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『クリスマス・キャロル~』作品解説/クリスマスの夜の夢 文=梅宮創造(早稲田大学名誉教授)

  • コラム

2022年11月15日(火)

今年も市村正親スクルージがやってくる!12月7日開幕ミュージカル『スクルージ~クリスマス・キャロル~』。その原作となったチャールズ・ディケンズ著『クリスマス・キャロル』の作品解説をご紹介。

※本文は2019年公演プログラム寄稿の再掲です

 


 

クリスマスの夜の夢 

文=梅宮創造(早稲田大学名誉教授)

うめみや・そうぞう◎1950年、会津生まれ。早稲田大学名誉教授。専門は19世紀イギリス小説。日本近代小説にも多大な関心を持つ。著書に「英国の街を歩く」「ブロブディンナグの住人たち 倫敦今昔」(共に彩流社)、「シェイクスピアの遺言書」(王国社)、「ディケンズの眼」(早稲田大学出版部)ほか。訳書に「ディケンズ公開朗読台本」(英光社)、「『クリスマス・キャロル』前後」(大阪教育図書)などがある。

 

(2019年公演舞台写真撮影:田中亜紀)

 

『クリスマス・キャロル』の作者チャールズ・ディケンズは、子供好きの作家でした。子供が笑えば、顔がほころび、子供が泣けば、自分まで悲しくなってしまうような人でした。ディケンズが31歳のときに書いた『クリスマス・キャロル』は、どこかしら、子供に語りかけるような声の調子があります。ここでちょっと原作をのぞいてみると、「マーリー爺さんはね、死んじまったんだよ」とまず語りかけて、この話は始まります。それに続いて、「マーリーはまちがいなく死んだ、本当に死んだのだ」と繰り返します。なぜだろう?

キリストの降誕を祝う日だというのに、なぜ人の死か?そもそも誕生と死とは、紙一重なのだろうか?いろんな疑問が湧きます。

 

ミュージカル版ではマーレイという名前の亡霊として登場し、スクルージにクリスマスの試練を与える

 

実は死んだはずのマーリーが、7年後に幽霊となって出てくるのです。幽霊になるためには、どうしても一旦死なねばならないわけでありましょう。要するに『クリスマス・キャロル』は幽霊物語ということになりますが、しかしただのお化け話ではありません。

人生に向けて、一つのはっきりとしたメッセージを運んでくる幽霊の話です。クリスマスのメッセージとは、すなわち神の声とも解釈できます。

 

クリスマスを嫌うけちな金貸しの老人・スクルージ

 

話の主人公はスクルージというがりがり亡者の、けちんぼ爺さんでありますが、よく注意してみると、この人物はなかなか滑稽で、愛嬌があります。

クリスマスの晩にマーリーの幽霊が出る。スクルージは、はじめこそ強がりを言って突っ張るのですが、すぐにへなへなと萎れて、おとなしくなってしまいます。ベッドに入って寝つくなり、一つまた一つ、三種の精霊が現れます。スクルージは自分の過去、現在、未来の様子を映像でも見るように見せつけられると、やたらに感動したり、泣いたり笑ったりします。スクルージは一夜の夢を見るうちに人間が変わってしまったなんて言われたりもしますが、そんなことはありません。スクルージはいつ変わってもいいぐらいに柔軟な心の持ち主であります。実に憎めない爺さんです。

まあ、人間なんて表向きは威張ったり、すごんでみせたり、頑固であったりしますが、その中身は意外にも柔らかにできている、と作者は言いたいのかもしれません。

 

 

ここに登場する三種の精霊も、なかなかの優れものです。

スクルージをうまく導いて、本来のスクルージに戻してやります。ふだん隠れて見えない良い面が表に現れるように誘導してやるのです。両親や学校の先生の理想像みたいなものが、あの精霊たちでしょう。そのおかげで、憎たらしいジジイが心やさしいお爺さんに変貌する。実は、もとの良い人間にもどるだけの話であります。

これがクリスマスの祝日と重なって、この物語はたいへん賑やかな、明るい、喜びの歌ということになります。

 

現在のクリスマスの精霊

過去のクリスマスの精霊

 

『クリスマス・キャロル』は1843年に書かれましたが、そのちょうど10年後に、ディケンズはこれをバーミンガムの大ホールで朗読しました。自作の公開朗読というものです。2000人以上の聴衆を前にして、マイクもなしで見事にやってのけたものだから、会場は感動の渦に沸きました。涙あり、笑いあり、たいへんなものでした。ディケンズの声は響きがよいばかりか、いろんな調子やリズムや、細やかな感情までが声に乗って表出されます。声に色つやがあるとでもいいましょうか。何しろ作中23人もの声音を一人でやってみせるというのですから、びっくりします。

ディケンズは小説家でありながら、晩年にかけてプロの朗読者でもありました。

朗読レパートリーとしては16篇あったのですが、なかでも『クリスマス・キャロル』は彼の十八番とあって、亡くなる直前までの10数年間に、これを120回以上も朗読しました。バーミンガムから始まって、ロンドン、スコットランド各地、アイルランドのあちこち、アメリカのニューヨーク、ボストン、その他の町から町を巡業して、朗読者ディケンズは大そう受けました。

 

 

朗読にかけるディケンズの熱中ぶりは、まことにもってすさまじいものでした。

台本づくりから、リハーサルの繰り返し、会場設営のこまごまとしたところまで、並はずれた情熱を注いだものです。『クリスマス・キャロル』では、まず小説原本のあちこちを削り、全体を半分以下の長さに縮めて朗読台本としました。この朗読版と小説版の各所を比較してみると、ずいぶん削られているのがわかります。

しかし、そのなかでほとんど原本どおりの箇所があって、これはディケンズとして特に力を込めたかった件かと思われます。それはスクルージが雇う事務員ボブ・クラチット家でのクリスマス晩餐会の場面です。

 

つつましくも幸せに暮らすボブ・クラチット家

 

ボブは一家の主人として、夕食の場を盛り上げようと一所懸命です。子供たちのなかに足の悪い、体の弱いティムという末っ子がいて、ボブ父さんはこの子をとても可愛がり、いつも自分のそばから離しません。

ところが、やがてティム坊やは死んでしまう。教会の裏の墓地にこの子を葬ったあと、ボブはがっくりと膝をついて「ああ、ティム、かわいい、かわいい子よ」と泣きくずれます。このときのセリフだけは、ボブの声というよりもディケンズその人の声であった、と実際にディケンズの朗読を聴いた人の感想が伝えられています。

 

 

子供ばかりでなく、スクルージ当人も、自分だってしまいには死ぬという一事を思い知らされます。

誰もが生きて、やがては死んでゆく。だからこそ人生を楽しく、幸せに生きなければならない。がつがつと仕事ばかりして、金もうけなどにあくせくして、愛も、思いやりも、ゆるしもなく、さびしく一生を終える、それでよいのか、とクリスマスの幽霊は迫ります。何なら一ぺん死んでみるがいいときて、スクルージは夢のなかで死に、クリスマスの朝に蘇るわけであります。

その瞬間のスクルージは、身も心も、なんと大きな喜びに包まれていることでしょう。まことに感極まるフィナーレであります。180年ほどを経た今日にあっても、なお人々の心を打ってやまないところでありましょう。

 

 



【公演概要】
ミュージカル『スクルージ~クリスマス・キャロル~』


<東京公演>※ツアー公演なし
期間:2022年12月7日(水)~25日(日)

会場:日生劇場
主催:ホリプロ
企画制作:ホリプロ
上演協力:劇団ひまわり

<キャスト>
スクルージ:市村正親
ボブ・クラチット:武田真治
ハリー/若き日のスクルージ:相葉裕樹
ヘレン/イザベル:実咲凜音
ジェイコブ・マーレイ:安崎 求
クラチット夫人/過去のクリスマスの精霊:愛原実花
フェジウィッグ夫人:今 陽子
現在のクリスマスの精霊:今井清隆

フェジウィッグ/未来のクリスマスの精霊:阿部 裕
トム・ジェンキンス:神田恭兵
高橋ひろし
中西勝之
さけもとあきら
高木裕和
松岡雅祥
井口大地

家塚敦子
伽藍 琳
三木麻衣子
七瀬りりこ
横岡沙季
森田万貴
脇領真央

マーサー・クラチット(Wキャスト):設楽乃愛 長谷川愛鈴
ベリンダ・クラチット(Wキャスト):佐々木咲華 若井愛夏
ピーター・クラチット(Wキャスト):越永健太郎 重松俊吾
キャシー・クラチット(Wキャスト):下井明日香 戸張 柚
タイニー・ティム(Wキャスト):奥田奏太 三田一颯
少年スクルージ(Wキャスト):西山遥都 長谷川悠大
街の子ども(Wキャスト):荒井天吾 入内島悠平

<スウィング>
西垣秀隆
尾上菜摘

<スタッフ>
原作:チャールズ・ディケンズ
脚本・作曲・作詞:レスリー・ブリカッス
演出:井上尊晶

訳詞:岩谷時子
音楽監督:鎮守めぐみ
振付:前田清実
美術:横田あつみ
照明:塚本 悟
音響:山本浩一
衣裳:スー・ウィルミントン
衣裳コーディネート:沼田和子
ヘアメイク:佐藤裕子
指揮:森 亮平
演出助手:坂本聖子
舞台監督:中村貴彦

公式HP=https://horipro-stage.jp/stage/scrooge2022/
公式Twitter=https://twitter.com/musical_scrooge  #ミュージカルスクルージ

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