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「ピュアで明るい青年では終わらせない」/『スウィーニー・トッド』初参加、アンソニー役の山崎大輝さん&糸川耀士郎さんにインタビュー
  • インタビュー

ミュージカル『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』が2024年3月9日から東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)で開幕する。

名匠スティーヴン・ソンドハイム氏の代表作として知られ、数々の賞を受賞してきた本作。宮本亞門演出のもと、市村正親、大竹しのぶのゴールデンコンビで2007年に26年ぶりに日本で上演されて以降、再演を重ねてきた。

今回、アンソニー役のWキャストとして本作に初出演する、山崎大輝と糸川耀士郎。二人に作品の魅力や俳優としての目標などを語ってもらった。

ミュージカル「スウィーニートッド」公式HP

(取材・文:五月女菜穂/撮影:番正しおり)

01  「気持ち悪さ」が「気持ち良さ」に変わった瞬間に出会って
02  1番手本とすべき人たちからいろいろ盗みたい
03  「プロフェッショナルになりたい」「あいつの真似をしちゃダメだと言われたい」
04  不平不満が溜まる今だからこそ観てほしい!

「気持ち悪さ」が「気持ち良さ」に変わった瞬間に出会って

ーーお稽古の状況を教えてください。お稽古に参加する中で、どんなことを感じていますか?

山崎大輝:今は具体的な演出で作り込む前で、ステージングの稽古を主に進めている段階です。1番最初にソンドハイムさんの楽曲を渡されて、歌ったときに「難しい」というのもそうなんですけど、「気持ち悪い」という感覚があったんですね。でもその気持ち悪さが、実際に舞台に立ってやってみると、「気持ちよさ」に変わっていく瞬間に出会うことが出来て。これを突き詰めていったらもっと楽しいんだろうなと思いながら、必死に体に入れている最中です。

糸川耀士郎:結構早い段階から楽曲をいただいて、歌のレッスンから入ったんですけど……いや、本当に難しくて!1か月弱くらい稽古していますが、まだ馴染まないかと思うぐらい。これだけ長い稽古期間をいただいているので、楽曲に対する怖さのようなものは払拭できてきたんですけどね。

これから(宮本)亞門さんの演出や、市村(正親)さんや大竹(しのぶ)さんのお芝居を観ることができる時間になるので、すごく楽しみですね。ワクワクしています。

ーー改めて本作への出演が決まったときのお気持ちや、過去公演をご覧になった感想を教えてください。

山崎:こういった世界観の作品って、そんなに多いわけではないので、また重そうなお話だなぁ……というのがファーストインプレッションでした。ですが、公演映像を見たときに、ただ怖いだけではなくて、一人ひとりの人物が持っている愛や信念といったものが描かれてる作品なんだなと思いましたね。

ーー山崎さんは『スリル・ミー』にも出演されていますが、「重そう」と感じた。

山崎:なんて言うんでしょうね……それこそ『スリル・ミー』もそうですけど、この時代を生きるために必要なことだったんだなと思うんです。みんなが 必死に生きている、生にしがみつく。そういうニュアンスを受け取ったので、その意味で「重そうだな」と。

ーー糸川さんはいかがですか?

糸川:僕は最初にお話いただいて、演出が宮本亞門さん、主演が市村正親さんと大竹しのぶさんという並びを見たときに、もう楽しみでしかなかったし、すごくありがたいお話だなと思いました。

僕は30歳になったんですけど、その節目で、昔からテレビなどで見てきた方々のお芝居を間近で見られるチャンスが来た。自分にとってはターニングポイントになる予感がありました。

僕もいろいろなことを考えながらお芝居やミュージカルに向き合ってきたんですが、ジレンマを感じることや「何が正解なんだろう?」と迷うこともあって。だからこそ長年お芝居やミュージカルに出演されている市村さんや大竹さんの取り組み方や向き合い方、考え方を知ることができたら、いろいろ自分も成長できる気がしていますね。

ーー過去公演をご覧になっていかがでしたか?

糸川:僕、こういうホラーやサスペンスの要素もありつつ、キャッチーでポップでコメディ的な要素もある、いわゆるダークコメディーが大好きなんです。だから、作品も面白そうだなと思いました。

その中で僕らが演じるアンソニーという役は、ダークな世界観の中で、1番まっすぐに射す光みたいな印象があって、すごくやりがいがありそうな役だなというのも思いましたね。

ーーまさにそのアンソニーについて伺いたいです。作品の中でも“まともな人”というか“ピュアな人”のような印象が強いのですが、それぞれどのようにアンソニーを捉えていますか?

山崎:僕はピュアを通り越して病的だなと思いました。思いや信念が強ければ強くなるほど、どんどん危ない方向に行く人って、結構いると思うんですよ。僕はアンソニーに対してそういうイメージがあって。ジョアンナという素敵な夢のような女性に巡り合って、その女性ととにかく一緒にいたいという純粋な気持ちが、彼をどこまでも動かすわけですから。

でも一方で、確かにピュアで人がいい部分はあるし、まだ若くて酸いも甘いも知らない、怖いものがない無敵な感じもある。そういった部分も強く出せていけたらいいなと思いました。

糸川:僕もピュアだなと思いましたが、普通ではない行動をするなぁと思ったんですよね。けど、改めて18世紀末のイギリスの時代背景を勉強し直してみると、当時は階級制度があったり、明日生きるか死ぬかという世界観の中で暮らしていたり、日常的に差別を受けてたりするので、現代を生きる僕らが感じる「普通」の感覚とはやはり違うことに気づいて。

身近にいる人たちが死んでいく感覚は、今の自分に重ねたら想像しがたいんですが、当時は死が至るところに転がっているような社会だとしたら……。「アンソニーがこのときこう思うのは、こういう背景があるからなのかな」なんて考えると、なんとなく見えてくる気がしています。

まだ全ての最適解を見い出せてはいないのですが、大輝とも相談しつつ、二人でアンソニーという人物を深掘りできたら、単にピュアで明るい青年だけでは終わらない気がしています。

1番手本とすべき人たちからいろいろ盗みたい

ーー楽曲についてはいかがですか?どういうところに難しさや面白さ、魅力を感じていますか?

山崎:いつもは休符がここにあったのに、休符がなくなってたり、「こんな感じだったよね?」みたいな感じでやると全部間違えたり、「いや、次そっちの音行くんかい!」と思ったり。例えば、コードだったら、その構成されてる音が何音か入っていて、ルート音があって……という感じでやっていくはずなんですけど、そのどこにも当てはまらない音を俺がボーカルとして出さなくてはいけないんですよ。助けてもらえる音がない状況というか、みんながアカペラを邪魔しに来る感覚というか。

ただ、それができたとき。曇りのない音は、まるで不安なこの世の中に射す光のように感じるんですよね。一つひとつに意味が乗っていて、僕はまだその全てを自分1人で読み解けるわけではないんですが……役者として仕事をしているからには、演出家や作曲家の意図はどうしたって読み解かないといけない。その読み解きを今、頑張っています。

糸川:まさに大輝が言った通りですね。アンソニーの曲も、レガートで始まるので、大らかな曲なのかなと思ったら、途中からスタッカートになって進んで、急にまたレガートになっていくんですね。その歌い分けは結構難しいです。

でもよく考えてみると、芝居的にも歌詞的にもそれが“正しい”んです。世界を旅した船乗りが広い世界を思う感じで歌が始まるけど、彼女を見たら 気持ちが抑えきれず鼓動が高鳴っていく状況なわけですから。そういう一つひとつを突き詰めるのは面白いですね。

ーー市村さんと大竹さんについても伺いたいです。それぞれどんな俳優さんだと思いますか?また、どんなことを学びたいですか?

山崎:まず市村さんについては、僕はミュージカル『生きる』を拝見して、お芝居がもう素晴らしくて! 人生に関わる話ですから軽い話ではないはずなんですけど、亞門さんが演出ということもあって、すごくユーモアに溢れていて! 存在感はもちろんですが、とてもリアルな感じがしたんですよね。セリフもそんなに多いわけではないのに、市村さん演じる役がどんな人物なのかきちんと伝わってきたし、セリフ以上に語られてることが多いなと思いました。

今回の『スウィーニー・トッド』はまた全然違う役ですから、どんなお芝居をされるのかとても楽しみです。当たり前ですけど、僕が何か発したら、それを受け取って返してくださるわけですよね……まだあんまり想像できなくて。これから目の当たりにしていくと思うので、とにかく楽しみです。

しのぶさんは『ピアフ』でご一緒しているんですけども、僕が言うのもおこがましいですが、普段はラフに接してくださるし、気を遣ってくださるし、とても可愛らしい人なんです。稽古場にしのぶさんがいらしたら、稽古場がまた一段と明るくなるでしょうし、お芝居に真摯に向き合うメリハリのある稽古場になると思いますね。

前回の『ピアフ』とも全然違うし、今まで見てきた役とも全然違うわけですよね。とにかくその背中からいろいろな技術面だけでなく、「役者とは」ということも学びたいです。

糸川:お二方とも本当にすごく優しいですね。それこそ顔合わせのときに、大輝が大竹さんと共演していたこともあって、大竹さんにいじられていたんですね。それを見て、めっちゃ羨ましいな!と思いました(笑)。大輝をパイプにして、僕もお二方と仲良くなっていきたいと思います(笑)。

市村さんや大竹さんのお芝居を見ながら「うわ、このセリフはこういう風に解釈するんだ」などと1人で考えを巡らすだけでも面白そうですよね。いち俳優として尊敬しているお二人なので、お二人が作品や役にどう向き合い、どう立ち回るのか。1番の手本とすべき、1番肌で感じるべき人たちからいろいろ盗めたらいいなと思っています。

大先輩すぎて軽々しくお話しできないかもしれないですけど、生まれた疑問や悩みをひとつでも多く聞けるような関係性が築けたら嬉しいなと思います。

「プロフェッショナルになりたい」「あいつの真似をしちゃダメだと言われたい」

ーーお二人のパーソナルなことも少し。そもそも俳優を目指されたきっかけは?

山崎:僕は15歳の時にジュノン・スーパーボーイ・コンテストをきっかけに芸能の世界に入って、もともと音楽が好きだったので、音楽をやりたいなと思っていたんです。で、まだ若くて、正直何をしたらいいのかよく分からない状態のときに俳優のお仕事を始めました。

そこからいくつかお仕事をやらせていただく中で、いろいろな人物の人生を動かしたり、生きたりする楽しさを感じていくようになりましたし、それを受け取ってくださった方々の感想を見聞きして、人のために役に立てたことが嬉しかったんですよね。


糸川:僕は美容師として上京してきたんですが、美容師を辞めて、今の事務所のオーディションを受けました。もともと歌が好きで、歌のオーディションを受けてたのですが、劇団番町ボーイズ☆の立ち上げメンバーとしてお芝居をすることになったんです。だから最初からやりたいと思っていたわけではないんですけど、実際にお芝居に触れてみたら、どんどんのめり込んでしまって。今は芝居が大好きです。

どういう役者になりたいかとよく聞かれるんですけど「こうなりたい」というのはあまりなくて。いろいろなベクトルやジャンルの仕事を経験していくなかで自分なりの役者像をつくっている感じなんですね。

ーーミュージカルの魅力はどんなところにあると思いますか?今後の俳優としての目標も合わせて教えてください。

山崎:僕は最近いろいろとミュージカルをやらせていただくようになって、本当に素敵なエンターテイメントだなと思っています。

ミュージカルに出演する度に思うのですが、みんなプロフェッショナルなんです。いや、もちろんどの現場もそうだと思うんですけど、ミュージカルは特にそう感じることが多くて、僕にとってはそこが魅力的。僕はまだ目指すべきプロフェッショナルになりきれてないと思うので、プロフェッショナルになりたいですね。

今後の俳優の目標は、オールジャンルをやれる俳優になることですね。重い作品だけでなく、明るい作品もやってみたいし、いろいろとジャンルを問わずに演じられるようになりたい。特にミュージカル作品の中で、ちゃんと自分が満足がいくように、そして皆さんを満足させられるようになることが目下の目標です。


糸川:ドラマやアニメを見てるときに、例えばすごく緊迫したところで緊迫した音楽が流れたり、感動する場面で感動的な音楽が流れたりしますよね。芝居と音楽って密に結びついていると思うんです。

日常生活もそう。嬉しすぎることがあったら鼻歌を歌うこととかありません?きっと日常から僕らは“ミュージカル”を経験している。もし「え、なんで今歌い出すんだろう?」と疑問に思う人がいても、「いや、こういうことあるよね」と説得力を持って語りかけたいですね。

今後の俳優としての目標は、「あいつの真似しちゃダメだよ」と言われる俳優になること。いろいろな現場を経験していく中で、自分の課題がその都度できるわけですよね。例えば「あ、感情のままに叫びすぎたら、こんなにも歌が歌えなくなるほどズタボロになってしまうのか」と学んだら、次の現場では声量をセーブしてみる。けど、なんかしっくりこないなと思って、そのギリギリのラインを探る。自分の中で緻密に修正を重ねながら、ここまでやってきたんです。

つまり、もちろん求められたセオリーや演出をきちんとできることも大切だと思うんですけど、それが出来た上で、どれだけ自分の応用を効かせるかがもっと大事。だから若手の後輩たちに「耀士郎さんみたいになりたい」と言われても、「そう簡単に真似できねえぞ」と(笑)。そういう役者になりたいなと思っています。

不平不満が溜まる今だからこそ観てほしい!

ーー最後に作品を楽しみにしている観客の皆さまやファンの皆さまにメッセージをお願いします!

山崎:僕はミュージカルというものに触れてなかったとき、ミュージカルを観に行くとなると、ひとつ「よいしょ」と気合を入れるというか、何か越えなくてはいけないものがあるイメージがあったんですね。でも、ミュージカルの中でもリアルなことが起こっているし、それがすごく面白い。急にスポットライトが当たって歌い出すということに違和感を感じている人がいたとしたら、そんなことが気にならないぐらいの面白さが伝わったらいいなと思っていて。

今回の『スウィーニー・トッド』はホラーでしょう?怖いんでしょう?と思う方もいるかもしれませんが、本当に僕たちにも起こりうる気持ちの動きがいっぱいある。あなたもこの中の1人かもしれないですよ、もっと身近なものなんだよということを伝えられたらいいですね。

そして、観てくださった方が心の中に抱えている、誰にも吐き出せない気持ちなどを、僕らがもし代わりに吐き出せたら! 皆さんに寄り添う作品にできたらいいなと思うので、ちょっと違う世界を観に来てください。

糸川:亞門さんが仰っていたんですが、この作品は世の中に不平不満があればあるほど1幕が盛り上がる。お客様が共感してくれて、「そうだ、やっちまえよ!」という気持ちになる。でも2幕で「これって本当に正解なの?」と思うようになっていく、と。今のご時世、いっぱいあるじゃないですか、不満なんて。前回から8年ぶりの上演ということで、より溜まってるじゃないですか(笑)。

ダークファンタジーということで、ちょっと敬遠しがちな方もいるかもしれませんが、今こんな時代だからこそ観ていただきたい作品です。大輝も言っていましたけど、意外と自分に重ねられる部分がちゃんとあるし、こんなエンターテイメント作品はなかなかないと思うので、劇場にぜひ足を運んでいただけたら嬉しいです。


作品名ミュージカル『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』
期間2024年3月9日(土)~3月30日(土)
会場東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場) / ▼座席表
チケット料金S席:昼公演15,000円 /夜公演14,500円
A席:昼公演10,500円 /夜公演10,000円
(全席指定・税込)
ツアー公演宮城、埼玉、大阪
作品HPhttps://horipro-stage.jp/stage/sweeneytodd2024/

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