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舞台『チ。 ―地球の運動について―』鼎談/魚豊×窪田正孝×森山未來「生身の人がそこにいる、その舞台の良さは絶対」
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地球の真理を追い求めることに魅せられ、命を懸けてその思いを貫き、伝える人々を描いた人気漫画『チ。 ―地球の運動について―』が、待望の舞台化。稽古が佳境に入ってきたところで、原作者の漫画家・魚豊(うおと)が見学にやってきた。本番に近いセットが組まれた稽古場で、魚豊とオクジー役の窪田正孝、ノヴァク役の森山未來が語り合った。

(取材・文:三浦真紀/撮影:番正しおり)

01  人間の可能性をどこまでも信じ抜く
02  言葉から演技への変換
03  魚豊さんからみた舞台
04  読者へのメッセージ

9月25日(木) 18:00より売止席・注釈付S席販売開始!

人間の可能性をどこまでも信じ抜く

――魚豊さん、稽古を見学なさった感想は?

魚豊:今まで考えたことない面白さがいっぱいあって、とても勉強になりました。自分が思いついた台詞を、窪田さんのオクジーや森山さんのノヴァク、他のキャストの皆さんが喋っていて、且つ演出家がここはこうしたほうがいいとアドバイスしている。すごく妙な感じです(笑)。引き篭って個人的に作ったものを、こんなに集団のクリエイティブにしていただけて、嬉しすぎます。台詞について、演出家さんやキャストさんそれぞれが真剣に考えているのを見て、作っていた時の僕と同じことを、今皆さんがやっていると思い、すごく感慨深くなりました。みんながもう一度考え直せる、そういう作品として選んでくれて良かったです。

森山:脚本化にあたり、上演時間のこともあって、どうしても原作を省略せざるを得ないところもあります。それでも脚本のどのページを切り取っても、パンチラインの連続なんですね。どの台詞も聞きこぼしのないように見せることしかできないんじゃないかと思ってしまうくらい。だけど舞台には遊びも必要で、その辺のバランスをいかにとるか。台詞を聞かせつつ、ちゃんと山場や緩急をイメージしつつやりたいです。

窪田:僕は観客の皆さんはどこを見るのだろう?と思いながら稽古しています。原作が好きな人は原作のストーリーに沿って見るのかもしれない。本来のセオリーで『チ。』を舞台化するとしたら、プラネタリウムで満天の星を客席の天井に映して見せるとか多分できるでしょう。でも、あえてそれをしないのが今回の演出家アブシャロム・ポラックのやり方です。人間の可能性をどこまでも信じ抜く、それが大きな強みだとも思う。ある種、彼の真理を感じます。


――魚豊さん、窪田さんと森山さんの印象は?

魚豊:ずっと映像で見てきたお二人なので、本当に嬉しいです。うわ!有名人だ!みたいな(笑)

森山:(笑)。魚豊さんというお名前は本名ですか?

魚豊:ペンネームです。居酒屋みたいなペンネームにしたくて。

窪田森山:(笑)

魚豊:あと鱧肉が好きなので、「魚」に「豊」で鱧。好きな食べ物からつけました。

森山:いいですね。

魚豊:稽古を見て、この舞台裏って感覚が初めての経験すぎて、この世界にもっと詳しくなりたいとおもいましたね。誰が稽古場の舞台を開錠して道具を設置して、その人は何時に帰るのか、とか。稽古場ではエアコンの温度がこれくらいで、そもそも誰が出資してて、あれ、どこで着替えているんだろう?転ぶ可能性もあるから長ズボンのほうがいいのかな?とか。

森山:稽古場、暑かったですか?

魚豊:いや、とても涼しいです。

森山:でも、みんなTシャツ姿(笑)。

魚豊:そう、Tシャツの人もいれば、長袖の人もいる。長袖の人は、ここに来る時はさすがに暑すぎるからどこで着替えるんだろう?と思ったり。演出をつける時、アブシャロムがこんな感じと自分でやってみせるじゃないですか。いろんな役をやって、顔も日本人の作りとは違うのに、すごく伝わってくる。拷問する人と、それを見てて辛い人。どちらも一瞬でやれるものなんだ、すごいなと。

森山:アブシャロムは元々役者なんです。お父さんが有名な役者で、その息子さん。アブシャロム自身が人気ドラマに出ていて、一躍注目を浴びたそうです。

窪田:一時期、人気がありすぎて街中を歩けなかったと言ってました。

魚豊:自分でやって見せない、言葉だけで伝える演出家の方もいるんですか?

森山:芝居で見せない演出家もいます。

魚豊:映画監督は?

窪田:映画監督は、やってみせる人はあまりいない気がします。

森山:役者から映画監督になる人が稀だからね。

魚豊:こういうニュアンスで、と言われて演じる。すごく不思議ですね。明らかにその言葉以上の情報量をやらなきゃいけないわけじゃないですか。「悔しがって」と言われたら、うう……だけじゃなく、もっといろんな細かい動きをしなきゃいけない。その変換はどうやるんだろう?と、すごく不思議でした。演技という文化を知らない人が初めて見た感想です(笑)。


――魚豊さん、普段、舞台はご覧になりますか。

魚豊:不勉強なことに、全然観ていなくて。学校で演劇鑑賞に行ったことはあります。マームとジプシーの『COCOON』は観ました。その時もムーブメントがすごくてびっくりしましたね。こういうある種の”サーカス”的な要素もあるんだ!と、観ていて楽しかった。全然知らなかったからこそ新鮮でした。ただ椅子があって、そこでお芝居するような超ソリッドな作品もあるのでしょうが、それとは違う魅力があって。表現が違うかもしれませんが、神アニメを見た気持ち。実写っぽくなかった。情報量が多すぎて、ものすごく高密度なものを観たなぁと。

――漫画と舞台の創作は似たところがある気がします。ストーリー展開が素晴らしい魚豊さん、脚本も書けるのでは?

魚豊:いや、難しいと思います。やはり舞台の文脈を掴むのに、多分10年ほど修行しないと、舞台に沿って脚本を書くのは無理だろうと。物語だけを提示することはできるかもしれないけど。僕は18歳の頃から漫画家をやっていて、今28歳。一番柔軟で吸収できる10年間を漫画に集中してきて、10年前より確実に漫画を作るのは上手くなったと思うんです。だけど、もはや他の職業はできないなと思っていて。他の職業をするならもう10年修行しないと、何とかできる位置にはいかない。他のメディアは無理だと思っています。

――最後に、読者の方たちにメッセージをお願いします。

魚豊:稽古を見て、何よりインパクトがあったのは、そこにいる、ということ。お二人の芝居は学生時代から映像で見ていて。だけどそれは映像という複製された商品だったんだなって思いました。それはそれのよさがありますが、やっぱり生で見ると全然違う。本質主義的な視点はあまり好きじゃないですが、漫画も生原稿で見ると同じ絵で解像度は同じなのに、生原稿のほうがオーラがある。今ここでやっていることと、それをカメラで撮ったものを見るのとでは、どれだけ解像度が高くても情報量は落ちるんだろうと思いました。生身の人がそこにいる、その舞台の良さは絶対なのだと思いました。

窪田:ありがとうございます。この先もトライアンドエラーの繰り返しだと思うし、稽古という時間も制限があるから、その中でどれだけみんなが想像して、崩して、また立てての繰り返しをできるかだと思います。家に帰っても、復習して考えなきゃいけないし、でも考えすぎて固まりすぎるとロジックの中に入ってしまうから、その辺りも自分の枠も壊していかないといけない。僕は舞台の経験が少ないので、本当に貴重な機会だと思っています。いろんな意味で概念を壊していきたいですね。

森山:原作漫画を読んだ時のものすごく強い印象があって、そこからアブシャロムの視点により、また違う世界観が立ち上ってきたように感じています。今は彼の性格も相まったクリエーションの中で、どこに焦点を当てたいのかが少しずつ見えてきたところ。もちろん原作と同じ話ですが、山の作り方が少し違っている気がするんですね。どういう着地点になるかは、ここからの作業。昨日までは全く何もないフラットな場所で稽古していたけれど、今日からいわゆる実際の舞台と同じセットでできる状況になり、見えるものが変わりました。この作品も初日に向けて、また更に膨らんでいくと思いますので、ご期待ください。

魚豊:本番まであと1カ月、頑張ってください。楽しみにしています。

▼コメント映像掲載中


作品名舞台『チ。 ―地球の運動について―』
日程2025年10月8日(水)~10月26日(日)
会場新国立劇場 中劇場
座席表
チケット情報チケット詳細はこちら>>
ツアー公演愛知、広島、大阪、福岡公演あり
チケットに関するお問合せホリプロチケットセンター 03-3490-4949
(平日11:00~18:00/定休日 土・日・祝)
作品HP舞台『チ。―地球の運動について―』公式Webサイト
https://horipro-stage.jp/stage/chi2025/

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