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渡辺えりが脚本・演出を手がけ、市村正親、中川晃教、影山優佳、東島京ら多彩なキャストが集結する『シークレットステージ』。開幕を10日前に控えた稽古場では、生演奏を交えながら、一つひとつのシーンを試行錯誤して作り上げる姿があった。
小劇場・アングラ演劇の世界で長く創作を続けてきた渡辺と、ミュージカルをはじめ異なるフィールドで活躍してきた俳優たち。世代も、歩んできた演劇の道も違う者同士が、それぞれの“演劇の言語”を持ち寄り、時に戸惑い、笑い合いながら、新たな作品を立ち上げていく。
「演劇を50年以上やってきて、初めての現場ですね」。 70歳を超えた渡辺をして、そう言わしめる今回の舞台。その創作の真っただ中を訪ねた。
(取材・文:五月女菜穂/撮影:SHUN ITABA)
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音楽、芝居、動き、気持ち
一つひとつを試しながら、劇中劇を立ち上げていく
稽古場に入ると、ピアノやバイオリン、バンドネオンの音色が響いていた。この日からミュージシャンが稽古に加わったという。
本番を目前に控えた稽古場。そこで目にしたのは、すでに出来上がった作品を繰り返し磨き上げていく光景というより、作品そのものが今まさに形を得ようとしている瞬間だった。

この日、時間をかけて稽古していたのは、冒頭のシーン。市村正親の詩的なひとりセリフから始まり、そのほかの俳優たちがコロス的に動く。そして生演奏が入ってーー。渡辺えりから「ここ、もう少し音を足せますか」と声が飛ぶ。いったん止めて、ミュージシャンがほぼ即興で音を作り、もう一度。俳優からも「ここは私はこう動いているから、ここを通ったタイミングで音を出すのがいいかも」といった細かなアイデアが出る。それを受けて再びシーンが動き始める。

そもそも、この場面は劇中で上演されるミュージカルの一場面。渡辺によれば、ここをきちんと「ひとつのミュージカル」として成立させておかなければ、その後に明らかになる時間の経過が伝わりにくくなるという。
だからこそ、10分足らずの場面にも時間をかける。音楽、芝居、動き、気持ち。一つひとつを試しながら、劇中劇を立ち上げていく。
異なる演劇バックグラウンドを持つ人々が集まる
印象的だったのは、渡辺が完成形を一方的に俳優へ渡しているのではなく、俳優たちの芝居を見ながら作品そのものを変化させていることだ。

実際、渡辺は今回、俳優たちの演技を見てから「あて書き」のように脚本を書き換えているという。「最初から随分変えて、見ながら書き加えたりしている」と話すように、稽古場で起きたことがそのまま作品へ流れ込んでいくようだった。
その作り方は、今回の座組だからこそ必要なものなのかもしれない。
渡辺が長年活動してきた小劇場・アングラ演劇の世界と、市村正親、中川晃教らが歩んできたミュージカルの世界。異なる演劇のバックグラウンドを持つ人々が、この作品ではひとつの稽古場に集まっている。

演出イメージの例えが伝わらない時は説明し、実際にやってみせる。稽古場では、世代だけでなく、それぞれが身につけてきた「演劇の言語」そのものを翻訳するようなやりとりが繰り返されていた。 「例え話がなかなか通じないっていうのが新鮮で、すごく笑えますね」。渡辺は笑う。

けれど、それは決してネガティブな意味ではない。むしろ渡辺自身にとっても、これまで経験したことのない創作になっているようだ。
「今まで50何年かやってきて、初めての現場ですね」
長い演劇人生の中で、自分の作品を知り、渡辺の演劇を求めて集まってきた俳優たちと創作することが多かったという。今回は、その前提がない。だからこそ、当たり前だと思っていたことを説明し、ときには自分自身のやり方も変えていかなければならない。
この日の稽古でも、俳優たちから集まった意見を聞いたり、自身の“理想”を言葉で伝えたり、演出卓に座ったり、自らステージに立ったりと忙しく動いていた。

予定通りに進まないことさえ、作品の一部になっていく。稽古場を見終えた時点でも、この舞台が最終的にどんな姿になるのか、その全貌はまだ簡単には想像できなかった。
ただ、おそらくそれでいい。
渡辺えりという劇作家・演出家と、異なるフィールドから集まった俳優たちが、それぞれの「当たり前」を持ち寄り、ぶつけ合いながら、まだ見たことのないものを作ろうとしている。その途中に立ち会ったのだと思えば、この日の稽古場で繰り返されていた試行錯誤の一つひとつが、俄然面白く見えてくる。
70歳を過ぎた渡辺は、今回の創作について「非常に勉強になっています」と語った。
「この先あと10年はなんとか頑張ろうと思ったときに、いろんなところで演出しなくちゃいけないことが起きてくるわけじゃないですか。自分のやりやすい畑だけでずっと今までやってきて、そうじゃないことを今初めてやっているんだなって。そういう衝撃の日々ですね、毎日」
完成形がまだ見えない。裏返せばそれは、この舞台がいまなお生き物のように変化し続けている証拠なのかもしれない。
「できるだけ厄介で、疲れる芝居を」市村正親の一言から始まった
稽古の合間に渡辺にショートインタビューができた。
――そもそも、今回の作品はどのように始まったのでしょうか。
渡辺:市村さんが「できるだけ厄介で、疲れる芝居を書いてくれ」と言うので、それでものすごく複雑なのにしちゃったんです(笑)。本当に演じるほうも大変。自分で自分の首を絞めましたね。
入れ子式の構造になっていて、「徹底的に休ませないような芝居を書いてくれ」と言われたので、「わかりました」と、もうまったく引っ込まない芝居を書いているんですよ。ずっと出ずっぱりです。
――市村さんには、どんな姿を期待していますか?

渡辺:市村さんのお芝居はずっと観ていますし、一人芝居も観ています。今回は、普段の市村さんがあまりやっていないような、「本当に狂っちゃう人」みたいな姿を見てみたかったんです。
最初は正常だった人が、芝居の中でどんどん狂っていく。それを見たかった。相当ハードだと思いますよ。セリフも多いですし。でも、稽古をしていて、だんだんそういうふうに見えてきています。
これからひょうきんな部分も書き加えていくので、そこを見事に変化させていく市村さんを見てほしいですね。歌舞伎のセリフも言います。一般のミュージカルのお客様は、そういう市村さんをあまり見たことがないと思うので、そこも楽しみにしていただきたいです。
――中川晃教さんはいかがでしょう?

渡辺:中川さんとはもう以前ご一緒しているので、安心しています。取り組み方も真面目な人ですから。
今回は、すごくひょうきんな、笑わせるような役をやってもらいます。中川さんって、わりと二枚目の青年役が多いじゃないですか。でも今回はミュージカルのスターなんだけど、実は結婚していて、子どもが生まれたばかり……みたいな。家族と電話しているシーンもあって、面白いと思いますね。
女性の役もやるので、意外な中川さんが見られるんじゃないでしょうか。
――東島京さん、影山優佳さんのお二人については?
渡辺:東島さんは歌がうまいし、21歳と若いけれど、しっかりしていて、演劇が好きなんだなという部分がある。実際に会ったら中性的な魅力のある方だったんですけど、今回演じてもらうのは男っぽい役なんです。あとで女性の役もやるので、そこでメリハリをつけてもらおうと思っています。 すごく利発な方で、読解力のある人だと思っています。

影山さんも作家志望で、将来劇作家になりたいという人だから、のみ込みが早いですね。私の作品って構造がわりとシュールなんですけど、その構造を理解するのがすごく早い。だから、とても助かっています。

――今回、渡辺さん自身にとっても新鮮な現場になっているんですね?
渡辺:そうですね。世代の違いがおかしくて、ものの例えが通じないっていうのが笑っちゃうぐらいで(笑)。
「栗原小巻さんみたいに」と言っても知らなかったし、新劇も観たことがなければ、テント芝居も観たことがない、アングラも観たことがないっていう人たちに「アングラ芝居みたいに」と言っているんです。でも今の若い人たちって器用で、何でもこなす人が多いから、YouTubeで調べたりしてくれている。それが、今まで50何年かやってきて、初めての現場ですね。
だから、すごく新鮮です。70歳を過ぎて、非常に勉強になっていますね。自分のやりやすい畑だけでずっとやってきて、そうじゃないことを今初めてやっているんだなって。そういう衝撃の日々です、毎日。
――最後に、観客の皆さんへメッセージをお願いします。
渡辺:本当に、演劇が好きな人たちが、命がけで芝居をしているところを見てほしいです。 私は、演劇をやっていること自体が平和への祈りだと思うんですね。お客さんがいなければ演劇はできない。だから、演劇を観ていることの幸せというものを感じ取っていただければと思っています。
今は物価も高いし、子育ても大変だし、みんな大変だと思う。でも「苦しいのはあなただけじゃないですよ」ということを、役者が舞台で見せている。苦しい人たちの代わりに、その思いを昇華する役割を演劇は持っていると思うんです。
役者たちも、それに賛同したり、「違うんじゃないか」と思ったり、それぞれ自分の意見を持ちながらやっている。だから、今、現代の、今作られている“生の芝居”を観に来ていただきたいです。
皆さんが普段観ているミュージカルとは、ちょっと違うかもしれません。だからこそ楽しんでいただきたいですね。



| 作品名 | ミュージカル『シークレットステージ』 |
| 日程 | 2026年9月9日(水)~24日(木) |
| 会場 | 東京建物 ぴあ シアター 座席表>> |
| チケット料金 | ◉全席指定:12,500円 ◉U-25:6,500円(25歳以下当日引換券) ◉Yシート(20歳以下当日引換券):2,000円* *=ホリプロステージのみ取扱い |
| ツアー公演 | 大阪、香川、静岡、宮城、新潟あり |
| 作品HP | https://horipro-stage.jp/stage/secretstage2026/ |

