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「舞台は積み重ねだと思う」/新作ミュージカル『ミセン』主演・前田公輝インタビュー
  • インタビュー

ミュージカル『ミセン』が2025年1月に世界初演を迎えます。

原作は、韓国のウェブコミック・WEBTOON(ウェブトゥーン)で大ヒットし、累計300万部を突破した同名コミックス。ドラマ化された際には、韓国のエミー賞と言われる百想芸術大賞など、2014年度のドラマ賞を総なめにし、「ミセンシンドローム」と呼ばれるほどの社会現象を起こした『ミセン』がこの度、世界で初めて舞台(ミュージカル)化されます。

今回、囲碁のプロ棋士になる夢が絶たれ、商社のインターンとして働くことになる主人公のチャン・グレ役を演じるのは前田公輝。お稽古の状況や役に対する思いなどを聞きました。

(取材・文:五月女菜穂/撮影:山本春花)

\\稽古場ダイジェスト映像公開中!//

01  リアリティとチームワークが鍵
02  チャン・グレは自分とは程遠い人間だけど
03  人生は自分の選択次第であらゆる道に進むことができる

リアリティとチームワークが鍵

今、前半部分のミザンス(※舞台上の動線や立ち位置のこと)がついた段階です。


日本初演で主演ということで、稽古の過程でいろいろと覚えるべきことややることが出てくると思ったし、なるべく周りを見ていきたいと思ったので、僕は稽古前にセリフを全部頭に入れて臨んだんですね。ふふ、気合い十分でしょう?(笑)。案の定、いろいろとセリフの変更が発生してきて、今はそれにアジャストしている感じですね。

もちろんありがたいなという感謝の気持ちもありますし、やるべきことをしっかりやらないといけないなと身が引き締まる思いがあります。


ただ、やはり初の舞台化にあたってはいろいろ変更があるし、ギリギリまで調整に調整を重ねることが多いと聞いているので、それは主演でなくても戦わないといけないことだとも思って……だから、そういう意味だと最初に「主演です」と聞いたときが一番緊張したかもしれませんね。


今回、僕の演じるチャン・グレは、邪魔になりづらいキャラクターだから、立たせやすいんでしょうね。2時間半の舞台にほぼずっと出ているのですが、自分のことでいっぱいいっぱいにならないようにはしたいなと思っています。

そうですね、今回の『ミセン』はリアリティとチームワークが鍵になっている気がします。


きっと原作をご存じの方は「『ミセン』で歌うって、どういうこと?」「チャン・グレが歌うの?」と思う方もいると思うんですよ。確かにミュージカルって、パフォーマンス的な部分が少なからずあるじゃないですか。多くの人にとって、日常の中で歌で感情の吐露をすることなんてなかなかないでしょうから、お客様もミュージカルを“エンタメ”として観る必要があるというか、そういうものだと思ってもらう必要があると思うんですよね。


今回もそういうパフォーマンス的な要素はあることにはあるんですけど、でもどちらかというと、そうではないリアリティの部分が色濃く出せていけたらいいなと考えていて。僕の演じるチャン・グレという一人の人物の芯を通してお届けできれば、きっと共感してもらえることがたくさんあるんじゃないかな。そう思って、今、頑張っています。


僕は舞台って積み重ねだと思うんです。映像作品は見るところをカメラが抜いてくれて、ときにはカメラワークで感情を作ってくれたりもすると思うんですけど、舞台作品は俳優一人ひとりの手先も足先も全部見えるし、観客はどこを見てもいいわけですよね。感情も動きもチームのみんながコツコツ積み上げていかないと成り立たない。そういう意味でチームワークを大切にしていきたいなとも思っています。

チャン・グレは自分とは程遠い人間だけど

いや、チャン・グレは僕自身と程遠い人間なんですよ。こんなに役との距離感があるのは……いや、『スリル・ミー』の彼役もまた全然違うんですけど(笑)、普通に生きている人間の中で、ここまで離れているのは人生初めてかもしれないです。

2023年上演ミュージカル『スリル・ミー』/撮影:田中亜紀

なので、いつも以上に役に寄り添ってお芝居をしないといけないんです。今までは自分の中で役を生んでいるというか、自分自身の幹から枝分かれした先に役ができていくというか、そんな感覚があったんですけど、今回はいろいろな角度から役を捉えないといけないなと思っています。

これは僕の意見ですけど、例えば、感動して泣くとか、思いっきり笑うとか、そういうことを俳優自身が日常で経験しないと、役を通して表現するときにリアリティが感じられない気がするんです。つまり、その感情を知っているか、知らないかでお芝居が変わってくる。


「俳優は映画を見て涙を流したときに、その涙を流している自分自身の姿を鏡で見る」なんていうエピソードを聞いたことがあるんですけど、僕も結構そういうことを意識しているタイプ。役に、自分の素直な感情を乗せていきたいと思っている派なんですね。


でも、チャン・グレではそれができない役な気がして。チャン・グレ自身は囲碁のプロ棋士を目指していた。感情を出すことで相手にヒントを与えてしまう、それで勝敗が決まってしまう世界で生きてきた。だからだと思うんですけど、感情表現が豊かではないんですよ。そういうところが違うなと思います。

そうですね……あ、でも数日前の出来事なんですけど、自分のソロナンバーの歌詞が半分ぐらい変わったんです。それまで1ヶ月ぐらい稽古していたのに、初演だとこんなに変わることがあるんだと驚いたんですね。


この感情はどこにも出ないのかと思うと、少し悲しくなったりもしたんですけど、でも見方を変えると、会社組織だとこういうことは日常茶飯事だよなと思ったんです。


僕たち俳優は、ありがたいことに、やったらやった分だけ身になる仕事だと思うんですけど、『ミセン』で描かれているような会社組織はそううまくはいかないんだよな、と。


9割自分の部署でプロジェクトを手掛けているのに、ちょこっとしか関わっていない他部署の人がその成果を横取りして、評価されたりするわけでしょう?それでも前に進まないといけないんですよね?僕、『ミセン』を見て、ここが1番の衝撃だったんですけど、会社員の友達に聞くと結構あるあるみたいだったので……。


だからソロナンバーの歌詞が変わったこともある意味役づくりに生かせるなと思っています!

はい。原作やドラマなどを見ながらチャン・グレ像を深掘りしたり、ミュージカルの脚本で「なんでこのセリフを言うのかな?」「このときはどういう気持ちなのかな?」と疑問に思った部分を分析したり、原稿用紙20枚ぐらいにバックボーンを書き出す作業もしていて……。

理想はやりたいですけど、今回は特に距離感が遠い役だからそれぐらいやらないとダメだと思って。

ただ、その原稿用紙を見返すことはしていないです。そこに書かれているのは、あくまで僕の正解でしかないし、見返すとその場に収まってしまう気がするから。

人生は自分の選択次第であらゆる道に進むことができる

いやぁ、みんな優しすぎますよ!


僕、一応主演をやらせてもらっているので、ご飯を奢らせてもらったことがあるんですね。そうしたら次の日から、みんながプレゼントやら差し入れやらをどんどん持ってきてくれるんです。僕が見返り求めているみたいになるので、本当にいいのに!(笑)。

……そんなシチュエーションも『ミセン』みたいなんです。インターン生がチームを組んでプレゼンをしなくてはいけなくなって、みんな、スキルがないチャン・グレと組みたがるんです。自分のスキルが目立って、いい評価を得られるから。それでチャン・グレが人気者になって、デスクにプレゼントがあふれるというシーンがドラマ版にはあるんですけど、まさにそれが僕の稽古場のデスクで再現されているんです!

舞台化にあたり、20時間もあるドラマを2時間半に圧縮しなくてはいけないこともあって、2幕なのに1幕の曲が入り込むなど、リプライズが効果的に使われているなと思います。

お客様も繰り返し流れるメロディを聞いたら、きっと『ミセン』のいろいろな場面を思い出してくれるんじゃないですかね。

僕はこれまでミュージカルをやってきた中で、「もう少し歌の中で情景を見せてくれ」と言われてきたんですけど、今回初めて「情景が見えすぎる」ということで、柔らかい日本語に歌詞が訂正されたんですよ。それはある意味、自分の中で深めたチャン・グレが歌に乗っかっている証拠で、自分の中での成長だなと思っています。

夢を追っている人や希望を求めている人にぜひ観ていただければいいなと思います。


チャン・グレは全くスキルも何もない状態で、社会人生活を始めているわけですが、きっと何かに挑戦している/挑戦しようと思っている人たちにとって、彼の奮闘ぶりに共感したり、励まされたりする部分があると思います。


人生は自分の選択次第であらゆる道に進むことができるし、僕たちは一人じゃないーー。そんなメッセージを届けられたらいいなと思っています。

 インタビューメモ 12月上旬、東京都内で行われている稽古を1時間ほど見学させてもらいました。

この日は、とある楽曲の稽古から。稽古場には、実際のセットと同じ寸法で作られた装置があり、キャストがカウント内に所定の位置に移動できるかという“検証”からスタートしました。

振付・ステージング担当のKAORIaliveさんの指導のもと、キャストの皆さんが何度か踊ってみて、それぞれの動線や立ち位置を固めていきます。実際は数十秒のシーンですが、数十分をかけて、細かく細かくシーンを積み上げている姿が印象的でした。

チャン・グレ役の前田公輝さんはじめ、アン・ヨンイ役の清水くるみさん、ハン・ソギュル役の内海啓貴さん、チャン・ベッキ役の糸川耀士郎さんの4人は、互いの動線やタイミングを確認しあうなど、“インターン同期”らしく仲睦まじい様子。前田さんが動き出すタイミングを誤ってしまうと、残りのメンバーがその間違いを優しく指摘したり、稽古の合間にはお菓子を分け合う姿も見られたりして、前田さんがインタビューで話していたように「優しすぎる」現場が感じられました。

オ・サンシク課長役の橋本じゅんさんや、キム・ドンシク課長代理のあべこうじさんは自身の動きを確認しつつも、合間の時間に周りにいるキャストと談笑していて、ムードメーカー的な役割を担っていましたし、その場面には出ていなかったチェ・ヨンフ専務役の石川禅さんとソン・ジヨン次長/グレの母役の安蘭けいさんは、稽古場の席が近いこともあって、何やら楽しそうにお話をされていました。

とても和やかな雰囲気の漂うカンパニー。開幕まで1ヶ月ほどありますが(取材時)、これからどんなミュージカル版『ミセン』の世界を見せてくれるのでしょう。ますます開幕が楽しみになりました。

期間2025年2月6日(木)~2月11日(火祝)
会場めぐろパーシモンホール 大ホール
座席表
チケット情報チケット絶賛販売中!

・エグゼクティブシート:16,000円(優先入場ほか特典付)
・S席:13,500円
・A席:11,000円
・U-25:7,500円(11月13日~販売)
・Yシート:2,000円(11月18日~11月24日販売)※販売終了

チケット情報詳細>>
ツアー公演大阪*、愛知公演
*=ホリプロステージでのチケット取扱いあり
作品HPhttps://horipro-stage.jp/stage/misaeng2025/

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