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ミュージカル『パレード』【解説】1913年 レオ・フランク事件まとめ【実話】
2020年12月17日(木)
来年1月15日に初日を迎えるミュージカル『パレード』。アメリカ史に残る冤罪事件を描き、初演時にはミュージカル界を震撼させた究極の社会派人間ドラマです。
『パレード』をより深く知っていただくために、作品のモデルとなった実際の事件についてまとめました。
※本文は作中で描かれる事件の結末やその後についても触れるため、ネタバレや背景を知りたくない方は観劇後に読むことを推奨します。
▼STORY
1913年、南北戦争終結から半世紀が過ぎたジョージア州アトランタでは南軍戦没者追悼記念日にはパレードが行われている。そんな土地で13歳の白人少女強姦殺人事件が起こる。容疑者の一人として逮捕されたのは、ユダヤ人のレオ・フランク。妻ルシールは彼の無実を訴えるも、白人、黒人、ユダヤ人、知事、検察、マスコミ、群衆とそれぞれの立場と思惑が交錯する中、人種間の妬みと憎しみが事態を思わぬ方向へと導いていく。
「幸あれ!ジョージアの大地 わが故郷!」
2017年舞台写真 撮影:宮川舞子
《目次》
事件のあらまし
-1913年 13歳の白人少女強姦殺人事件
1913年4月26日、アメリカ南部のジョージア州アトランタ。
この日は南北戦争の犠牲者を讃える戦没者追悼記念日だ。ナショナル鉛筆工場に勤務する13歳の少女 メアリー・フェイガンは、お昼にパレードを観に出かけ、行方不明となった。そして、彼女が見つかったのは翌27日の午前3時。鉛筆工場の地下室。ボロ布で包まれ、遺体となって見つかった。
一体、誰がこんな酷いことをしたのか。その日の午後にはアトランタ中がこの話題で持ちきりになった。
遺体の傍には2枚のメモが落ちていた。そこには黒人に暴力を振るわれ、酷いことをされた旨が差別的な表現も交えて書かれていた。
誤字だらけの原文では“night witch”=夜の魔女と書かれていたことが、“night watch”=夜警の誤字ではないかと考えられたため、警察はナショナル鉛筆工場で夜警を務める黒人のニュート・リーを逮捕した。彼は事件の夜も勤務をしており、遺体の第一発見者であった。
しかし、13歳の少女が亡くなる直前に暴力を受けながらメモを残せないと考えられること、そしてなにより彼女は文字を読めても書けなかったことから、このメモが真犯人によってニュートに濡れ衣を着せるために用意されたものだと考えられた。
つまりニュートが犯人である可能性が低いことは明らかだった。
第一発見者で容疑者のニュート役・安崎求
そして、ニュートと同様に逮捕されたのが、ナショナル鉛筆工場で工場長を務めるレオ・フランク。
北部出身のユダヤ人であるレオは名家の娘 ルシールと結婚し、彼女の叔父の斡旋で鉛筆工場に勤めるため、南部に住んでいた。アトランタでは戦没者追悼記念日は祝日だったが、工場長として忙しく働く彼はその日も鉛筆工場で仕事をする数少ない一人だった。
事件の前日に仕事を休んでいたメアリーは、一週間分の給料を受け取るため、正午ごろに工場でレオと会っていたのだ。解剖の結果、メアリーは朝食をとってまもなく殺害されたことが分かった。つまり、レオと会ってほどなくして殺害されていたのである。
こうして、レオは事件の容疑者となり、アメリカ史に残る大きな事件へと発展していく。
ルシール役の堀内敬子とレオ役の石丸幹二 2017年舞台写真 撮影:宮川舞子
アメリカの歴史
―南部における反ユダヤ主義
さて、ここでアメリカの歴史についても少し考えたい。
スペイン女王の命を受けて、コロンブスが新大陸を発見したのが1492年。15世紀末、北アメリカ大陸に入植したヨーロッパの人々は先住民であるインディオを奴隷として扱った。しかし、過酷な労働に人口が減少してしまう。そこで年季契約奉公と言う形で同じ白人でも貧しい人や犯罪者を期限付きで強制労働させるようになる。そして16世紀からの輸出用商品作物栽培を目的とした大規模なプランテーション農業で、より多くの労働力が必要となったことで、当時イギリスなどで盛んに行われていた奴隷貿易により、黒人奴隷制が導入される。
しかし、ここで資本主義の発展とともに奴隷制度が深刻な道徳的問題、政治的な問題となった。1860年に奴隷制度の拡張に反対するリンカーンが大統領に当選したことを受け、奴隷制度を擁護する南部のいくつかの州が合衆国を抜け、南部連合を立ち上げた。こうしてアメリカ最大の内戦である南北戦争が起き、結果は北軍の勝利に終わる。
南北戦争中の1863年にはリンカーンにより奴隷解放宣言が出され、さらに1865年にはアメリカ合衆国憲法修正第13条で法的にも奴隷制度が廃止となった。そして南北戦争をきっかけにアメリカ北部は急速に近代化していく一方、南部ではアフリカ系アメリカ人に対して、支配者層の政治的権利のために選挙権の剥奪、ジム・クロウ法などで“奴隷”という言葉を使わないまでも元の状態に戻ろうとした。
そうして、南北の差は大きく広がっていく。そして北部の急速な近代化の中心にいたのはユダヤ系の財閥であった。そのことが南部アメリカでの反ユダヤ主義に火をつけることとなったのである。
過熱する報道合戦
-反ユダヤ感情の扇動
レオの逮捕はそうした南部に流れる根本的な考え方に基づいたものであったのだ。
工場で健気に働く13歳の少女が、工場長であるユダヤ人に殺されたという報道はセンセーショナルに報じられたことは想像に難くない。レオの逮捕に際して、盛り上がるアトランタでは情報提供者には報酬が支払われることもあり、いかにも真実味のある情報からオカルトじみたものまで様々情報が集まった。
そうして当時の報道の要であった新聞の記者たちは、報道合戦を繰り広げることになる。売春宿の女主人ニーナ・フォームビーは、レオが常連で週に二回は買収宿を訪れる、若い入りたての子が好きな変質者であったと証言をし、新聞配達夫の少年エップスはメアリーがレオに付きまとわれていたと話した。そのほかにもレオにとって不利な証言が次々と集まった。
これもすべて反ユダヤ感情を扇動することとなったのである。
事件の報道を扇動する新聞記者・クレイグを演じる武田真治
メアリーの友人の少年 フランキー・エップス役・内藤大希
裁判の行方
-死刑判決
そんな中、7月28日から裁判が始まる。
ジョージア州随一のロッサー弁護士と共に裁判に挑んだが、それはまるでヒュー・ドーシー検事のワンマンショーだった。検察側の証人としてメアリーの母親フェイガン夫人が立ち、ドーシーは彼女に、メアリーが亡くなった際に着用していたラベンダー色のワンピースを確認させた。泣き崩れる母親。感情に訴えかける法廷での一幕は、傍聴席の記者やアトランタの人々の心を揺さぶったに違いない。ドーシーの気合は首席検事であるプライド、そして義理の兄弟であるロッサーへの対抗心の表れでもあったという。
法廷でのショーはまだまだ続く。工場の清掃主任である黒人 ジム・コンリーが証言台に立った。彼のシャツに血痕がついていたのを同僚が見つけ、レオと同じくメアリー殺人の容疑で逮捕されていた。コンリーは証言台に立ち饒舌に話し始めた。
事件の日、メアリーと仲良くしようとしたのを断られ殴ってしまったとレオが震えながらコンリーに訴えてきたこと、そしてレオの命令で死んでいるメアリーを運び出したことを。このことは法廷に更なる衝撃を与えた。
これが決定打となり、レオは死刑を言い渡される。当時は差別的に扱われていた黒人の証言を白人が信じたことで、ユダヤ人が死刑を宣告されたのだ。
実はコンリーの証言には時間的な矛盾などがいくつか見られたのだが、当時の新聞では「無知な黒人がこんなに細かく作り話を作ることはできないだろう」と書かれていた。白人が黒人を認めたのではなく、黒人に対する差別とは異なる形でユダヤ人排斥主義が表に出たのである。
このユダヤ人排斥主義を扇動したのが政治活動家トム・ワトソンである。コンリーに嘘の証言を吹き込んだのは、他でもないドーシー検事であったとされている。
メアリーの母親フェイガン夫人役・未来優希
レオを追い詰めるドーシー検事役・石川禅
工場の清掃夫で黒人のコンリー役・坂元健児
ユダヤ人排斥主義の政治活動家ワトソン役・今井清隆
スレイトン州知事の決断
-減刑、終身刑へ
レオの再審請求はすべてローン判事により棄却された。
ジョージア州の多くの人がレオの死刑を当然だと考える一方で、レオの死刑に疑問を持つ市民から減刑について多くの嘆願書がジョージア州知事であるジョン・スレイトンの元に集まった。減刑嘆願書が集まったことでスレイトンは悩んだ。ジェファーソニアン新聞で声高に反ユダヤ主義を叫んでいたワトソンからは減刑を棄却すれば連邦上院議員への推薦をするなどの誘惑もあった。
しかし、自身で綿密な検証を行ったスレイトンはレオの無実を確信するにいたった。最終的に無罪放免を狙ったスレイトンは、1915年6月15日、終身刑への減刑に踏み切った。一時的に終身刑とすることで、世の中の鎮静化を図ったのである。妻のサリーが臆病な大統領の妻より立派な元知事の妻で居るほうがよいと背中を押したことも、スレイトンが減刑に踏み切る大きな理由の一つであった。
しかし、その報道がジョージア州の人々の感情を刺激することとなった。なぜ少女を殺したユダヤ人を守るのか。一部の市民が暴徒となり、知事邸を襲撃したため、スレイトンはサリーとともに州外へ避難することとなった。夫妻がジョージアに戻ったのは第一次世界大戦終戦後だった。
事件の担当となったローン判事役・福井貴一
衝撃の結末
-暴徒による拉致・私刑執行
そして暴徒たちの怒りの矛先はレオに向かう。
手始めに囚人の一人が剃刀を持ってレオを襲った。首に深い傷を負いながらも一命を取りとめたレオだが、2週間の診療所生活を余儀なくされた。
診療所を退院し、その傷が回復してきた1915年8月17日、“メアリー・フェイガンの騎士”を名乗る25名の武装した男たちが彼を、刑務所から350km以上離れたメアリーの故郷 マリエッタに拉致した。メアリーが幼い頃よく遊んでいたというフレイの森で男たちに絞首刑にされる。この現場でレオの遺体を囲み、騎士団の男たちは記念撮影をした。重さにより首の傷口が裂け、血まみれの凄惨なリンチ現場だったが、騎士団にとってはレオの私刑こそが正義の証明だった。騎士団はこの後、白人至上主義のKKK(クー・クラックス・クラン)の復活の礎となった。
物語の続き
-事件の真相
ミュージカル『パレード』は実話を基にしているが故、この物語にはまだ続きがある。
スレイトンはジョージア州知事を退任後、二度と選挙公職に就くことはなかった。
ワトソンは連邦上院議員を務めた。
ドーシーはスレイトンの退任後、自身がジョージア州知事の座に就いた。
そしてレオの妻ルシールはレオの死後もジョージア州で暮らした。
レオの妻ルシール役・堀内敬子
事件の真実が明らかになったのは約70年後のことだった。当時、メアリーたちと共に工場で働いていたアロンゾ・マンという少年が、コンリーの犯行を目撃していた。彼はロニーという呼び名で劇中にも登場する。ロニーは事件のすべてを知っていたが、自身の身に危険が及ぶことを恐れ、真実を話すことができなかった。1983年3月4日、ロニーは宣誓し、すべての事実について語ったのである。
しかし、ジョージア州の人々の多くは、レオ・フランクが犯人だったと今でも信じている。彼らは先祖がレオ・フランクを地獄へ送ったことを今でも誇りに思っている。南北戦争を戦い敗れた南軍を誇りに思うように。
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【公演概要】
ミュージカル『パレード』
作:アルフレッド・ウーリー
作詞・作曲:ジェイソン・ロバート・ブラウン
共同構想及びブロードウェイ版演出:ハロルド・プリンス
演出:森 新太郎
翻訳:常田景子
訳詞:高橋亜子
振付:森山開次
音楽監督:前嶋康明
<キャスト>
石丸幹二、堀内敬子、武田真治、坂元健児、福井貴一、今井清隆、石川 禅、岡本健一
安崎 求、未来優希、内藤大希、宮川 浩、秋園美緒、飯野めぐみ、フランク莉奈
石井雅登、白石拓也、渡辺崇人、森山大輔、水野貴以、横岡沙季、吉田萌美
<東京公演>
期間:2021年1月15日(金)~31日(日)
会場:東京芸術劇場プレイハウス
主催:ホリプロ/ TOKYO FM
共催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場
<大阪公演>
期間:2021年2月4日(木)~8日(月)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
主催:梅田芸術劇場 ABCテレビ
お問い合わせ:梅田芸術劇場
TEL:06-6377-3888(10:00~18:00)
https://www.umegei.com/schedule/910/
<愛知公演>
期間:2021年2月13日(土)・14日(日)
会場:愛知県芸術劇場大ホール
主催:テレビ愛知/キョードー東海
お問い合わせ:キョードー東海
TEL:052-972-7466(10:00~19:00 日・祝休)
http://www.kyodotokai.co.jp/events/detail/2028/
<富山公演>
期間:2021年2月20(土)・21日(日)
会場:オーバードホール
主催:チューリップテレビ/イッセイプランニング/(公財)富山市民文化事業団/富山市
お問い合わせ:イッセイプランニング
TEL:076-444-6666(平日 10:00~18:00)
http://www.issei.ne.jp/2020/04/2021029901/
企画制作:ホリプロ