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『スルース~探偵~』稽古場レポート “似ている二人”による緊迫の心理合戦【吉田鋼太郎×柿澤勇人】
2020年12月18日(金)
(取材・文/上野紀子)
“似ている二人”による緊迫の心理合戦
二人の男、密室での復讐劇。
否が応でも精神的な濃厚接触は免れない、そんなスリリングな匂いが漂う舞台『スルース~探偵~』に、演出家・吉田鋼太郎が着手した。演じるのは大河ドラマから話題作まで、いまや映像作品でも欠かせない存在となった吉田本人と、彼が指名した俳優・柿澤勇人だ。ミュージカル俳優としての確かな実力は周知のこと、近年はストレートプレイでも濃い印象を残している。
二人は『デスノート The Musical』初演(15年)で出会い、また『アテネのタイモン』(17年)では吉田の演出のもと、再び舞台で共演。
2015年上演『デスノート THE MUSICAL』より。左から)柿澤勇人、小池徹平、吉田鋼太郎(C)大場つぐみ・小畑健/集英社
三度目にして実現した一対一の勝負!?に、期待は募るばかり。公式サイトの吉田のコメントを見れば、柿澤を“狂犬”と呼んでいるではないか。それも3回も。これはただごとではない。稽古場で何が起こっているのか、探らなければ。
…と、鼻息荒くやって来た稽古場は、厳重な感染予防対策が施されていた。
検温、手のアルコール消毒はもちろんのこと、上着に除菌スプレー噴射、マスクは新しい不織布マスクに取り替えて、やっと入室だ。
室内にはデスク、ソファーなどが置かれたリビングのセットが設えられ、そこにウォーミングアップをしながら台詞を口ずさんでいる柿澤がいた。礼儀正しく「おはようございます」と挨拶してくれる爽やかな笑顔に、狂犬の片鱗は見当たらないが……。
そんなことを思っていると、今度は渋いトーンの「おはようございます!」といういい声が稽古場中に響き渡った。吉田、登場。イッキに場の空気が華やぐと同時に、清々しい緊張感が張り詰める。
まずは吉田、柿澤の両人が向かい合い、一幕の読み合わせから稽古がスタートした。
後日撮影した立ち稽古の様子とともにご紹介いたします(編集注)
吉田が演じるのは推理小説家アンドリュー・ワイク。彼が妻の浮気相手、柿澤扮するマイロ・ティンドルを自宅に招き入れたところから物語は始まる。
妻をめぐる罵り合いが始まるかと思いきや、アンドリューは自身にも愛人がいることをマイロに打ち明け、さらには保険金を狙った狂言強盗を提案する。マイロは盗んだ宝石と妻を手に入れ、アンドリューは宝石にかかっている保険金を手に入れることができると……。
吉田アンドリューから思いがけない計画を聞き、疑心から徐々に乗り気になっていく柿澤マイロ。
時折台本に目を落としながらも、二人はお互いの目をしっかりとらえて言葉を繰り出していく。
その緊迫のやり取りはもはや立ち稽古のようで、盗みを予行演習するシーンでは柿澤が思わず立ち上がり、デスクを持ち上げてひっくり返すジェスチャーを見せる。その勢いに吉田も腰を浮かし、腕をぶんぶん振り回して嬉しそうに芝居を受けていた。
アンドリューの一言、一言がマイロの気分を浮き立たせたり、緊張させたり……、その駆け引きがゾクゾクするほど面白い!
吉田のじっとりとした濃い微笑みが「この男、絶対に何か腹に隠している!」と感じさせて憎らしいほど魅惑的なのだ。柿澤も、感情が激しく揺れ動くさまを全身を使って思い切りよく表現し、張りのある声を響かせていた。
一幕の本読みを終えると、今度は吉田によるテキレジ(台本の手直し)が始まった。非常に丹念に、また大胆に台詞を“聞き取りやすく、より理解しやすい言葉”へと修正していく。
原作戯曲の背景は1970年代だが、吉田アンドリューは、タイプライターではなくノートパソコンで執筆し、レコードではなくBluetoothスピーカーから音楽を聴く。衣装も現代風のスーツやガウンになるという。台詞も当然、私たちが馴染みある言葉遣いへ。
そうしてもう一度、一幕を読み始める。今度は、吉田が言葉のニュアンス、感情の流れをこと細かく指示しながら、一言ずつじっくりと進めていく。
「ここはちょっとイラついた感じで。芝居の流れで、丁寧語じゃなくてもかまわないから」
「そこ、思わず泣きそうになったほうが芝居として面白いな」
「この台詞、図星だから。もっと相手の心をえぐるように言ったほうがいい」
言葉の裏にある心理を的確に示していく吉田に対して、柿澤も「ここ、笑ったほうがいい?」と意見を出す。「それで芝居がやりやすければいいよ。カッキーの言いやすい言葉を何か、探してみて」。
テキレジによって変更された台詞も、いざ声に出してみて、吉田がう〜んと頭をひねるシーンも見られた。「あまりにも冷静に聞こえちゃうんだよな……。ちょっとここ、ペンディングね」。
アンドリューの台詞を情感込めて発したその次には、俳優から演出家へとスイッチを切り替えて、子細な指示を差し込んでいく。エネルギッシュな吉田の采配と巧妙なミステリー展開の相乗効果で、二人のやりとりから目が離せない。役者同士の熱演と、演出家&俳優の意見交換、それが同時進行している!
そうして緻密に進められた一幕の本読みもいよいよクライマックス、アンドリューとマイロ、結託の“悪い笑み”を交わした次の瞬間……え! なぜっ!? と思わず口が開くどんでん返しが待っていた。いやいや、じゃあ二幕はどうなる!?
「じゃ、もう一度最初から読もうか」と冷静な吉田の声に、「あっ、ちょっとスイマセン〜」と断って鼻をかむ柿澤。その愛嬌あふれる姿に空気が和んだのをきっかけに、一時休憩となった。
ここで演出家・吉田にいざ突撃、本読み段階での細かな指示、その狙いを聞いてみた。
「立ち稽古になってから、“ここの心の流れがわからない”とか悩みながらやりたくないのでね。そこをすべて本読みの段階で明確にしておけば、立ってからじっくりと稽古ができる。二人芝居なので、丁寧に、丁寧に進めていきたいと思っています」
大胆なテキレジも気になるところで、今、この場のひらめきで新たな言葉が繰り出されていく瞬間も多々あった。
「どうしても翻訳劇特有の口調になりがちですが、限りなく日本語の日常会話に近づけたい、という欲があるんですよね。極力矯正していきたいと思うし、二人の掛け合い、柿澤くんからもらったものをこっちが受けた時に、自然に出て来た言葉が“正しい言葉”だと思うので、それは採用するようにしています」
そしてこれを聞かねば! “狂犬”に込められた柿澤への期待とは?
「カッキーはものすごくハングリー精神を持っていて、もっといい役者になりたいとか、もっと有名になりたいとか、もっと売れたいとか、朝から晩まで考えている人です。若い頃の自分と一緒です。当時の俺も、早く有名になりたい、何でこんな役なんだ? 何でアイツはあんなに下手なんだ? 俺だったらこうやるのに……とか、いろんなことを考えていました。また、カッキーは声や滑舌の良さ、体の動き、瞬発力にかけては一流です。自分もそうだ…とは言えないけど、自分もそう信じてやっていた。それをいつ生かす? まだ全然生かせてないじゃないか、早く生かそう、生かせる場に立ちたい!という彼の前向きな気持ちが、すごく自分に似ているなと感じますね」
となると、この『スルース』のテキストこそ、実力を生かせる格好の場では!?
「そうですね。単にエネルギーだけ使えばいいという芝居じゃない。本当にいろんなワザを必要とする、“ザ・芝居”といえる芝居です。いつものカッキーじゃない、新しいカッキーが見えるといいなと期待しています。二人が出ずっぱりで、セットも変わらないし、すごい音楽があるわけでもない。だけど今、稽古をしていて楽しくてしょうがないんですよ。この気持ちがちゃんとお客さんに伝わって、「こんな芝居、初めて見た」と思っていただけるお芝居にきっとなると思います。この後にまだアッと驚く大どんでん返しもあり、見どころ満載なので、乞うご期待でございます!」
演出家の熱のこもった誘惑ワードに、心がはやる。
新しいカッキー、大どんでん返し…。
稽古場で早くもヒリヒリした快感を覚える心理合戦が、本番の舞台でどう炸裂するのか…!?
答えは年明けを待つのみ、ぜひ究極の騙し合いを目撃していただきたい。
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演出:吉田鋼太郎
出演:柿澤勇人 吉田鋼太郎 ほか
<東京公演>
日程:2021年1月8日(金)~1月24日(日)
会場:新国立劇場 小劇場
主催:ホリプロ
<大阪公演>
期間:2021年2月4日(木)~7日(日)
会場:サンケイホールブリーゼ
主催:キョードーマネージメントシステムズ/サンケイホールブリーゼ
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888
(平日・土11:00~16:00)
<新潟公演>
期間:2021年2月10日(水)・11日(木)
会場:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館 劇場
主催:公益財団法人新潟市芸術文化振興財団
お問合せ:りゅーとぴあチケット専用ダイヤル 025-224-5521
(11:00~19:00/休館日除く)
<仙台公演>
期間:2021年2月13日(土)・14日(日)
会場:電力ホール
主催:仙台放送
お問合せ:仙台放送事業部 022-268-2174 (平日10:00~17:00)
<名古屋公演>
期間:2021年2月19日(金)~21日(日)
会場:ウインクあいち大ホール
主催:中京テレビ放送
お問合せ:中京テレビ事業 052-588-4477 (平日11:00~17:00/土日祝休業)
企画制作:ホリプロ