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『未来少年コナン』のタイトルロールを務める加藤清史郎。名子役として有名だった彼も22歳、大人の俳優として躍進中だ。子役時代の思い出やイギリス留学のこと、そして『未来少年コナン』の稽古について率直に語ってくれた。
(取材・文:三浦真紀/撮影:すずきみわ子)
\\ 10/14(月祝)20:00まで視聴券販売中! //
いろんな場所でいろんなものを見て、たくさん吸収したい
――前にお話を伺ったのはミュージカル『ラブ・ネバー・ダイ』のグスタフを演じられていた中学1年生の時でした。稽古の合間に勉強している姿が印象的で。
ちょうど10年前ですね。小学生くらいの頃からそれが当たり前の生活でしたから、小さい頃に現場でご一緒した方に今お会いすると皆さん、「前室でずっと宿題やってたよね」っておっしゃるんです。勉強を終えないとスタッフさんやキャストさんとお話できないというルールだったんです。みんなが家でやっていることを、お仕事の合間にやっていただけだったのですが。
――『ラブ・ネバー・ダイ』にはどんな思い出がありますか。
実は声変わり寸前だったので、ものすごく苦労の多かった作品です。
僕はそれまでの作品では、いつもミックスボイスで歌うようにと習っていました。ところがグスタフはハイC(高いドの音)まで出さないといけない、ボーイソプラノの役だったので、歌の面ではすごく悩みました。また1幕ラストにマスクを外したファントムの姿を見て、あまりの恐ろしさにギャーって悲鳴をあげるシーンがありまして。他の同役の子はキャーって子供らしい叫び声なのに、僕だけ妙に低いガラガラ声。いろんな発声法を試し、演出家ともたくさん話しました。そこで声にとらわれるよりもグスタフでいることに意味があると納得できたんです。ものすごく悩んだけれど、最終的には吹っ切って自分なりのやり方で演じ切ることができました。公演が終わってすぐに声変わりが来たので本当にギリギリでしたね。
チャンスがあったらまたグスタフをやりたいです。年齢を超えて、だけど(笑)。ファルセットはあの時よりも今の方が絶対にできるし、演技面でも上手くできると思ってます。
――幼い頃からこの世界にいらっしゃって、気がついたら演技していた感じですか。
事務所に入ったのは0歳でレッスンを始めたのが3歳頃でした。親はいつ辞めてもいいんだよと僕に決断を委ねてくれていました。だけどレッスンが好きだったんです。幼い頃はお作法、日本舞踊、ジャズダンスなどがあって、大きくなるにつれて、アクションや声優、プレイ(劇)などにも通いました。同時にオーディションを受けて、落ちたり受かったり。そうしているうちにお仕事が楽しくなっていきました。
――一番幼い時の演技をした記憶は?
初めて台詞を喋ったのは2歳半くらい、ドラマ「マンハッタンラブストーリー」でした。お芝居したことで覚えているのは、ドラマ「斉藤さん」だと思います。仲のいい友達をゲームに取られたと、その子の幼稚園のカバンからそのゲームを勝手に抜き去ってしまう男の子の役。クラスのみんなの前で謝らされるシーンが印象に残っています。多分4、5歳で、その頃にはいろいろ考えてはいたんじゃないかなぁと思います。
――高校はイギリス留学をなさったそうですね。イギリスに決めたのは、ガブローシュ役を演じた『レ・ミゼラブル』の影響ですか?
はい、一番大きかったです。もちろんアメリカやそれ以外の選択肢もありましたが、ウエストエンドで舞台を観たいという思いが強くて。2013年の新演出の際のUKスタッフの影響もありました。イギリスは演劇や芸術に触れるにはものすごく最適な場所でした。高校生だと博物館や美術館に無料で入れるし、研修旅行でヨーロッパの国々にも行ける。いろんな場所でいろんなものを見て、たくさん吸収したい気持ちが強く、ロンドンだな!って決めました。あと単純にイギリス英語が好きだったこともあります。
――留学中には演劇学校にも通われたとか。何を学ばれましたか。
細かい技術ではなく、役の人物としてどのように存在するのかを磨いた感じです。ずっと頭の中で漠然と思っていたことが明確になり、たくさんの発見がありました。言語の壁にぶつかりもしましたけど、言葉ができなくても中身でいけるぞ!くらいの気持ちで挑みました。
具体的には一つのワードをテーマに、戯曲もスクリプトもないところから、「5分あげるからみんなで即興劇を作って」というレッスンもありました。ワードは場所やもの、概念や感情。みんなでアイディアを出しながら作っていくのですが、10代のネイティブ英語はものすごく速いので全然ついていけず、何をするのかを理解するだけで精一杯。作ったり演出する側に回れなくて悔しかったです。
――ここは演劇の本場だと実感した瞬間は?
俳優のパフォーマンスやそのクオリティもありますが、何より観客の雰囲気がもう本場だな!と感じました。芸術に対する意欲関心や理解、密接さが全然違うんです。日本で『レ・ミゼラブル』に出ていた時に、シーンの終わりに「ブラボー!」と聞こえて、驚いたりしていたんですが、向こうでは声がかかるのは当たり前。周りが立たなくても、お客さんは立ちたい時に立つし、反応もするんです。
ロンドンに着いたその日に『レ・ミゼラブル』を観て、オーバーチュアの音から震えて涙して……そんなふうに作品に圧倒されることも多く、なぜ日本にはないものがここでは当たり前なのかにも、興味を持ちました。
僕の学校は学期末の試験が終わった日に芸術鑑賞の日があって、年に何本か舞台を観に行く機会があったんです。ただ『マチルダ』は時期がずれていて芸術鑑賞には選ばれなかったので、絶対に面白いからと僕が企画して、「『マチルダ』に行こうの会」をやりました。他にも何作かやりましたね。向こうでは大道芸もあるし地下鉄のホームでギターを弾くアーティストもいる。芸術をストリートで感じられて、日々そういったものに自然と触れることができるんです。芸術に触れることで人は感化されていく。それは周りの友達を見ても感じました。
2023年に日本版キャストで上演されたミュージカル『マチルダ』/撮影:田中亜紀
できないことをいかに磨き続けるかが大事
――加藤さんは『未来少年コナン』で主役のコナンを務められます。稽古場の雰囲気はいかがですか。
良い空気感です。キャスト同士、仲もいいです。
ただ稽古が始まる時の空気の張り詰め方がすごいんです。みんなが考えに考えてきたものをそれぞれ披露して、意見を出したりアドバイスをしたり。インバル(・ピント)とダビッド(・マンブッフ)が「こういうニュアンスのムーブメントが欲しい」と言うと、みんなでその動きを考える。そこで出た新しい動きが面白くて採用されたら、「昨日やったことは全部忘れましょう」となることも。それでも、せっかく覚えたのに……とは誰もならないんです。作品がより深められるならいくらでも頑張るし、新たにトライしても、結局元に戻ったりもします。だけど、戻っても試行錯誤の片鱗は残り、それを積み重ねていくのがこの稽古場の特徴だと思います。
――キャストたちが思いつき、練りまくったものを取捨選択していくのが、インバル作品らしいところです。こんなに自分たちで作る現場って案外少ないのでは?
そうですね。僕は今まで、作品には演出家やプロデューサーがいて、基本的にその方たちが作品を作り上げる方向性を決めると思っていました。なので、キャストはその方向性に合わせて、コミュニケーションをとりながらどう演じるかを決めていく。つまり俳優はあくまでも調味料だと思っていたんです。だけど、この稽古場では、その考えは通用しません。アイディアを出さなかったらそこで止まっちゃうというか。いくら考えても何も出てこなくて劣等感を感じる時もあります。アイディアを出すためには身体を使い続けることが大事。立っている床や傍にあるものと自分との接点を見い出し、こことここを繋げてみるかな?と、とにかく能動的に動いて表現を探し続ける。
特に僕は小さい頃からこの仕事をしてきて、言われたことを即座にやる、そして指示にいかにプラスアルファするかというやり方をしてきたので、全く違います。今までの概念が変わるくらい違くて。でも、もしかしたらみんなでものを作っていくとはこうあるべきなのかもしれないなとも思います。そこは魅力的に感じたりもしています。
――コナンはどんな子ですか?
すごく子供らしい部分となぜか成熟している部分が混ざっている気がします。シンプルで、ある意味無鉄砲。だけどそのシンプルさ、無鉄砲さが人の心を動かすんでしょうね。自信満々だけど、とても素直でまっすぐさもあって。ものすごく難しくエネルギーの要る役です。この物語自体、冒険活劇と言われるけどそれだけじゃないんです。重すぎるぐらい重いものが入っていて、老若男女こんなに楽しめる作品はないなって思います。
――最後に、この先目指すものを教えてください。
いやぁ、もうできないことばかりだから、そこをいかに磨き続けるかが大事だと思います。その意味ではロンドンにいた頃の僕は、演劇に対してだけでなく、私生活でもものすごく向上心がありましたね。最近思うのは、また留学行きたいなぁって。タイミングや状況、気持ちはその都度変わるから、どうなるかはわからないですけど。
いろんな生き方があって、幸いにも僕はいろんな趣味があるし、何かを追いかけるなら恐れずに飛び込みたい。作品との出会いをきっかけに何かに目覚めたり、今回みたいに磨かなくてはいけないことに気づいたり。そんな出会いに億劫にならず、自分の得意なことだけでお仕事をするのではなく、この人にこの役をさせてみたい、させたらどうなるんだろう?とワクワクさせる俳優、表現者を目指して。まずはコナンに全力集中します!
期間 | 5月28日(火)~6月16日(日) |
会場 | 東京芸術劇場 プレイハウス / ▼座席表 |
チケット料金 | S席:平日11,000円/土日11,800円 サイドシート:平日・土日共通9,000円 (全席指定・税込) 【期間限定販売】 U-25:6,500円(25歳以下対象チケット) Yシート:2,000円(20歳以下対象チケット)※ホリプロステージのみ取扱い 高校生以下:1,000円 ※東京芸術劇場ボックスオフィスWEBにて前売りのみ取り扱い |
公演詳細 | https://horipro-stage.jp/stage/fbconan2024/ |