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舞台『ねじまき鳥クロニクル』稽古場レポート!演技×ダンス×音楽×美術のコラボレーションによって描かれる“変容する世界”とは!?

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2020年1月31日(金)

村上春樹の名を知らない日本人はほとんどいないだろう。また、国外でも日本の小説家といえば、彼の名前が一番に挙がるはずだ。ミステリアスで寓話的なメタファー、人間の深層に静かに潜るドラマ性、肉体と精神の強さと弱さ……。村上春樹の小説は多くの読者に、世界(現実)に対する「Q」–クエッションを投げかける。

そんな村上春樹の小説は多くのアーティストにも影響を与え、また、さまざまなアーティストが映画化や舞台化に挑戦した。本作も、そのうちのひとつである。

『ねじまき鳥クロニクル』。1994年から1995年にかけて発表され、第47回読売文学賞を受賞、さらに海外でも高く評価され、村上作品が世界で読まれるきっかけとなった作品だ。

今回は、舞台『ねじまき鳥クロニクル』の気になる稽古場の様子を演出家のインバル・ピントのインタビューを交えてお届けしたい。

取材・文/大宮ガスト
撮影/田中亜紀

 


 

▼公演詳細ページはこちら

 

■4人のアーティストが織りなす綿密なクリエイション

 

舞台『ねじまき鳥クロニクル』が2月11日(火・祝)から東京芸術劇場プレイハウスにて上演となる。原作小説は、飼っていたネコを捜索するトオルを軸に寓話的な事象がイマジネーション豊かに展開するが、果たしてその世界観を舞台上でどのように表現するのか? 多くの観客が楽しみにしている重要なポイントだろう。

本作のクリエイションが、一般的な創作過程と異なるのは、スタッフィングを見ればわかる。一般的な演劇創作の場では、大概、ひとりの演出家がディレクターとしてその座組みの指揮をとる。しかし本作では、演出的役割をするアーティストが3人いる。

ひとりは、演出・振付・美術を担当するインバル・ピント。ミュージカル『100万回生きたねこ』や百鬼オペラ『羅生門』を手掛けたイスラエル出身の気鋭の演出家だ。もうひとりは、同じくイスラエル出身の演出家 アミール・クリガー。彼は、演出と脚本を兼任している。そして、日本からは演劇団体「マームとジプシー」を主宰する藤田貴大が上演台本、演出として参加している。

誰をとっても超豪華な布陣であるが、3人ものトップクリエイターが演出という立場で集結して混乱しないのだろうか。そんな疑念を抱いて稽古場に臨んだのだが、それぞれのワークは見事なまでに分担され、またそれぞれを支え合い、非常にクリエイティビティの高い稽古が行われていた。今回は、取材した稽古の模様を追いつつ、3人の演出家のクリエイションを紹介したい。

 

■演技×ダンス×音楽×美術のコラボレーション

稽古では、まず序盤のシーンが行われた。成河が舞台上に現れ、ギターを持ち、プロローグのような印象的な歌詞を歌う。細く、そして激しく響くギターと声に、本作に漂うとめどない思考の流れが表現されているように感じた。

その後、場面は飛んで、本作の主人公であるトオルとその妻・クミコの何気ない会話のシーンに移った。トオル役を演じる渡辺大知は冷静で、論理的に努めようとするが、この世には不条理が現実にあることを知っている、そんな「冷静さ」と「諦め」を抱えているように振る舞う。クミコ役を演じる成田亜佑美は、明るくもなく、暗くもなく、何かを強く求めるわけでもない、ほんのわずかな誠実さと虚無感を湛えた様子で、渡辺とコミュニケーションする。何気ない会話の応酬が続く中で、舞台美術は微細かつ、確実に変化していき、気づけば、2人のやりとりは変わらずとも、変わってしまっている「世界の変容」に気づかされる。いつのまにか、変わってしまっているのだ。さらに、NHK「あまちゃん」や「いだてん」など映像作品の音楽でも広く活躍する、本作の4人目のアーティスト、音楽家 大友良英友含めた3人のミュージシャンによる生演奏が、臨場感を持って、観客の胸に迫る。興奮や恐怖、狂気がすぐ目の前にあるような感覚に陥るのだ。

 

 

■インバル・ピント「我々が目にしているものには、別の見方がある」

また、シーンによっては音楽と8人のダンサーの日常的であり抽象的なムーヴによって、個人の内面や外の世界の変化も表現される。登場人物同士のコミュニケーションはいたって変化のないように見えるのだが、外が変化しつづけているため、鑑賞者はさりげなく、ミステリアスで幻想的な“クロニクル”に誘われるのだ。演出家のインバル・ピントはあるインタビューでこのように答えていた。

「私が伝えたいのは、どんなものであれ我々が目にしているものには、別の見方があるかもしれないということ。村上さんの作品世界に限らず、すべてのものにはたくさんの側面があり、舞台上で表現するにあたりその考え方だけでなく、実際のセットの壁や、テーブルや、衣裳や、ダンスや、すべての演劇的要素を集めて、終わりのない廊下、終わりのない井戸、終わりのない小道を、実際に掘り、探してみる。そこにはいつも、更にミステリアスな道があり、未知の瞬間につながっている。私にとってこれは本当にとても大切なこと。いつもどんなときにも別の次元が存在し、どんなものにも別の見方がある。」

 

 

■成河と渡辺大知|2人のトオル

インバル・ピントはものの見方が変わる「変容」の瞬間を何度も繰り返し稽古しているように感じた。クレタ役を演じる徳永えりが姉の代理として現れる場面や間宮中尉役を演じる吹越満が満州での過去を語る場面などで、変化を支えるダンサーのムーヴや音楽、美術をつぶさに見つめ、対話を繰り返しながら、緻密に作り上げていく。

 

 

その間、もう一人の演出家 アミール・クリガーは“演じる”俳優と、コミュニケーションをとる。これまで明記してこなかったが、トオル役の渡辺が舞台上にいる場面では、時折、もう1人のトオル役として成河が現れる。この2人の関係については、ぜひ本番を見て、感じ、考えてほしいが、成河と渡辺の一人2役のようなコラボレーションをアミール・クリガーが間に入り、3人で話し、表現を作り上げていた。

 

 

インバル・ピントはインタビューで「最も大事にしているのは、私たちは村上さんの世界観を壊したくないということ。でも、舞台化するにあたっては、身体的な表現や舞台表現が加わります。村上さんの謎めいた文章表現もすべて材料にして、我々がどの要素をステージに乗せるかという判断の基になっています」と語っていたが、“どの要素を舞台上に乗せるか”ということを、演出家も役者も同じラインの上で思考しているのだろう。そのため、インバル・ピントが振り付けをしている間、アミール・クリガーが役者に演出をするという、同時平行の創作が可能になっているのだろう。

 

 

■日本人の発話・振る舞いの表現を見つめる藤田貴大

舞台稽古がひと段落すると、これまで静かに舞台を見渡していた3人目のアーティストである藤田を囲むようにアミール・クリガーと役者が集まり、台詞の確認をする。藤田は稽古の間、舞台の表現をしっかりと見つめ、日本語や日本人の身体を前提とした演劇的リアリティについて思考していたようだ。藤田は台詞のひとつひとつを確認し、また、違和感を言葉にして、アミール・クリガーと役者陣に共有していく。配布されていたテキストもまた、変更を重ねながら、より重厚でクリティカルなものへ変化しているようだ。

 

 

このように村上春樹が描いた巨大なイメージのもとに4人のアーティストと役者、音楽、美術がそれぞれの思考と身体でアプローチし、ひとつの舞台作品として形作られている。この日は、メイ演じる門脇麦やそのほかの役者の場面を見ることはできなかったが、それぞれがどのような表現を携えて舞台に現れるのか、楽しみでならない。原作ファンも、また、未読の方も、この一大クロニクルの巨大さと繊細さ、そして変わりゆく世界の様子を劇場で体験してほしい。

 


 

【公演概要】

『ねじまき鳥クロニクル』

原作:村上春樹
演出・振付・美術:インバル・ピント
脚本・演出:アミール・クリガー
脚本・演出:藤田貴大
音楽:大友良英

<演じる・歌う・踊る>
成河、渡辺大知、門脇 麦
大貫勇輔、徳永えり、松岡広大、成田亜佑美、さとうこうじ
吹越 満、銀粉蝶

<特に踊る>
大宮大奨、加賀谷一肇、川合ロン、笹本龍史
東海林靖志、鈴木美奈子、西山友貴、皆川まゆむ (50音順)

<演奏>
大友良英、イトケン、江川良子

 

■東京公演
日程:2020年2月11日(火・祝)~3月1日(日)
料金:S席 11,000円、サイドシート 8,500円(税込)
会場:東京芸術劇場プレイハウス

アフタートークあり
2月22日(土) 18:00
成河、渡辺大知、門脇麦
2月23日(日) 18:00大貫勇輔、徳永えり、松岡広大

一般発売:2019 年 11 月 2 日(土)
※本公演のチケットは主催者の同意のない有償譲渡が禁止されています。

主催・企画制作:ホリプロ
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京

■大阪公演
日程:2020年3月7日(土)~3月8日(日)
3月7日(土)12:00/17:00
3月8日(日)12:00
料金:12,000円(全席指定・税込)
※未就学児入場不可
主催:梅田芸術劇場
お問い合わせ:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
TEL: 06-6377-3888(10:00〜18:00)

■愛知公演
日程:2020年3月14日(土)~3月15日(日)
3月14日(土)13:00
3月15日(日)13:00
料金:S席12,000円、A席10,000円(全席指定・税込)
※未就学児入場不可
会場:愛知県芸術劇場大ホール
主催:メ~テレ、メ~テレ事業
お問い合せ:メ~テレ事業
TEL:052-331-9966(祝日を除く月-金10:00~18:00)

協力:新潮社
後援:イスラエル大使館

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