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ホリプロが初めてイマーシブ(没入型)演劇に挑む。「リアル脱出ゲーム」の黎明期から数々の名作を生み出してきた体験型コンテンツクリエイター・きださおりを迎えた、この挑戦。きだと株式会社ホリプロ執行役員 公演事業本部長/プロデューサーの篠田麻鼓が目指すものとは?
(取材・文:三浦真紀)
12月28日(土)から
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その人が生きてきた中で培ったものを活かす、イマーシブ演劇
――ちょうどオーディションが終わったところです。演技審査(既存の台本を使った演技)とフリートーク(役になり、テーマに沿って即興でディスカッション)を通して、参加者の何に着目なさいましたか。
きだ:イマーシブ演劇の場合、お客様の近くで演技をすることが多いので、ステージ上ではなく、すぐ目の前で演技する姿を見ています。学校の隣の席に座っていたら?くらいの距離感ですね。フリートークに関しては瞬発力です。この人が喋るだけでみんなが聞いてしまう、思わず笑顔になれる、みたいな天性の魅力を持っている方、あるいはワークショップ全体を楽しくしようと意識してお話しされている方に惹かれました。
篠田:演劇のオーディションとは違いますね。あるシーンを演じていただき、演出家の方が「ここをこうして」と指示して、芝居がどう変わっていくのか、演技の伸びしろや対応力を見るスタイルに慣れているので、今回の形式は新鮮で面白かったです。特にフリートークではその人自身の人間性など見えるものが多くて。イマーシブ演劇で求めているキャストがこのオーディションを通じて見えた気がします。
――募集要項には演技経験は不問とありました。その理由は?
きだ:私の経験上、演技経験がなくてもとてもコミュニケーション能力が高い、もしくはすごく気遣い上手、そういう方々に入っていただくと、体験部分の質がとても上がったりするんです。イマーシブ演劇はまだ歴史が浅い分、新しいから面白そう!と参加してくださる方も多い。そんな好奇心旺盛な方たちがすごくフィットして、本番になると初心者と思えないくらい成長したりするんです。
その後、イマーシブ俳優として活躍している方も大勢います。その人が生きてきた中で培ってきたものを活かしていただけるのが、イマーシブ演劇です。
篠田:本当にたくさんの方にご参加頂き、ご一緒してみたい方がいっぱいいました。でも残念ながらキャスト数は決まっていて。求めるキャラクター像にはあてはまらないけど、この人面白いなみたいな方が何人もいました。
きだ:今回は普段、私たちが開くオーディションよりも様々な種類の舞台やテレビに出られている俳優さんが多い印象でしたね。
篠田:全く経験のない方から、イマーシブの経験豊富な方、演劇畑、ミュージカル畑など実に様々。イマーシブの経験者は場慣れされているので、すぐわかりますね。場を仕切ってくださったりして、安心感がありました。こういったイマーシブ演劇から、スターが生まれる可能性も?
きだ:イマーシブ演劇では「この人だけがスター!」という状態にならない人が、実はとても優れた俳優さんです。なぜかというと、イマーシブ俳優はその世界にお客様を自然に引き入れる人だから。
例えば「不思議の国のアリス」のマッド・ハッター役だとしたら、その役に注目が集まるよりも、アリスの世界が本当に目の前に広がっていて自分がその中にいると思わせることができる、それが素晴らしいイマーシブ俳優。実力があって人気になる素地はあってもその方向ではなく、どの演目に出ても空気を作っている人がスターだと個人的には思っています。私としては、そんな世界観スターみたいな人が人気者になりお仕事がたくさんある状態になると嬉しいなと思っています。
篠田:素敵ですね。やはり実力がある人たちがきちんと活躍できる場があることが大切ですから。
――ホリプロが今回、イマーシブ演劇をやろう!となったきっかけについて、教えてください。
篠田:そもそもホリプロは劇場を持たない制作集団です。つまり、劇場が借りられないと仕事が始まらない。ですから、劇場ではない場でも行えるイマーシブ演劇に、いつかは乗り出したいと思っていました。しかしコロナ禍もあり、なかなかチャンスがなくて。共通の知人を介してきださんと出会い、何度かお話をさせていただく中で、まず一つ作ってみましょうという流れになりました。
きだ:実は子供がうまれたばかりでママ友を紹介してくれるということで喜んでお会いしたら、イマーシブに興味津々の篠田さんがいらっしゃって(笑)。
お話を伺ったら、とても感性が合うんです。イマーシブ演劇のご相談ではミステリーなどシビアな世界観の作品を求められることも多いのですが、篠田さんは楽しいものを目指したいと仰っていて、やりたい演目の温度感がぴったり。こんなプロデューサーと巡り合えることはなかなかない、これはやるしかない!と、帰宅してすぐに企画書を書きました。
篠田:イマーシブはダークな世界観、ホラーやオカルト系との相性が非常に良く、実際にそういう作品が多い。それも好きなのですが、今回は心温まるイマーシブ演劇を創作できないかと考えました。ホリプロ作品の特徴の一つが間口の広さ。子供から高齢者まで、老若男女誰もが楽しめる。そしてご覧いただいた方たちがそれぞれの物語を紡いで、会場を出た後にじんわり満たされた気持ちになっていただける、そんな作品を作りたい。私がまだそういったイマーシブ演劇に出会えていないから、やってみたいと思ったのかもしれません。
――きださんがイマーシブ演劇を始めたきっかけは?
きだ:2011年頃から謎解きのイベントを作ってきました。アンドロイドが目の前に座って、その動かないアンドロイドに向かって自分たちが導き出したキーワードを入力していくと、アンドロイドの目が開き、だんだん人間の感情を覚えていく……みたいな類の作品です。
私は参加型イベントが好きで、もっと参加型イベントに来てくれる人を増やしたいと考え、どうすれば来てもらえるかを聞き回ったりしている時に、謎が苦手で行けない、解けないかもしれないと躊躇する方もいらっしゃると知って。自分もそこまで謎解きが得意なわけではないので、自分みたいな人も楽しめるように、謎を抜いてストーリー重視のものも作ってみたりしました。すると、どうやらそれを海外では「イマーシブ」と呼ぶらしいと聞いて。実際にロンドンとニューヨークに観に行って納得しました。帰国して、「私がやっていることはイマーシブって言うんだって!」と(笑)。そんな流れで、私としては、謎解きからシームレスにやってきた感じです。
篠田:謎が解けないのは私です(笑)。リアル脱出ゲームみたいな謎解きだと、完全に置いてけぼりになっちゃう。
きだ:わかります。謎解きも面白いんですが、苦手意識がある方にもぜひ来てもらいたいと、謎がないストーリー体験として、キャストの力で盛り上げるスタイルが生まれたんです。
篠田:私みたいにノリが悪すぎてなかなか前のめりに没入できない人も置いてきぼりにならないものを作りたいな、と。演劇好きな方たちには、参加型を敬遠する方もいらっしゃる気がするんです。
会場は実際の学校!地の利を活かす作品に
――ちょっと引っ込み思案の方でも楽しめるイマーシブ演劇、期待大ですね。今回、学校が会場となるようですが、どんなチャレンジを考えていますか。
きだ:学校でリアルに起きること、行われていること、むしろ学校でなければできないことをたくさん詰め込もうと思います。そして最後には、とっておきの盛り上がりが!イマーシブ演劇においても画期的な試みになるので、ぜひ期待していただきたいです。
篠田:会場になる学校の下見に行って、ものすごく心がときめきました。旧校舎と新校舎と構造が入り組んでいて、そこで迷子になったりするだけでも十分に楽しい。地の利を活かす作品にできたらいいですね。
きだ:ほんと、学校がとても素敵で。生徒さんたちは見学者の私たちとすれ違うと挨拶をしてくれます。でも生徒たちには生徒たちの世界があって、私たちが一緒に給食を食べるとか、授業で答えるとか、その世界に入っていくわけではない。だけど、私たちが「今、何しているんですか?」と訊ねると、ちゃんと答えてくれる。そんな、ちょうどいい温度感のコミュニケーションができるのが面白いなと思いました。
篠田:生徒さんたちはエネルギーに溢れていて、走っている姿もたくさん見ました。大人は隙あらば座るのに高校生は走るんだと、その疾走感にもときめきました。
きだ:実はあの感じをどうしたら出せるのかと悩んでいたんですよ。でもオーディションに来た高校生役の方々がもうあの校舎にそのままいそうな方々で、これなら出せる!って確信しました。また今回は篠田さんのようなシャイな方にもお楽しみいただけるように、前半は丁寧に楽しみ方をお伝えします。その上で、後半にはご自由にどうぞ!という形にできたら。初めてイマーシブ演劇を観る方が、自分がどう行動したら楽しいのかがわかりやすいように作っていきたいと思っています。
篠田:イマーシブ演劇の草分け的存在、英国の劇団Punchdrunk。彼らの代表的作品『Sleep Mo More』では、参加者が仮面をつけて幽霊化します。今回は参加者を物語の一部として存在させる形にできたらいいな、と。
――イマーシブ演劇は最近、エンタメ界でかなり活性化していますね。
篠田:はい。先日もニューヨークでPunchdrunkの『Life and Trust』を観てきました。金融街の中心にあるビル、コンウェル・タワーが会場で、お金の掛け方が半端ない。ロングランをベースに投資され、その意味でも一つの商業エンタメになりつつある気がします。日本の場合はまだ実験的にいろんなものが上演されている段階だと捉えていますが、そろそろ劇場を持たない者たちが少しずつ広げていく時ではないかと私は思っています。すごく可能性を感じるんですよね。
きだ:そうですね。私がハマってロンドンに通っていたのが6、7年前。目につくイマーシブ作品は全て観ました。小劇場のパロディーものから、映画「007/カジノロワイヤル」とタイアップした大作まで、実に様々。インディーズの斬新な面白さと商業ベースに乗った集客力もありクオリティの高いもの両方が共存していました。日本もこれからイマーシブ演劇が広がっていくでしょうね。
篠田:きださんもいくつかの演目で脚本・演出を手掛けた、世界初の宿泊型イマーシブシアター 「泊まれる演劇」シリーズは画期的だと思いました。そうした、お客さん一人一人にカスタマイズしたものもやっていきたいと思いますが、きださんは今、どの方角に向かっていきたいとお考えですか。
きだ:私は両方あるべきだと思っています。「泊まれる演劇」は参加人数が絞られていて、宿泊込みの料金となっています。それって毎週のように行ける金額ではないかもしれません。でもとても参加濃度が高く、世界観も作り込まれ、本当に自分のためだけに起こっているようなストーリーを一晩かけて体験できる。その一方で、映画みたいに思いついたらパッと観られる、大勢がカジュアルに体験できることも一つの価値。1回1000人でワーッとやる面白さもあると思うので、どちらも作っていきたいですね。
篠田:私も同じ考えです。どちらの方角も面白くて可能性に満ちていると思います。
その空間にいるだけで楽しめる。そういったものを目指しています
――イマーシブ演劇を観てみたい、だけど経験がないから、シャイだから躊躇しているという方にアドバイスはありますか。
篠田:私も最初は自分のノリの悪さが発動されて戸惑いました。ですが何回も観に行くうちに、どこのポジション取りをしたらより早くキャストに付いていけるとか、わかってきたんです。やはり先頭で目撃するとその世界に入り込めたりするので、最初は戸惑われる方もいらっしゃるかもしれませんが、何回か足を運んでいただくと自分なりの楽しみ方がわかってくると思います。
きだ:前で楽しむ人、後ろで楽しむ人、いろいろいらっしゃいますね。実は私は後ろ見派。一番前でしっかり感じたいというよりも、全体の世界観や雰囲気を楽しむのが好きなんです。ですから何が何でも参加しようと気負わなくても、その空間にいるだけで楽しめる。そういったものを私たちは目指しています。お客さんが来てくださりさえすれば必ず楽しめるもの。
篠田:それは心強いですね。ホリプロにとっては初めてのことで、まだ学びの最中。まずは謙虚に、イマーシブ演劇で何が人の心を動かすのかをきちんと学ぶところから始めて、徐々に商業ベースに乗せていくことになると思います。最初の一歩がものすごく楽しみです。小さくまとまらず、大いにいろんなチャレンジをしたいですね。同時にお客様のフィードバックをいっぱいいただいて、いろんなことを感じながら、「お客様の心に刻み込まれる特別な体験」を創り出していけるよう頑張ります!
◉総合脚本・総合演出:きださおり
<プロフィール>
福井県出身。没入感の高い体験型エンターテイメント企画を生み出すクリエイター。週刊少年ジャンプ史上初の体験型推理ゲーム漫画の原作や、東京ドームシティを会場にした「黄昏のまほろば遊園地」の監督、世界初の宿泊型イマーシブシアター『泊まれる演劇』脚本・演出を担当し、体験型ファンのみならず幅広い人々に楽しまれている。イマーシブ体験に特化した『株式会社夕暮れ』を2024年10月に設立した。
◉株式会社ホリプロ執行役員 公演事業本部長:篠田麻鼓
<プロフィール>
2001年株式会社ホリプロ入社時より舞台・ミュージカルの制作に携わり、プロデューサー、部長を経て執行役員 公演事業本部部長に就任。プロデューサーとして担当した作品:『ラブ・ネバー・ダイ』『メリー・ポピンズ』『マシュー・ボーンの「ドリアン・グレイ」』『100万回生きたねこ』『わたしは真悟』『ねじまき鳥クロニクル』他多数。
作品名 | イマーシブ演劇『RE:PLAY AFTER SCHOOL』 |
期間 | 2025年3月27日(木)~3月30日(日) |
会場 | 千代田中学校・高等学校(令和7年4月より当名称に学校名を変更予定) |
チケット料金 | ★12/28~ホリプロステージにて独占先着先行発売 ・VIPチケット:平日10,000円/休日10,500円 VIPチケット詳細>> ・一般チケット:平日7,500円/休日8,000円 ・U-25チケット(25歳以下限定):平日休日共通6,000円 ・Yチケット(20歳以下限定):平日休日共通:2,000円 (税込) |
作品HP | https://horipro-stage.jp/stage/immersive_vol1/ |