FEATURE・INTERVIEW
特集記事・インタビュー
特集記事・インタビュー
【連載】「子どもが大活躍するミュージカル」特集 第1回:篠田麻鼓(ホリプロ執行役員/公演事業本部長)インタビュー
2023年2月13日(月)
古くは『ピーター・パン』『スクルージ』から、近年では『ビリー・エリオット』『メリー・ポピンズ』『オリバー!』、そして開幕間近の『マチルダ』や夏に控える『スクールオブロック』まで。ホリプロでは、子どもが大活躍するミュージカルを数多く制作してきている。その魅力をひも解く短期集中連載のオープニングを飾るのは、ホリプロの執行役員・篠田麻鼓のインタビュー。これまで多数のミュージカルにプロデューサーとして携わり、現在は公演事業本部長として統括する立場にある篠田の話から、子どもが活躍するミュージカルが老若男女の心を揺さぶる理由が見えてくる――!
(取材・文/町田麻子)
オリジナルと“レプリカ”の両輪でキャリアを重ねた20年
――まずは、篠田さんの簡単なご経歴を教えてください。
生のパフォーマンスに強く心を惹かれるようになったのは、おそらく中学生の頃に、シルク・ドゥ・ソレイユの『ファシナシオン』(1992)を観たことがきっかけです。大学に入ると、自分でコンテンポラリー・ダンスを始めると同時にダンス公演、フィジカルシアターにも足しげく通うようになり、後に一緒に仕事をすることになるフィリップ・ドゥクフレさんやインバル・ピントさんの作品に出会ったのもその頃。ただ当時は、演劇を生業にしようとは全く思っていなくて、映画の勉強をするためにロンドンに留学したんですね。1年半いたなかで、サドラーズ・ウェルズというダンスの殿堂のような劇場にこれまた足しげく通って(笑)、メリル・タンカードさん演出・振付の『フューリオソ』という素晴らしい作品に出会って。帰国したら日本でも同じ作品が上演されていたことを知り、どこが招聘しているのかなと思ったらホリプロだったんです。
ホリプロってこういうこともしてるんだ~と思っていた矢先に、寺山修司フリークの友人から勧められて映像で観たのが、武田真治さん主演の『身毒丸』。こんな世界があるんだ!と度肝を抜かれ、どこが製作しているのかと思ったら、これもホリプロだったんですよ。前衛的なダンスもアングラと商業が融合した演劇もやってるなんて、面白い会社だなと思って入社試験を受けて、2001年に入社しました。 それから20年以上ずっと公演事業部ファクトリー部にいて、2019年から制作部長、2022年からは公演事業本部長と執行役員を務めています。
『身毒丸』(1996)
――ファクトリー部ひと筋のキャリアのなかでどんな作品を手がけてこられたのか、いくつか例を挙げて教えていただけますか?
学生時代に観て素晴らしいなと思った演出家と仕事ができた経験は、やはり特別に印象深いですね。フィリップ・ドゥクフレさんとは、まず『SOLO』という作品の招聘公演(2006)で、続いて『わたしは真悟』(2016)というオリジナルミュージカルで。そしてインバル・ピントさんとは、『100万回生きたねこ』(2013,2015)、『羅生門』(2017)と『ねじまき鳥クロニクル』(2020)で一緒にクリエイションをすることができました。ただ私の場合、「どうしてもこの人と仕事をするんだ!」とガシガシ突き進んだわけではなくて。強く思っていると、何かこうモワモワっとしたものが念となって湧き出て(笑)、自然と導かれるというのが私の持論。ご縁というのは、与えられた仕事を頑張っていると訪れるご褒美みたいなもので、訪れた時にそれをチャンスにできるよう、実力をつけておくことが大事なのかなあと思います。
『わたしは真悟』(2016) 左から)門脇 麦、高畑充希 撮影:渡部孝弘
『100万回生きたねこ』(2013) 左から)森山未來、満島ひかり 撮影:渡部孝弘
『羅生門』(2017) 左から)満島ひかり、柄本 佑 撮影:渡部孝弘
『ねじまき鳥クロニクル』(2020) 中央)渡辺大知、右)成河 撮影:田中亜紀
――個性的なオリジナル作品をいくつも生み出してこられた秘密が垣間見えるお話です。では、海外作品ではどのようなものを?
まず2009年に、ホリプロ初の“レプリカ(海外公演と同じ演出で上演する公演)”となる『マルグリット』を担当しました。これもご縁で、入社間もない頃に制作(プロデューサーのアシスタントのような立場)としてついていた『ハムレット』(2003)の演出家だった、英国のジョナサン・ケントさんからご提案を受けたのが始まりです。脚本は、『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』のアラン・ブーブリルさんとクロード=ミッシェル・シェーンベルクさん。あの時は贅沢なことに、オリジナル演出家も作詞作曲家も来日されたんですよ。人生で一番働いたのはこの時、というくらい大変でしたけど(笑)、すごく刺激的な経験でした。
『マルグリット』を無事に終えたことで、ホリプロ内で「レプリカとはこうやって制作していくのか!」と別の扉が開いた感じがあり(笑)、次の『ラブ・ネバー・ダイ』(2014)も私が担当することになりました。この時もアンドリュー・ロイド=ウェバーさんをはじめとするオリジナルチームが来日したんですが、次の『ビリー・エリオット』(2017)からは、アソシエイトチームが来日して作り上げるという、レプリカの新しいフェイズに入ります。私は『メリー・ポピンズ』(2018)に担当プロデューサーとして、『ビリー』や『オリバー!』(2021)、には制作部長や本部長の立場で携わってきましたが、どれも本当に学ぶところが大きかったですね。特に今上演中の『ハリー・ポッターと呪いの子』(2022~)は、契約や予算コントロールなどを担当しており、現在進行形で修業の身です。
『マルグリット』(2009)
子どもの情熱とエネルギーには、周りの人間を動かす力がある!
――『ビリー』以降、ミュージカルでは子どもが大活躍する演目が続いていますが、その理由はどのあたりにあると思われますか?
子どもが活躍する演目をやろう、という気持ちは全くなくて、本当に心を動かす力を持った作品を、と思ってやってきた結果が自ずとこうなっている感じがします。子ども時代を経験していない大人はいないから、老若男女が感情移入できるし、子どもの成長を描いた物語に共感できない人ってあんまりいないと思うんですよ。だから自ずと幅広い層にリーチすることができる。たとえば不倫劇だったら、まず子どもは理解できないでしょうし(笑)。
それと『ビリー』をやって分かったのは、子どもの成長を描いた作品をやると、制作過程で子どもたちの成長も見ることができて、その姿に周りの大人も感化されるということ。『ビリー』に出演したことで、芸能活動に向き合う姿勢が一変した大人キャストもいるほどです。子どもの持つ情熱や放つエネルギーには、人間を動かす力がある。だからお客様の人生をも変えるパワーを持つんだと、『ビリー』が私たちに教えてくれました。
『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』(2020) 左から)利田太一、佐野航太郎 撮影:田中亜紀
▼『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』(2020)再演時のレッスンの様子
【最新歌唱ダンス動画あり】『ビリー・エリオット』 9/11開幕決定! !
――でも間違いなく、大変ではありますよね……?
それはもう、めちゃくちゃ大変です(笑)。子どもの変声期って、お医者さんに診てもらって予想はしていてもその通りになるとは限らないし、ほかにも成長痛とか思春期とか色々な問題があって、大人と仕事をするのとは全然違う苦労がある。でも、その不確かな時にしか持ち得ないゆらめきやきらめきというものがあって、それがまた周りの心を動かすのだと思います。今稽古が進んでいる『マチルダ』のマチルダも、自らの力で未来を切り開く「小さな大天才」の役だから、まず小さくないといけないんですね。でも台詞を噛んだりしたら大天才には見えないわけで、ハムレット役者並みの台詞術とエネルギーが必要な役。小さな体で凄まじいプレッシャーと戦う子供の姿が、心を動かさないはずがないんです。
――そもそも、ロンドンでの初演から10年以上が経った今、日本で『マチルダ』を上演することになった経緯や理由というのは?
初演された頃から、ホリプロ内でやりたい思いを持ってはいたんですが、あまりにも出演する子どもが多くてさすがに負荷が大きすぎる、ということで見送っていたんですね。でも4年ほど前に向こうから打診があって、お話を聞いてみたら「子どもは3人だよ」と言われ、「え!?」って(笑)。ロンドンやブロードウェイでは、子どもの役はすべて子役が演じていましたが、“キダルト(キッズとアダルトの合成語)”が演じるバージョンがあると言うんです。直後にシンガポールで上演されるというので観に行ったら、あえて身長の高い大人が子どもを演じたりするとても演劇的な作りで、これならばぜひ、ということになりました。
先ほどの「幅広い層のお客様の心を動かす力がある」という点で、この作品がまさにそうだと思ったことも、上演を決めた理由として大きいですね。子どもが観たら、私にとっての『ファシナシオン』のようにその後の人生を変える力があると思いますし、今の私のように子育てをしている大人が観るとまた別の視点で、たとえば「家族の形というものは様々だ」という学びがあったりするんです。
▼『マチルダ』製作発表歌唱映像【♪Naughty/マチルダ:嘉村咲良/熊野みのり/寺田美蘭/三上野乃花(クワトロキャスト)】
▼『マチルダ』製作発表レポート
【動画・写真/コメントあり】ミュージカル『マチルダ』製作発表開催!劇中歌「♪Naughty」マチルダ役キャスト初歌唱!
――ホリプロの「子どもが大活躍するミュージカル」の歴史に、また新たな1ページが刻まれることになりそうですね……! では最後に、公演事業本部長としての今後の展望をお聞かせください。
ホリプロの特色として、一つのジャンルに偏っていないというのがあると思います。『ビリー』『ハリー・ポッター』『マチルダ』のように幅広い層に向けた作品がある一方で、層を特化した作品もあって、その特化した作品のジャンルが一つひとつ異なっているから、総合的に見ると幅広い。そうなっているのは各プロデューサーの個性に任せているからで、それがホリプロの面白さだと思うから、今後もそれぞれの個性を大事にしていきたいですね。
先日『ビリー』の再々演を発表したばかりですが、ホリプロはまだまだ色々な“球”を持っています(笑)。「こんなに豪華キャストでいいの!?」という新作ミュージカルや、皆さんお待ちかねのあの作品の再演、あの大人気脚本家の書き下ろしの新作……今後続々と発表していきますので、皆様どうぞご期待ください。
≪プロフィール≫
篠田麻鼓
ホリプロ 執行役員 公演事業本部長
2001年ホリプロ入社。『100万回生きたねこ』『ラブ・ネバー・ダイ』『わたしは真悟』『メリー・ポピンズ』などのプロデューサーを務め、現在は公演事業本部長として統括を行う。
\まもなく開幕!/
【プレビュー公演】2023/3/22(水)~3/24(金)
【東京公演】2023/3/25(土)~5/6(土)
会場:東急シアターオーブ
主催:ホリプロ/日本テレビ/博報堂DYメディアパートナーズ/WOWOW
協力:GWB Entertainment
企画制作:ホリプロ
特別協賛:大和ハウス工業
後援:ブリティッシュ・カウンシル
\遂に日本初演決定!!/
<東京公演>
期間:2023年8月~9月
会場:東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
主催:ホリプロ/フジテレビジョン/TOKYO FM/キョードーファクトリー
企画制作:ホリプロ
大阪公演あり
\オーディション開催中!!/
2024年7月~11月 東京公演・大阪公演あり
ビリー役とマイケル役のオーディション開催中。
オーディション募集要項詳細>>
応募フォームはこちら>>
※締切日時:3月5日(日)23:59まで