舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』演出・振付:フィリップ・ドゥクフレ コメント

■演出・振付:フィリップ・ドゥクフレ

私にとって日本は、心地よく過ごせる大好きな国です。そんな日本で、ホリプロからお声がけいただき、同社との3作目となる作品に取り組めることを、たいへん嬉しく思っています。

そして今回、世界的に高く評価され、日本を代表する作家村上春樹氏の小説「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を舞台化する機会をいただき、心から光栄に思っています。物語性にあふれ、独自の世界観を持つ村上氏の小説は、読む者の想像力を大きくかき立てます。

異なる世界を行き来しながら展開する想像力に満ちたこの小説を舞台化するという大きな挑戦に、私は圧倒されました。最初に物語を読んだときは、「これを舞台化するなんて到底無理だ」とすら感じたほどです。もちろん、ジャンルを横断することが好きな私は、そこに大きな魅力を感じてもいましたが。

そんな”不可能を可能にする″このプロジェクトに取り組めることに、今、胸が高鳴っています。――演劇であり、ダンスであり、音楽であり、視覚芸術であり、そしてどの枠にも収まらないような舞台……。

実験的な芝居、歌のないミュージカル、フィルムを使わないファンタジー映画。

小説に登場する南のたまりや壁が命を持ち、光の中でユニコーンが踊るシュールなバレエ。

影が持ち主から切り離され、「やみくろ」が暗闇の中でうごめく世界。

この多層的な小説は、私たちの想像力の翼を大きく広げてくれます。

この世界に、皆で喜びとともに没入できることを、心から願っています。

同じ本を読んでも、読者それぞれが異なるイメージを抱くことがあります。文学の魅力のひとつは、読む人の関心や文化に応じて、誰もが自分なりの入り口からその世界に入っていけること。私は、映像、動き、音を通して表現するアーティストです。この壮大なプロジェクトを、私自身の感性と文化を通じて導いていきたいと思っています。

ホリプロが結成してくださったチームを、私は心から誇りに思っています。各分野で最もこのクリエイションにふさわしい、才能あふれる人材が選ばれました。俳優、ダンサー、プランナー、制作チーム——作品づくりに必要なメンバーは、すべて揃いました。

あとは、この巨大なパズルのピースをひとつひとつ組み合わせ、最高の舞台を一緒に創り上げるだけです。

さあ、モーター、アクション!

<プロフィール>
フィリップ・ドゥクフレは、映像、オペラ、サーカス、キャバレー、現代美術など様々なジャンルを取り入れ、伝統的なダンスの世界に革新をもたらした先鋭的なアーティストである。
アルウィン・ニコライ、キャロル・アーミタージュ、レジーヌ・ショピノらの作品に出演した後、自身の作品『Codex』(1986)、『Triton』(1989)をアヴィニョン演劇祭で発表し、ユーモアを交えた振付で観客を魅了した。アルベールビル冬季オリンピックの開閉会式(1992)の演出によって国際的な注目を浴び、現在では世界的に知られるアーティストとなった。
彼はDCAカンパニーを主宰し、日本を含む世界各地でツアーを行っている。代表作には『Decodex』(1995)、『Shazam!』(1998)、『Sombrero』(2006)、『Octopus』(2010)、『Contact』(2014)、『Entre-Temps』(2025)など。
日本ではミュージカル『DORA~100万回生きたねこ~』(1996)、『Iris』(2003)、楳図かずお原作のミュージカル『わたしは真悟』(2016)を発表。さらには、シルク・ドゥ・ソレイユ、クレイジー・ホース、エルメス・インターナショナルなどから依頼を受けて作品を創作している。

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