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3年ぶりの再々演を控えるミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』に、今回より新キャストとして参加するアルヴィン役の山崎大輝とトーマス役の小野塚勇人。ふたりだけのミュージカル、その濃密な世界を創り上げるべく稽古に励む彼らの元に向かい、本番に向けた意気込みを語ってもらった。
(取材・文:横澤由香/ポートレート撮影:山本春花/稽古場撮影:田中亜紀)
10/28(月)18:00~注釈付席追加販売!
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稽古序盤、今はまだ“物量”との勝負
──まずはこの『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』という作品、おふたりの心にはどんなふうに届きましたか?
山崎:第一印象は「本当に友情の物語だな。音楽も美しいし、ハートフル」。
でも読み解いていけばいくほどにどんどん深さというか…たぶん人間誰しもが持っているようなちょっと言いづらい気持ちなどがセリフにも音楽にも反映されていて、「これは一筋縄ではいかない、しっかり考えてやらなければ」と強く感じています。楽曲も調がメジャーなのでキャッチーっぽく聴こえるんですけど……
小野塚:実際に歌うのは超ムズい。複雑。
山崎:そうなんです!
小野塚:観客側としては歌とお芝居の切り替えもスムーズで、観やすくて、そこが素晴らしい作品だなと思います。特にトーマスはいわゆる説明の部分もセリフになっているんですけど、そこも全然しつこさを感じないです。
でもセリフと説明と歌を状況によって切り替えていく複雑さ! やってる側は次々頭を切り替えていかなきゃいけないのでめちゃめちゃ大変です。今はまだその物量にやられてる。稽古期間中で一番つらい時期かもしれません(笑)。
山崎:確かに(笑)。まだ自分たちもゆっくりとセリフを言って、ひとつひとつの状況を理解しながら進めているような感じです。もう少し慣れてきたら歌もセリフも体に染み込んで、もっとメリハリやテンポも出てくると思うんですけど。
小野塚:うんうん。今は本当に稽古の最初の段階にいるところですね。
──ご自身が演じるキャラクターについてのイメージは?
山崎:アルヴィンは元々明るい人物で「なぜ明るい性格になったのかなぁ」と、すごく考えています。彼の『素晴らしき哉、人生!』のジョージ・ベイリーへの傾倒だったり、父親と自分の現実の状況だったり、あと自分の世界がすごい広がっているところや、その中でのトーマスとの関わり方の変化とか…とても演じ甲斐のある人物ですよね。アルヴィンとしてはトーマスのことをなるべく振り回せたらいいなと思いますし、でも時にはちょっと温かく見守ったり、導くような役割もあって、現在と過去でも何かちょっと接し方が違っている。
概念的な話ですけど物語の中でアルヴィンは1回死を迎えている人物なので、その不思議なポジションの難しさも感じながらどういうふうにトーマスと関わればよかったのかなという回想というか、どこか達観したような感じも出せたらいいなと考えています。
小野塚:トーマスは基本はシンプル。普通の人が感じるような感情を持った青年だと思っています。ただ、元々自分に自信がないタイプで、自分で自分を追い詰めることでそれを消化しようと努力しているようにも見えますよね。目立つタイプではないけど、「本当はもっと世界に出ていきたい」という向上心が強く、実は誰よりも世界というものに対して好奇心を抱いている。
だからこそ彼には自由に生きてるように見えるアルヴィンがすごく羨ましくて、すごく好きだけど、ある種の「嫉妬」みたいなところもあったり。大人になってもアルヴィンが「応援してる」「頑張れ」って言ってくれるのも最初は嬉しかったのに、だんだんプレッシャーになり、そのうち嫌味のように捉え始める。離れて暮らすうちにこじれた大人の考え方になってしまうのもわかります。社会の常識に縛られて苦しいんだなぁと。
アルヴィンとトーマスは響き合い補完し合う仲
──切なさを伴う心の成長痛ですね。
山崎:アルヴィンからしてもトーマスのことは羨ましいと思っているはず。自分がやりたかったこと…外の世界に出たいという思いをトーマスは達成し、都会で作家としていろんな人に認められてますからね。アルヴィンは父親の本屋を継いで、結局外の世界を知らずに…いや、成長して時が経つにつれ「多分自分はこの環境を変えようがないんだろうな」ってわかっているので、ある種トーマスに賭ける、みたいな思いもあるんだと思う。「自分にはトーマスしかいない」って。多分、ふたりはお互い補完しあっている関係なんだと思います。
小野塚:(頷く)。子供の頃のトーマスはアルヴィンこそ外に出て行って自由に生きる人間だと思っていただろうし、大学に行くときも「一緒に来いよ」って言いたかったかもしれない。でもそれを言わないのがトーマスの優しさであり、繊細な部分でもあり、はっきりしない良くないところでもある。ただ、トーマスにもアルヴィンしかいなかったんだと思います。
そもそも小学校のハロウィンパーティーでクラスから笑われ者になって余った2人、が最初の出会いですし(笑)。あれはトーマスにとってかなりなトラウマ。自分の好きなものを好きと言ったらみんなに笑われて、それ以来「普通でいなきゃ」って、すごく周りを気にして生きていたと思う。でも根っこの感覚というか、アンテナというか、好きなものへの趣向とかがアルヴィンとは響き合っているから、大人になっていろんな人は寄ってくるけれど、結局アルヴィンが一緒にいて一番安心していられる相手なんですよね。
山崎:アルヴィンは幼い頃に大好きなママを亡くしたことも大きいですよね。大切な温もりや安心感を失ってしまって、でもそれが逆にアルヴィンを強くさせた部分でもある。もう自分から何か失くなるのは嫌だし、すでに失くしたものを補完するように働く想像力で生み出す“自分ワールド”にトーマスを引き込む力があって。
小野塚:そしてトーマスもそれをちゃんと感性でキャッチしている。蝶々のエピソードを始め何作も小説を書けていたのも、彼がアルヴィンの言動を楽しんで覚えていたからなので。
──今作の日本初演では回によって役をスイッチ、ふたりの俳優がそれぞれ2役を演じるというスタイルでした。もし相手の役を演じるとしたら…
小野塚:いや、スイッチしたくない(笑)。今で精一杯です。
山崎:俺もそれはわかるけど…ほら、「もしも」だから(笑)。
小野塚:うーん…アルヴィンは…山崎くんはもうずっと稽古場で汗びしょびしょになってるからなぁ。
山崎:そうなんですよ!トーマスが歌ってるときもこっちは動き回ってゼーゼーしてる(笑)。
小野塚:どっちもそれぞれに大変だとは思いますけど、アルヴィンはフィジカル的にハード。キャラもちょっと飛んでるから普通の会話でも日常のテンションじゃないエネルギーを出さないといけないと思うし、だけどやっぱり繊細なところもあるので…アルヴィンは難しい役だなと思います。
山崎:フィジカルの比重は確かにアルヴィンのほうがあるとは思うんですけど、でもトーマスはもうずっと鬱憤を抱えているというか、状況に戸惑い続け、ずっと思考が続かなきゃいけなくて…
──常に課題を出され続けているような?
山崎:はい。アルヴィンに「何か言ってよ」と課題を出され続け振り回され続け、しかも最終的には「いや、結局はお前のほうがちょっと優れてるんかい!」みたいな敗北感を感じたり。そこには「でも君には君の良さがあるんだ」というメッセージもちゃんとあるんですけど、トーマスはとにかくメンタル面の疲弊がとんでもない役だよなぁと感じます。
──同じ場所にいてもふたりの重力が違う感じはありますよね。
山崎:アルヴィンはファンタジー的な部分に存在していて、トーマスは現代のリアルの部分にも存在しているので、その乖離性というかバランスを表現するのはとても難しいと思う。始まり方ももう絶対に何かうまくいってなくて、何かを思い出そうとしてここに連れてこられた、という…あそこの歌い出しの緊張感もなかなかだと。
小野塚:ありますよ、緊張感。「え、このメロディーから入るんだ」と、結構想像と違う重めな感じで始まるし──というように、やっぱり今は自分の役に集中してしまいますね。とりあえず僕らはこの組み合わせで頑張っていくことしか考えられないかと。
山崎:…ですね。
濃密だからこそ体感はグンと速くなる
──この先の稽古でもまだまだ有意義な時間を過ごせそうですね。
山崎:はい。あとなにより稽古を始めてわかったことが、「本当に袖にハケないんだ!」と。もう僕ら、ずっとステージにいるんです。
小野塚:最初の舞台装置の説明の際に「とりあえず入ったら出ないので、一応上手の1番とか2番とか番号は振っていますが、関係ないです。気にしないでください」と言われました(笑)。
山崎:アルヴィンなんて梯子を登ってきてのスタートなので、もうそれこそ上手でも下手でもないんです。「梯子」です(笑)。
小野塚:だから…最初に荷物を持って舞台へ出て、ドアをくぐって音が鳴ったらもう戻れないので、あそこで一度振り返りたくなるんですよ。「ああもうここから外には出れないぞ」って。
自分で覚悟を決めている感じがあります。最初の緊張を越えてしまえばもう自然と無我夢中になっちゃうんですけどね。
山崎:そう。めちゃめちゃ集中するので、体感的には実際の時間よりも早く感じられる。なのでお客様も本当にこの作品はすごい集中力を使う観劇になると思いますし、「見逃さないように」という気持ちでいてくださったら「本当に110分!?」ってなるくらい濃い時間を共有できると思うので、そのためにも今は稽古を頑張ってるという感じです。
──舞台上も客席もあの本に囲まれた空間へとどっぷり没入していく。豊かな時間ですね。
小野塚:アルヴィンにもトーマスにも大人になってから感じている窮屈な部分というのがあって、あり方は違うけれどすごくリンクもしている。そういった人生の中、自分で自分の人生の物語を作り上げていくためにもがいてる過程や楽しんでる様子とか、そういうところはやっぱりすごく見どころだと思います。
なので舞台をご覧になる方にもぜひみなさん自身の人生の何かしらのところに僕らのことを置き換えて見てもらったり、少しでも共感していただければいいのかなと思いますね。同じ思いを感じながら、ノンストップでこの物語を駆け抜けていく2人の姿をぜひ見届けて欲しいです。
山崎:この作品って、たぶん受け取る方の今置かれてる状況とか考え方で本当に見え方が全然変わってくる作品なんだと思うんです。アルヴィンとトーマスは表裏一体、ひとつのストーリーが時に表にも裏にも見える感じというか…。
でもこの作品だからこそのハートフルさというのは、やっぱりずっと変わらずにある。それを受け取ってもらえたらと思いますし、どんな状況の方であっても絶対に何かひとつ、今まで気付けてなかったことに気付いたり、大切なものは意外と近くにあるんだなっていうことが見つかるんじゃないでしょうか。そういう“日常が少しだけ特別になる”ようなお話になっています。ぜひ劇場でこの世界観を楽しんでください。
作品名 | ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』 |
期間 | 2024年11月5日(火)~11月15日(金) |
会場 | よみうり大手町ホール 座席表 |
チケット料金 | チケット好評販売中! ・9,500円 ・注釈付席:9,500円 (全席指定・税込) |
ツアー公演 | <大阪公演> 期間:2024年11月22日(金)~11月23日(土) 11月22日(金)14:00/18:30[太田・牧島] 11月23日(土)13:00[山崎・小野塚] 会場:サンケイホールブリーゼ 詳細はこちら>> |
作品HP | https://horipro-stage.jp/news/soml2024_event/ |