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「自分らしくいられる勇気を奮い立たせる、愛にあふれた作品に!」/ミュージカル『ジェイミー』主演、髙橋颯インタビュー
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ドラァグクイーンを夢見る16歳の高校生ジェイミー・ニューが、差別や偏見と闘いながらも自分らしく生きていく姿が、やがて周囲の価値観までも変えていく様を描いたミュージカル『ジェイミー』が、7月9日~27日の東京建物 Brillia HALL公演を皮切りに、待望の再演の幕を開ける。

この作品は、英国の公共放送局BBCで放送されたドキュメンタリー番組を基に、2017年に英国で生まれ、英国最高峰の演劇賞ローレンス・オリヴィエ賞に5部門でノミネートされるなど、一大旋風を巻き起こしたミュージカル。2021年の日本初演では、疾走感あるポップなメロディやダンスとともに、家族や級友たちの応援を得てジェイミーが成長していくビルドゥングス・ロマンとしても、多くの人の心に響く感動を届けてくれた。

そんな作品で、初演に引き続きタイトルロールのジェイミーを演じる髙橋颯が、再演の稽古に際して新たに感じること、Wキャストとして新登場するジェイミー役三浦宏規から受ける刺激などをはじめ舞台に臨む抱負と共に、自身がパフォーマンスをする上で初演からの日々に発見したことを語ってくれた。

(取材・文:橘涼香/撮影:山本春花)

▼製作発表での歌唱パフォーマンス映像 公開中!

01  言葉では言い表せない奇跡みたいな時間が体感できる
02  周りと共鳴することで僕のジェイミーも自然に変わっている
03  お芝居とは身体全部を使って表現することなんだと気づけた
04  それぞれの人生のストーリーが重なり合って、素敵な作品が生まれる

言葉では言い表せない
奇跡みたいな時間が体感できる

──日々順調にお稽古が進んでいるとお聞きしていますが、いまお稽古の様子はいかがですか?

とても楽しいです!稽古の頭の30分ほど、演出・振付のジェフリーが、ウォーミングアップとしてダンスを踊ってからスタートするんですけど、その時間が大好きで。ナンバーの中にもある、外国人の方特有のノリ方があって、本当にこのミュージカルにぴったりだなと思うし、体から湧き出る身体表現としても、言葉では言い表せない楽しさがそこから始まっています。

──では作品の世界観に入る為に重要な時間に?

そうなんです。特に作品の冒頭のナンバーではこのノリを重視しているので、感覚も体力も身につきますから真剣にやっています。これは僕自身の問題なんですけど、表現したいことが、エネルギーが足りなくてできなかったりするのは辛いことなので、自分と戦ってエネルギーを蓄えていくのは、この作品に臨む上でも大きな手助けになると思うので、その時間から大切に集中してやっています。

──そうした意欲的に取り組まれている日々のなかで、初演からこの作品に出演していらっしゃる髙橋さんが感じる作品の魅力を、改めてお話いただけますか?

こんなに楽しい作品があるんだなと、初演から感じていましたが今回もずっとそう思っています。タイトルは『ジェイミー』ですけれども、ジェイミーの物語というだけではなくて、他のキャラクターもすごく個性豊かで、登場人物それぞれがきちんと書き込まれているんですよね。特に僕の大好きなナンバーの「噂のジェイミー」では、一人ひとりのキャラクターと掛け合って、盛り上がって、あまりにも楽しくてお芝居をしているのに、自分が本当に教室にいて、みんなの興奮に巻き込まれていく、言葉では言い表せない奇跡みたいな時間が体験できるんです。それは客席で観ていても感じたことで、この作品の劇場全体を巻き込んでいく力って本当にすごいなと思っています。もちろん演じる側として、その興奮をジェイミー役から創りださないといけないのですが、台本を読んでいても色々なところに宝石の欠片みたいな言葉が詰まっていて。

──確かに「ジェイミー語録を作りたいな、と思いました。

そうですよね?ジェイミーはとても明るくて、周りにも元気を届けられる人だなと僕は思うんですけど、実は8歳の時にパパから「(男らしくないなんて)気持ち悪い」と言われたことで、心にずっと大きなトラウマを抱えている。でもそういうことってどの時代にも、どの世代の人にも大なり小なり色々、何かしらあると思うんです。家庭や、学校や、会社で、とても明るく振舞っていたとしても、馴染めないものを感じるとか。でもジェイミーには勇敢なお母さんと、お母さんの友達のレイ、親友のプリティ、と背中を押してくれる心強い人たちが周りにたくさんいるんです。そもそも16歳の誕生日にお母さんからハイヒールをプレゼントしてもらえるって、すごいことですよね。

──そこはまず本当に感動するポイントでした。特にお母さんが靴屋の店員に「”娘さん”足が大きいんですね?」と訊かれて、堂々と「娘のじゃありません、息子のです」と答えるやり取りが本当に素敵ですよね。

理想的なお母さんだなと思います。そんな風に「周りと違っていいんだよ」ということが、たくさん散りばめられている作品です。

周りと共鳴することで
僕のジェイミーも自然に変わっている

──いまおっしゃったような素敵な作品の中でジェイミーという役柄を創っていらして、初演と今回とで違いを感じることはありますか?

あ、それを訊いてもらえて嬉しいです!僕はまず初演とは全然違うものを作りたいと思って稽古に臨んだんですけど、三浦宏規くんをはじめ、新キャストの皆さんが加わったなかでやったら、変えようと思うより前に「僕、全然違う!」と感じることができて。すごく自由なんですよ。ジェフリーは「何をしても間違いなんてないんだよ」といつも言ってくれるのですが、それが『ジェイミー』という作品にマッチしていて、自分の内側から表現して、にじみ出たものなら「それいいね!」と必ず肯定してくれるんです。

親友役のプリティも初演のお二人と今回の唯月ふうかちゃん、遥海ちゃんと、とても贅沢なことに僕は4人のプリティを見ていることになるんですけど、4人共こんなにも違うんだって思うのに、ちゃんとプリティなんです。ふうかちゃんも遥海ちゃんも新キャストなので、ここができなくて悩んでいるみたいな相談をしてくれるんですけど「えっ?何を悩んでいるの?」と驚くぐらい、2人の表現は全く違うのに、一挙手一投足がプリティに感じられるんです。そういう周りから感じることに共鳴しあっていくことで、僕のジェイミーも自然に変わっているんです。あとはやっぱり宏規くんから感じるものがとても大きくて。

ジェイミー・ニュー役:三浦宏規

──新たなWキャストとして刺激もありますか?

もうめちゃくちゃあります!宏規くんは、周りを見ながら責任感を持って物づくりを一緒に楽しんで、相手の考えも理解しようとしながら自分のことも精一杯やる、なんて素晴らしい俳優さんなんだろうと日々傍にいて感じます。個性や表現は全然違うのに、根底に共通する部分もあることにも感動するんです。稽古場でも僕が「今日ピンクを着たいな」と思って着ていくと、宏規くんもピンクを着てきたり、服装がかぶることが結構あって、性格は違うけど価値観が似ているのかな?と思えるくらい一緒にやっていて楽しいですし、勉強させてもらっています。本当に手の使い方とか、立ち方とかすごく参考になるので、三浦宏規ファンというくらいずーっと見ています。全然違うジェイミーになると思うんですけど、それってこの作品にとっても大事なことかなと。

──ありのままの自分でいい、人と同じじゃなくていいという作品のテーマそのものですよね。

そうなんです。だから是非ジェイミーの違いも見比べていただきたいです。

お芝居とは身体全部を使って表現することなんだと気づけた

──そうした周りの方々から受ける刺激や化学反応と同時に、髙橋さんご自身が初演からの期間に積み上げていらしたものからの変化もあるのでは?と思いますが、その辺りはいかがですか?

身体が疲労します。ジェイミーは周りから自分のアイデンティティを否定されても、それを跳ね除ける強さがあるじゃないですか。初演の時はそんなジェイミーが僕自身よりしっかりしていると思っていたから、僕の軸がブレないようにと頑張っていて、メンタルの方が疲れたんですよね。

でも今回はフィジカルの部分、お芝居の大変さにより気づいたと言うか。色々な作品の稽古場を見学させていただいていた頃、踊っているわけじゃないのに皆さんがなんでこんなに汗をかくんだろう、と思っていた時期もあるんです。でもそれは僕がお芝居に対してまだまだ発展途上で、知らないことがたくさんあったからで、今では舞台に立って台詞を言うことは、身体全部を使って、全身全霊で表現することなんだと気づきました。そうしたらいまジェイミーを演じていても「こんなにたくさん台詞喋ってたったけ?」と思うんです。台詞のやりとりだけでも全身を使うからすごく身体が疲れるので。

──役を表現する上で、心と身体が全て繋がっているという感覚が掴めた、ということでしょうか?

そうです、そうです。だからこそ心をいっぱい動かして、身体も燃やしていかないといけないと思うので、そこは関連づけたいと思っています。

──髙橋さんは「WATWING」の一員としてグループ活動もされながら、ミュージカルの舞台など俳優としての活動にも邁進していらっしゃいますが、グループとしてと、俳優としてのパフォーマンスに違いは感じますか?

全然違うと思っていたんですけど、昨年出演した舞台の演出家さんにお芝居を見ていただいた時に、役を演じるということのファーストステップに触れさせてもらった気がしたんですね。

──何か印象的な言葉があった?

二つあって、ひとつが「役にのめり込む憑依型なんだよね、というようなナルシストにならないでほしい」ということで。もちろんキャラクターになりきれるのはいい面もあると思うんですけど、自分に集中し過ぎて周りを見られなかったり、相手の台詞を常にフレッシュに聞けないほど、自分だけで役にのめりこんでしまうのは、役に近づくということとは違うのかなって。

──あぁ、深いですね。

もうひとつが、「自分が出過ぎてもいけない」ということで、僕だったらどんな役を演じても「髙橋颯」になってしまうのはもったいない。やっぱりお客さんに役として観てもらって、役が届くことが一番なのに、そこに立っているのが「髙橋颯」に見えちゃいけないっていうことなんです。僕はそれをまだまだきちんと理解したとはとても言えないんですけど、『ジェイミー』では、ちゃんと16歳のジェイミー・ニューとして観ていただけるようになりたいんです。そう考えた時に、「WATWING」でパフォーマンスをしている時も、役名こそないんですけど、そこにいるのはやっぱり楽曲の中の世界観の自分で、髙橋颯じゃないなと思っていて。

──楽曲のなかの登場人物を演じている感覚でしょうか?

そうです、そのイメージなので、段階を踏んでいくという意味では同じなのかなって。『ジェイミー』でも、例えばずっとパパからもらっていると思っていた誕生日プレゼントを、ママがこっそり用意していたことを知るシーンがあるんですが、自分を遠ざけていたパパが、誕生日プレゼントだけは贈ってくれると思っていたことがそうじゃなかった、というところでまずちゃんとショックを受けて傷ついたことを表現できないと、その後の「ママが自分に嘘をついた」って怒りだすシーンで、観客のみなさんがなんでこんなに優しいお母さんに対して怒っているの?になってしまうと思うんです。

「WATWING」の楽曲でも、ラストにみんなでここに行くために、Bメロで仲間との共鳴がないと、何を見せられているんだ?みたいなことになりかねないんです。そういう一歩一歩段階を踏んで、最後に表現したいことに向けて盛り上げていくというところは一緒なのかなと思っています。

それぞれの人生のストーリーが重なり合って、素敵な作品が生まれる

──そうした共通するものがあるステージでパフォーマンスをされている時に、ご自身が感じる魅力はどんなものですか?

お客様に届けたいものが伝わった!と肌で感じた時の感動は忘れられないですし、準備している時って、ひと言で言うと大変なんですけど、終わった次の日には必ずやってよかったなと毎回思う、やった分だけ楽しいことがあるってすごい魅力だなと思います。ステージに立っていると、もちろん色々な動きはありますが、まず基本としては客席を向いていないといけない。でもそれは全く制限じゃなくて、そのためにリハーサルを重ねることで、どんどん自由になっていくんです。ダンスもうまく踊れたら楽しいし、だから練習すればするほど、本番が楽しいというのは素直に感じています。

──お稽古が終わっても、カンパニーで一番最後まで残って自主稽古をしていらっしゃると小耳に挟みました。

それはスタッフの皆さんにご迷惑おかけしているんですけど、その日のうちに、忘れないうちにやりたいんですよね。舞台って役者さん一人ひとりが楽器で、その楽器を持ち寄って一つのハーモニーを創り上げるものだと思ってるんですけど、それぞれの人生のなかで全然違うものを経験してきているから、それが重なり合った時にすごく素敵な作品が生まれるじゃないかと思っています。

──とても素敵な表現ですね!髙橋さんご自身はどんな楽器でありたいですか?

うーん、ブラスバンドだったらチューバかな?

──チューバですか?!

トランペットとか言うと思いました?

──思いました。

低音で支えて、すごく大きな音が出せるのがいいなと思います。

──なるほど。そんなチューバでありたい髙橋さんが、この作品から伝えたいことはなんですか?

誰しも周りの支えなしでは生きていけないんだよということです。舞台を観てくださった方が、ずっと連絡を取っていなかったお友達とか、おばあちゃんとかについ電話かけてしまいたくなるくらいの気持ち、周りの人に改めて感謝したり、大事にしたいと思えるような感動を受け取ってもらいたいなというのが僕の目標なので、そうできるように頑張りたいです。

もうひとつこれは夢なんですけど、ジェイミーってWキャストを越えて、5人とか6人で演じてもいいんじゃないかなと思っていて。そのなかに、スキンヘッドのジェイミーとか、すごく大柄なジェイミーとか、それこそ本当に男らしいガッチリした体形だけど、中身は女子ですが何か?みたいなジェイミーがいてもいい、そういう公演ができたら素敵だろうと思っています。

その為にもこの作品に出会ってくださった方々が、自分らしくいたいという気持ちを、ほんの少しでも奮い立たせることができるように演じていきたいですし、作品のなかにディーンっていう意地悪なキャラクターも出てくるんですが、そういう人が周りにいたとしても『ジェイミー』を観たあとは、ちょっと余裕を持って接することができるマインドに自然となれるような、そんな作品にしていきたと思っているので、是非劇場にいらして下さい!

<髙橋颯(たかはし・ふう)>
埼玉県出身。グループ「WATWING」のメンバー。WATWINGとしては、2024年に日本武道館、幕張メッセのワンマンライブを成功させる。俳優としては、2020年に『デスノート THE MUSICAL』L役で、ミュージカルデビューを果たす。近年の主な出演作に、音楽劇『無人島に生きる十六人』、リーディング・ミュージカル『アンドレ・デジール最後の作品』、舞台『「福」に憑かれた男 』、舞台『チコちゃんに叱られる! on STAGE』~そのとき歴史はチコっと動いた!~、AbemaTV「恋するメソッド Season.2」、TBS日曜劇場「DCU」など。


作品名ミュージカル『ジェイミー』
日程2025年7月9日(水)~7月27日(日)
会場東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
座席表
上演時間1幕:80分/休憩:15分/2幕:70分
計2時間45分(予定)
チケット情報ホリプロステージにて絶賛販売中!

・プロムシート:平日14,500円/土日祝15,000円* ※予定枚数終了
・S席:平日13,000円/土日祝13,500円
・A席:平日9,000円/土日祝9,500円
・B席:平日6,000円/土日祝6,500円
・Go Jamieチケット(25歳以下当日引換券):平日6,500円/土日祝7,000円
・Yシート(20歳以下当日引換券):2,000円(3月24日~3月30日販売)* ※予定枚数終了
*=ホリプロステージのみの取扱
ツアー公演大阪・愛知公演
作品HPhttps://horipro-stage.jp/stage/jamie2025/

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