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【連載】「子どもが大活躍するミュージカル」特集 第2回:“シャペロン”に注目!~『マチルダ』の稽古場より~
2023年2月20日(月)
古くは『ピーター・パン』『スクルージ』から、近年では『ビリー・エリオット』『メリー・ポピンズ』『オリバー!』、そして開幕間近の『マチルダ』や夏に控える『スクールオブロック』まで。ホリプロでは、子どもが大活躍するミュージカルを数多く制作してきている。その魅力をひも解く短期集中連載の第2回は、今や欠かせないポジションとなっている“シャペロン”に注目! そもそもシャペロンの意味って? 仕事内容は? 子どもたちにとって、作品にとってどんな存在なの? 気になるあれこれを、『マチルダ』の稽古場で取材した。
(取材・文:町田麻子)
▼【連載】第1回はこちら
【連載】「子どもが大活躍するミュージカル」特集 第1回:篠田麻鼓(ホリプロ執行役員/公演事業本部長)インタビュー
四者四様のマチルダ、三者三様のトランチブル
『マチルダ』の稽古は、とにもかくにも大がかり!5つのスタジオが使われており、大きなスタジオではダンスナンバーの振付稽古、小さめのスタジオでは特定の役の芝居稽古や歌稽古、また別のスタジオでは衣裳合わせや打ち合わせ……といった具合に、いくつもの作業があちこちで同時に進行している。本国から来日した演出補や振付補、音楽監督補らが日本側スタッフと協働している上に、来日スタッフにはそれぞれに通訳もついているため、出入りしている人数も並外れた多さ。これだけの大人たちが全力で取り組んでいる作品の主役を演じるというだけで、連載第1回のインタビューで篠田本部長が言っていた、「小さな体で凄まじいプレッシャーと戦う子どもの姿が心を動かさないはずがない」という言葉にも納得というものだ。
この日の稽古は、まずは大人キャストの振付稽古から始まった。ただ、「大人キャスト」と言っても「大人の役だけを演じるキャスト」ではないのが、この作品のいかにも演劇的なところ。マチルダの同級生や上級生は、子どもキャスト、“キダルト(キッズとアダルトの合成語。子どもに見える大人キャスト)”、シーンによっては“キダルト”以外の大人キャストが演じており、そのなかには190センチ近いキャストもいる。だからこそ、この日の稽古でみるみる立ち上がっていった、生徒たちが教室で机の上に飛び乗り、制服のブレザーを振り回しながら反乱を起こすシーンは大迫力! ここに子どもキャストも加わる本番は、ますますダイナミックで色鮮やかなシーンとなることだろう。
そうこうしているうちに、いよいよマチルダ役の4人と、同級生ブルースとエリック役の各4人、計12名の子どもキャストが稽古場入り。大きなスタジオで、まずは揃ってウォーミングアップと発声練習をおこなったあと、マチルダたちは芝居稽古のため小さなスタジオへと移動する。この日のメニューは、マチルダが自らの作り出した物語を語る、篠田本部長が言うところの「ハムレット役者並みの台詞術が必要」なシーンの一つ。4人は既に台詞も動きも習得済みだが、演出補と共にさらなるブラッシュアップを重ねていく。時には体の向きや手の角度などを具体的に指示し、また時には「エネルギーの全部を使って相手役を見て」などとイメージを伝えることで、マチルダが“小さな大天才”に見えるよう導いていく演出補。4人に全く同じことを求めるのではなく、体の大きさも声のトーンも抑揚の付け方も異なる、それぞれの持ち味を生かすような姿勢も印象的だ。
同じ頃、大きなスタジオではミス・トランチブル校長とマチルダ以外の生徒たちが、先ほどとはまた別の教室シーンの振付稽古に臨んでいた。早くも三者三様のアプローチを見せて稽古場を沸かせていた大貫勇輔、小野田龍之介、木村達成のトリプルキャストは、『マチルダ』日本公演の大きな見どころとなりそうだ。3人と生徒役(大人キャスト、キダルト、ブルースとエリック役の子どもキャスト)が振付をある程度習得したところで、芝居稽古を終えたマチルダたちが合流。和やかななかにも活気があふれる白熱の稽古はこのあとも続いた。
シャペロン=保護者+学校の先生+付き人
さて、ここで少し時間を巻き戻そう。12人の子どもキャストが到着すると彼らを出迎え、更衣室に送り出しつつ、送迎の保護者たちとコミュニケーションを取り。子どもたちが着替え終わると、服装や髪型をチェックしながらスタジオに引率し、彼らからの「歯がグラグラする」といった相談にも対応し。稽古が始まると二手に分かれ、それぞれのスタジオで子どもたちにぴったりと寄り添い、出番のない間も集中を切らさないよう監督し。そして子どもたちが合流すると、分かれていた間の様子を報告しあっていた二人の女性が、本公演の“シャペロン”だ。元々は“付添い人”を意味する言葉だが、子どもキャストが心身の安全と健康を確保しながら最高のパフォーマンスをするために必要なポジションとして、英国演劇界では講習を受けて資格を取った人たちが務めているそう。ホリプロでは、『ビリー・エリオット』初演(2017)でその必要性を痛感して以来、積極的に運用を進めてきた。
2017年、2020年と上演を重ね、先日2024年の再再演を発表した『ビリー・エリオット』。写真は2020年版ビリー役キャスト。
『ビリー』や本作を担当する大野プロデューサー曰く、「初演では主に制作チームが子どもキャストに付き添っていたのですが、より多角的に子どもの安全を考える必要があるなと。主催者と保護者の間に立って、第三者的な立場から、両方にきちんと“ノー”が言える方が必要だと痛感したんです。シャペロン制度を浸透させることが、今後も日本で子どもキャストの多い演目を作っていく上で鍵になると思いました」。そこで“スカウト”したのが、先ほどから稽古場で、シャペロンチームをまとめる存在として動き回っていたAさんだ。長く子役の母親兼付き人として、多数の舞台を裏側から見てきた経験を持ち、『ビリー』再演(2020)、『オリバー!』(2021)に続いてシャペロンを務めている。
2021年上演『オリバー!』舞台写真
「私自身手探りでやっているので、明確に“シャペロンはこういう仕事です”とはお伝えできず申し訳ないのですが」と前置きした上で、「親と学校の先生と付き人を合わせたような役割」と話すAさん。稽古場内には入れない保護者に代わって、子どもたちが稽古に集中できているか、きちんと休憩が取れているか等を見守りつつ、保護者に稽古内容を報告したり、学校との両立方法の相談に乗ったり。本番期間中は、早替えの手伝いなども担う。「稽古場や楽屋に入れないことで疎外感を覚える保護者の方もいらっしゃるのですが、送り迎えも含めた家庭でのサポートあっての子どもたちですから、保護者もカンパニーの一員なのだということを忘れないでほしいと、保護者にも制作側にもいつも言っています」。
また、子どもたちが大人キャストと適度な距離を保てるようにするのも、シャペロンの大切な役割の一つ。トランチブルのように敵対する役を演じる相手と親しくなりすぎると、演技に支障が出る子どももいることに加えて、子どものうちから大人の世界に馴染みすぎると、千秋楽の翌日から“普通の小学生”に戻ることが難しくなるからだ。そのまま役者を目指すにしても、ほかの道を選ぶとしても。才能ある子どもたちが、一人の人間として健やかに成長してくれることが、「子どもが大活躍するミュージカル」に携わる大人たちの一致した願い。日英のクリエイティブスタッフ、制作陣、シャペロン、保護者……たくさんの大人のサポートを受けて、子どもたちが『マチルダ』の舞台でその才能を発揮する日は、もうすぐそこだ。
次回は【連載】「子どもが大活躍するミュージカル」特集 第3回:『ビリー・エリオット』『オリバー!』 出演キャストへアンケートインタビュー 公開予定!
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