Story
トロイア戦争の勝利から十年。ギリシャ軍の総大将アガメムノン王が、ついに故郷アルゴスへと帰還した。 しかし、待ち受けていたのは愛する家族の温かい出迎えではなく、凄惨な悲劇の始まりだった。
妻・クリュタイムネストラ(キムラ緑子)は、かつて出陣の犠牲として最愛の娘イピゲネイアを殺した夫を許してはいなかった。彼女は、愛人アイギストス(徳重聡)と共謀して、アガメムノンを死の浴槽へと誘い惨殺。さらにはアガメムノンがトロイアから奴隷として連れてきた不遇の予言者カッサンドラ(豊原江理佳)をも道連れにし、王宮は血の怨念で満たされていく。 父を無残に奪われ、奴隷同然の辱めを耐え忍ぶ王女エレクトラ(明日海りお)。 絶望の底で彼女がすがり続けたのは、幼い頃に追放された弟オレステス(中尾明慶)の帰還と、母への「正義の復讐」だけだった。
七年の歳月が流れ、アポロンの神託を背負ったオレステスが、忠実なる親友ピュラディス(渡邉蒼)を伴い密かに帰国。 亡き父の墓前で再会を果たした姉弟は、血塗られた復讐劇へと突き進んでいく。 しかし、神に命じられるまま母を手にかけたエレクトラとオレステスを待っていたのは、深い暗闇だった。 暴走する激情、狂気、そして混迷を極める世界——。 乱世の渦中で酒に逃れ、人間たちの愚かな争いを醒めた目で見つめる酔っ払い(山西惇)の言葉は、漂流する世界の本質を静かに突く。
果たして「復讐」の果てに待つのは救いなのか、それとも終わりなき暴力の連鎖なのか。 正義を振りかざした殺戮、憎しみが憎しみを呼ぶ連鎖、そして分断。紀元前から語り継がれるこの物語は、今なお戦争や対立を繰り返す現代社会の残酷な鏡像にほかならない。 自分の内なる「正義」と「悪」は何処にあるのか。 争いの絶えない“いま”を生きる私たちに、この舞台は容赦なく問いかける。



