舞台『リンス・リピート ―そして、再び繰り返す―』演出:稲葉賀恵コメント
■演出:稲葉賀恵
人の心とはどんなものでしょうか?
幾万年もの間、この正体の分からない心というものと共に私たちは生きています。
今の所地球では誰もが平等に母親の胎内から生まれるので、
私たちの心の出生地は母の胎内にあるのかもしれません。
でもこの世で目を開いた瞬間に、自分の心の現在地を図る過酷な旅が始まります。
誰かに認められ、誰かにとって価値のある人間に。善悪の分別をつけ、白か黒か、はっきり答えが出せる人間に。複雑で繊細でグラデーションだったはずの心が現在地をすっかり見失ってしまった時、私はふと後ろを振り返り自分のこの身体を作った母の姿を探し、父の匂いを探します。私はこの世界にいていいのだろうか、と彼らに問います。
この物語はとある一つの家族を巡る物語です。
家族を一つ語ることで、私たちがなぜ今諍いを起こし、他人を疑い、愛し、傷つけ、抱きしめるのか、私は少しだけ分かると信じています。
そして烏滸がましい言い方ではありますが、
私たちは誰もが誰かのために必要な心を持って生まれてきた。
この世界にあなたはいていいのだ。そんな物語になると思っています。
<プロフィール>
演出家。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。大学在学時より映像作品創作をスタートさせる。2013年文学座座員に昇格後、4月に文学座アトリエの会「十字軍」にて初演出。
その後劇団内外で精力的に演出活動を続けている。近年の主な演出作品に、musical『ラフヘスト~残されたもの』、音楽劇『不思議な国のエロス』、『ブレイキング・ザ・コード』、『私の一ヶ月』、『墓場なき死者』、『誤解』など。23年、オフィスコットーネ 『加担者』、PARCO劇場『幽霊はここにいる』の演出で第30回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。