たちに色々アドバイスしていただいてますが、本職の方には太刀打ちできないですから。

伯山:でもこれは仲蔵という革命児の話なので、一ファンから言わせていただくと、歌舞伎の素養があるかどうかはあまり気にならないと思いますよ。

藤原:我々演劇人が、いかに一定の熱量を抱えて真剣にぶつかっていけるか、そこが突破口に繋がると思います。伯山さんは(講談の『中村仲蔵』を)どれくらいやられてます?

伯山:10年ぐらいですかね。もともと客席にいる時から仲蔵の話は好きだったんですよ。ただ、従来の落語だと、(成功した仲蔵に)師匠が「お前は芝居の神様だ」みたいなことを言うシーンが嫌いだったんです。なんか嘘くさいな、お芝居って多分もっと孤独なものじゃないかなと。それで僕は、師匠(人間国宝の三代目神田松鯉)に教わった型を自分なりにアレンジして、ストイックな仲蔵を提示したいと思って読ませていただいてます。今のシーンは落語の台詞ですけどね。

藤原:一本筋の通った、熱い男ですからね。まさに、のし上がっていった。

伯山:階級社会だった江戸の歌舞伎界で、稲荷町という最下層で生涯を終える役者も多い中、稲荷町から一番上の名題(なだい)に、さらに座頭にまでなった前代未聞の役者です。講談では、仲蔵が31歳の時に『仮名手本忠臣蔵』五段目の斧定九郎の役を工夫して成功していくんですけど、ちょうど僕が31、2歳の頃に『中村仲蔵』をやり出して。そしたらお客様が、僕自身と仲蔵を勝手にシンクロさせて喜んでくださったんですよね。

藤原:仲蔵は今ある自分を否定して、孤独に考えに考え抜いて、試行錯誤しながら一歩ずつ上に登っていくんですよね。伯山さんが講談で好きなシーンはありますか?

伯山:結構いい台詞が多くて、「広い世間にたった一人、俺の芸をわかってくれた人がいる。」私は少しアレンジして、「誰か一人でもいい、(自分の芝居を)わかってくれる人はいないのか」とか、沁み入るところはありますね。仲蔵の孤独や苦悩が伝わってきます。落語だと、定九郎役をやった初日、仲蔵自身は蹴られた(失敗した)と思ってしょぼくれて歩いていたら、今さっき芝居を観てきたおじさんが「仲蔵ってのはすげぇなあ、いい役者だ」と呟くのを聞いて涙を流すんです。僕らの場合でも、自分では良くなかったと思ってるのにお客様がすごく喜んでくれたり、その逆もありますよね?

藤原:あります、あります。でも仲蔵の場合は、一度死んでますから。そこの強さがあるんじゃないですか。

伯山:「死んでる」っていうのは、一回芝居を離れたってことですか?

藤原:そうですね。本当のどん底を見た人には、敵わないなと思いますよ。

伯山:藤原さんは、役者をやめることを「死んだ」って表現されるんですか。すごいな、それぐらい役者として生きてらっしゃるんだなと。

藤原:そこまで高級ではないですけど(笑)。

伯山:確かに一回やめるって、すごい覚悟ですよね。今よりずっと閉鎖された世界で、ただでさえ自分の地位が危うい中でドロップアウトしたら、次に這い上がるのは並大抵のことじゃない。今度のお芝居にはそこも描かれてるんですか?

藤原:描かれています。

伯山:それは面白いですね。

自分と闘い、情熱を持ち続けるということ

藤原:仲蔵は一本の道に向かって、ただひたすら自分の力で歩いていく。その行き着く先に何があるのか、というような台詞も芝居の中にあるんですが、僕も蜷川幸雄さんという“師匠”が亡くなった後、何のために自分が演劇をやってるのか、どこに情熱を傾けていいのか、わからなくなった時期があったんです。情熱をかけて演劇と向き合っていたのに、今の自分は何だろう?と。でも今、この芝居の稽古をさせてもらっていると、全てを投げ打ってでも稽古場で芝居に向き合っていた、演劇少年の頃の気持ちを思い出すんですよね。そんな自分と仲蔵をリンクさせられたら、自分の中に何か新しいものが生まれるんじゃないかなと。戯曲に向かい合うと同時に、自分自身と闘っている部分もありますね。

伯山:じゃあこの芝居は、藤原さんにとってターニングポイントになるかもしれない?

藤原:そうなって欲しいなという希望を込めて、稽古をしています。

伯山:藤原さんがやってきた役柄の印象もあると思いますけど、藤原さんは夢を見させてくれたり、情熱を感じさせてもらえる方なんですよね。正直僕は40歳になって、20代の頃の情熱は、ちょっと減ってきているかもしれないなと思うんですよ。

藤原:若い時のあの熱量って、何でしょうね。

伯山:これは完全な推測ですが。仲蔵は55歳で亡くなるまで、たぶん情熱がずっと減ってなかった気がするんです。僕は24歳で入門して、正直世間からはそんなに見向きもされてなかった講談に人生を賭ける博打を打ったわけですけど、何とかなるという根拠のない自信があった。あの謎の全能感は何だったのかと。良くも悪くも、今は変な安定をしているので、もう一回頑張らなきゃという時期に入っている気がしてます。自分を律していかないと、絶対に潰れるなって思いますね。

藤原:おっしゃる通りで、自分でジャッジする目を持っていないと恐ろしいですよ。

伯山:大人になればなるほど、周りが本当のこと言ってくれなくなりますし。

藤原:叱咤されなくなる寂しさはありますね。強烈な稽古をしてくれる方がいなくなった。

伯山:藤原さんにとっては、まさに蜷川さんがそうだったんですね。

藤原:若い時から常に、自分を否定して否定して、稽古してましたから。次にはもっと見たことのない境地がある、これで完成じゃない、ということをやっていました。

伯山:じゃあ一日中稽古に費やしていても、そこまで苦ではない?

藤原:そうですね。でも今はもう、パッと稽古やってパッと帰りたい(笑)。

あえて自分からアウェーに行く

藤原:伯山さんも、この歳になって大きな壁って出てきますか?

伯山:藤原さんとは桁が違いますけど、『ENGEIグランドスラム』という番組に出させていただいた時に、第一線の漫才やコントの方たちの中で、6、7分くらいの短い時間で講談をやったんです。しかも観覧に来ているのは、いかにも講談なんて聴いたことがなさそうな若い人たち。あの時はちょっと震えました。もしも僕がここで評判が良くなかったら、自分がというより、講談に迷惑をかける。「講談ってつまんないんだ」って。ものすごい熱量で一所懸命やったら、幸い思っていたよりもいい評判をいただいたんですけど。同じ着物仲間の(立川)志らく師匠も、出番前に楽屋を訪ねたら足震えてました(笑)。

藤原:そういうところに自分を持っていかないと、次に繋がっていかないですよね。

伯山:僕は仲蔵ってずっとアウェーで闘っていた人なのかなと思うんです。自分には血筋がないというコンプレックスを抱えて、最後まで情熱を抱き続けたんだろうなと。

藤原:普通はアウェーって避けて通れるものなら避けますよね。でも、あえて自分からその場所へ掴みに行くというのも、ありかなと思います。

伯山:お稽古に入ったら、寝てる時間以外はずっと仲蔵のことを考えてらっしゃる?

藤原:常に頭の片隅にはありますね。ずっと考えたり、ブツブツ呟いていたり。

伯山:いやぁ、闘っている現場で作られてる作品という感じがして、素晴らしいなと思いました。この芝居をどうしようかと悩んでいる藤原さんが、まさに仲蔵でしたよ。

藤原:みんなで模索しながら作ってますけど、それが演劇の良さかもしれないですね。

伯山:僕のYouTube(『神田伯山ティービィー』)で講談の『中村仲蔵』を配信したら、中小企業の社長さんとか、今、もがきながら頑張って前に進もうとしている人たちに、「勇気をもらった」って言っていただけたんです。だから中村仲蔵の話は、迷っている人や頑張っている人に、特に響くんじゃないかなと思います。

藤原:本当にそうですね。芝居でも講談でも、仲蔵は今の時代にぴったりだと思います。

伯山:初日はいつですか?

藤原:2月6日です。

伯山:いやー、僕、初日行きたいなぁ。

藤原:来ないでください(笑)。でもいい初日を迎えるために、全員がとにかく真剣に芝居に向き合ってますから。

伯山:お会いできて良かったです。貴重な経験をありがとうございました。

藤原:こちらこそ。同世代と聞いて親近感も湧きました。もっと毒づかれたらどうしようってハラハラしてたんですけど(笑)。

伯山:僕、公式だとあんまり毒づかないんですよ。ラジオだけです(笑)。


作品名Sky presents 舞台『中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~』
期間2024年2月6日(火)~2月25日(日)
会場東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場) / ▼座席表
チケット料金特等席:平日13,000円/土日祝13,800円
1等席:平日11,000円/土日祝11,800円
2等席:平日9,000円/土日祝9,800円
3等席:平日5,000円/土日祝5,500円
(全席指定・税込)
ツアー公演広島、名古屋、宮城、福岡、大阪
作品HPhttps://horipro-stage.jp/stage/nakamuranakazo2024/

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