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2022年7月からTBS赤坂ACTシアターでロングラン上演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。小説『ハリー・ポッター』シリーズの作者であるJ.K.ローリングと共に、ジョン・ティファニー、ジャック・ソーンの3人が舞台のために書き下ろした物語で、小説の最終巻の19年後を描いた作品だ。
3年目を迎える本作で、ハリー・ポッター役としてデビューを果たした平方元基さん(吉沢 悠さんとWキャスト)に、作品に懸ける思いや見どころを聞いた。
(取材・文:五月女菜穂/撮影:松井綾音)
\デビューした現在の心境などのトークもあり!/
「みんなが僕をハリー・ポッターにしてくれている」
ーーハリー・ポッター役として舞台に立って2週間ほどが経ちました。今の心境を教えてください。
正直、まだ2週間なんだという感覚ですね。
他の演劇作品を考えると、本番期間が2週間ほどしかない作品も多いので、普通なら開幕から2週間=千穐楽を迎えているわけですよ。でも舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』はロングラン公演で、稽古はもう終わって、これからはひたすらに本番をやり続ける。僕にとっては初めての経験なので、自分でも最終的にどういう感覚になっていくのか。未知数ですね。
今感じていることをお話しすると、毎日毎日キャストも変わるし、もちろん観てくださるお客様も変わるから、舞台上で感じる感情が全く違うんです。もちろん台本に沿って舞台は進むんですけど……キャストもお客様も心を持って劇場に集まるので、その日のそこでしか観られないものがちゃんと巻き起こる。それがこの舞台のすごいところですよね。
同じことをやり続けるのは、メンタル面でも体調面でも相当大変なことだと思いますし、まだ2週間しかハリーを演じていない平方が言っているだけですけど(笑)、きっと物語にきちんと巻き込まれていけば、ロングラン公演であっても“飽きない”と思うんです。
ーー毎回新鮮な気持ちで舞台に立っているのですね。
はい。本当にカンパニーの雰囲気が良いんです。
例えば自分が「今日行けるかな?」と心配になったとしても、必ず助けてくれる人がいる。みんながプロフェッショナルとしてそこにいてくれる。
僕はそんなみんなにずっと頼りきりで、みんなが僕をハリー・ポッターにしてくれているんだなと常々思っています。
ーーその信頼関係はやはり稽古で構築されたのだと思いますが、稽古の中で印象的だったことを教えてください。
ロングラン公演3年目を迎えるにあたって、僕も含めてキャストがガラッと変わったじゃないですか。だから、みんな何も知らない状態で、一緒にホグワーツに入学したような感じだったんですよね(笑)
海外のクリエイティブスタッフが、いちから手取り足取り教えてくれるんですけど、よくある「さぁ本を読んで、稽古をしましょう!」というところから始めなかった。みんなの名前を覚えるワークショップなど、カンパニーが一つになることをとても大切にしたメニューを組んでくださったんです。
稽古が始まる30分前にハードな筋トレの時間もありましたね。大人になるときついことは避けがちになりますけど、でもみんなで一緒にやらなくてはいけないからこそ、絆が生まれる。あの稽古場でなければ、これほどの信頼関係は生まれなかっただろうなと思います。
その日に受け取ったセリフや感情を、丁寧に忠実に返す
ーーハリー・ポッターという役はどういう風に深めていったのですか。
やはり台本を忠実に読み込むことですね。
ロングラン公演をやっていくと、もしかしたらロングラン公演でなくても言えることかもしれませんが、台本から離れて本番をランニングしていく中で、その俳優が思ったことや、キャラクターと呼応して出てきたことが“化学反応”として、出てくることがありますよね。でも、俳優が基本的に立ち返らなければならないところは、そこに書いてある台本だと僕は思うんです。だからこそ、忠実に台本を読み込むことをいつも意識していました。
それに、この舞台にはたくさんの魔法がありますから、何かを一つ誤れば、事故が起きてしまう可能性もあるわけです。そう思ったら、そんなに適当にセリフを喋れないし、自分の気持ち一つで動くことも難しい。自分の気持ちがどうこうというよりも、周りを、みんなをよく見た稽古期間でした。
だから、ハリーに限らず他のみんなも同じだと思いますが、一つひとつのルールをクリアにして、積み上げていきました。稽古は最初から順番に進んでいったわけではないのですが、信じて積み上げてきたからこそ、今本番を迎えられていると思います。
ーーハリー・ポッターは世界的に知られているキャラクターで、観客それぞれがイメージを持っていると思います。平方さんご自身も、ロンドンやブロードウェイ、そして日本でも作品をご覧になって、ある種のハリー像があったと思うのですが、あえて本に忠実に役を作られたのですね。
まぁ、誰かのハリー・ポッターになろうと思っても、そのハリー・ポッターにはなれないですよ。実際にいるようで、実際にはいないのがハリー・ポッターですから。
僕は実生活で父親ではないので、どうしたらいいかなとも思ったんですけど……この舞台のハリー・ポッターはまさしくそこで悩んでいるじゃないですか。
階段の下に置き去りにされて育ったハリーは、父親としての手がかりが何もないし、自信もない。そして、その思いを息子のアルバスにようやく吐露すると、心を剥き出しにして向き合ってくれるんですよね。ハリーは自分を正義だと思っているけれど、自分が生きていなかったらもっと生きられた人がいるから、どこかで「生きていてごめんなさい」という思いもある。それでも今なお生きているのは、アルバスがいてくれるからで……。
最後の最後まで、父と息子の関係がどうなるのか分からないし、なんなら台本にはスタートラインしか書かれていない。でも、それはそれでいいと思うんです。それは平方が答えを出すことではなくて、その日受け取ったセリフや感情を、丁寧に忠実に打ち返していけば、きっと自然と僕の温度のハリーを受け取ってもらえる。そう信じてやっています。
ーーやはりアルバスとの関係がすごく大切だと思いますが、アルバス役の佐藤知恩さん、渡邉 蒼さんについては、どう思っていますか。
いやぁ、彼らは本当に素晴らしいですよ。彼らのおかげで、僕はハリー・ポッターになれていると思っています。
アルバス役の2人は年齢的には26歳と19歳で、僕よりずっと若いですけど、僕は彼らに絶大な信頼を寄せています。彼らがブレると、僕もブレる。そのブレというのは、俳優としての緊張といったようなものではなくて、役として何かいつもと違う空気やニュアンスを芝居に繊細に織り込んでくるんですよね。
この舞台は、アルバスとスコーピウスが主役だと僕は思う。俳優としての知名度やキャリアがあるか/ないかではなくて、彼らが発するエネルギーに共鳴させられるし、ついていきたいと思うんです。
ーーそれは平方さんご自身としても、ハリー・ポッター役としても。
僕は舞台袖で用意した感情を舞台に乗せることはしていないし、アルバスがセドリックに対して「パパはあなたのことを愛している」と言っている場面を舞台袖で観ているときは涙が出そうになっているし……そう思うのが平方なのか、ハリーなのか分からないですね。
作品の魅力は「答えが出ないところ」
ーー改めて、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の魅力はなんだと思いますか。
答えが出ないところだと思います。
「いえーい!」と楽しく終わる作品もあれば、バッドエンドで終わる作品もありますが、この作品は「これ、エンドはどこなの?」というなんとも言えない感覚になりつつも、でもちょっと前向きになれる。
きっとお客様もそれぞれ毎日を必死に生きていると思うんですけど、この芝居が終わって、TBS赤坂ACTシアターを出た後に、「またこれから物語が始まっていくんだ」と思える。そんなところが魅力的だと思います。
ーーご自身が観客として観ていたときと、実際にハリーとして舞台に立ったときとではやはり違うものですか。
違いますね。観客として観ていたときは、もっと簡単に答えが出ると思っていましたし、どこかで答えを探していました。でも、そんなに簡単に答えなんて出ないんですよね。
もしかしたら、あのハリー・ポッターが悩んだり、迷ったりしている姿にもやもやする観客もいるかもしれませんけど、そのもやもやも全部回収されなくていいと思うんです。4幕ものが2幕ものになって、その分、端折っている箇所もありますから。
ただ、せっかくこの舞台を観にきてくださるのならば、ほんの少しの「予習」はしておいて損はないと思います。
僕はもともとハリー・ポッターシリーズが好きで、ある程度の知識があったけれど、それでも特に前半はなかなか付いていけない言葉の応酬が続くなと感じましたし、やはり知っておくとより世界観を楽しめると思うんです。
「ただ魔法がすごかった!」という感想でもいいのですが、やはり舞台に立っている人間としては、その「予習」をしておいてもらえると、もっと人間ドラマに深く着目してもらえると思うから。
もちろん何回も観にきてくださって、それでドラマを理解していくというお客様も大歓迎ですが、やはり1度しか観られないというお客様もたくさんいらっしゃるでしょう。面倒臭いとは思うんですけど、ぜひ前情報は頭に入れておいていただきたいです。
ーー人間ドラマももちろん面白いところですが、とはいえ、魔法そのものにもびっくりします。
そうですね!観ているときも楽しいですが、やっていても楽しいです(笑)。
舞台は、映像作品のように寄ったり引いたり編集したりはできない。その場にいるお客様に“魔法”を届けなくてはいけないので、その分、僕らはホグワーツで相当勉強しているんですけどね。
……稽古期間は2ヶ月あったのですが、あっという間でした。日本の演劇で、2ヶ月間もみっちりと稽古ができる環境なんて、そうそうないですよ。でもこれだけの魔法や物量がある舞台を仕上げるためには、世界中のカンパニーと同じ時間だけ稽古をしなくてはいけないわけです。
たっぷりと時間をかけて世界水準の作品に立つ。それは俳優として、一つの自信になりました。僕は日本人で、日本語で舞台をやっているけれど、例えばニューヨークの舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』と同じセリフ、同じ舞台セットでやっているので、言葉の壁はあるかもしれないけど、極論、ニューヨークでも舞台に立てるわけですよ。世界水準の舞台に立たせてもらえていることに、すごく感謝しています。
ーーところで、そもそもハリー・ポッター役のオーディションを受けた理由は?
正直に言うと、最初は嫌だったんです。僕自身、ハリー・ポッターシリーズが好きだったからこそ、僕の中にハリー・ポッターの要素があるとは思えなかったし、ましてや19年後のハリーを演じている姿なんて想像がつかなかった。だから、別に僕でなくてもいいだろうと思っていたんです。
ただ、お芝居の何が楽しいのか、この俳優という仕事のどんなところに魅力を感じているのか、僕自身、時々分からなくなることがあって。そう思っていた矢先、この舞台のオーディションの話をもらったんですね。海外のクリエイティブスタッフが直接オーディションをしてくれると聞いて、僕のことを知らない人が、ありのままの僕を見て、どう思うのか。それが知りたいなと思って、オーディションを受けました。
周りはもちろん受けるからには結果を残して欲しいと思っていたと思うんですけど、僕のモチベーションは「この役をやりたい」というところにあったわけではないんです。
ーー実際に海外のクリエイティブスタッフからはどんな言葉をかけられたのですか?
いや、オーディションがすごく楽しかったんです!日本のオーディションは、審査に重きが置かれているというか、どこか窮屈なイメージがあるんですけど、海外のクリエイティブスタッフは「オーディションに来てくれてありがとう!」から始めるんですよね。その一言を言ってもらえるだけで、こちらも嬉しいし、ハッピーになるじゃないですか。
オーディションが終わったときに、ある海外スタッフが「またね」と日本語で言ったんです。それに対して僕は「またねというのはもう一度再会するときにいう言葉だから、またねというからには受からせてね」と返したんですけどね(笑)、稽古場で再びそのスタッフに会ったときに、そのときのことを覚えていてくれて!
オーディションに受かったことも嬉しいんですけど、何よりこうした人とのつながりができたことが嬉しいなと思えました。
ーーこの舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』という作品は、俳優・平方元基にとってどういう作品になると思いますか。
僕にとっては、ご褒美でした。
生きてきて、俳優という仕事に巡り合って、もちろんいいことばかりというわけではなかったんですけど……この作品に出会えたことは間違いなく、ご褒美です。
今まで回り道をしたり、間違った選択をしてきたこともあるかもしれないけれど、それがなかったら、ここには立てなかったと思う。自分で自分を認めてあげられる、初めての作品だと思っています。
期間 | 上演中~2025年2月 |
会場 | TBS赤坂ACTシアター / ▼座席表 |
上演時間 | 約3時間40分(休憩あり) 本公演は、演出の都合上、 開演した後はお客様のお座席にご案内ができるお時間が限定されております。 詳しくはこちら>> |
チケット情報 | 2024年2月公演まで、チケット好評販売中! https://harrypotter.horipro-stage.jp/ ※購入には事前の会員登録(無料)が必要 |
チケットに関するお問合せ | ホリプロチケットセンター 03-3490-4949 (平日11:00~18:00/定休日 土・日・祝) |
作品HP | 舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』公式Webサイト https://www.harrypotter-stage.jp |