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【作品解説:舞台『奇跡の人』】舞台でスパークする、サリヴァンとヘレンのタフネス 文=川添史子

  • コラム

2022年2月15日(火)

5月18日(水)より上演となる舞台『奇跡の人』。家庭教師アニー・サリヴァンと三重苦の少女ヘレン・ケラーを題材にした各国で翻訳されたこの戯曲は、世界中で上演され、60年経った現在も観客を感動の渦に巻き込んでいる。

 

 

舞台でスパークする、サリヴァンとヘレンのタフネス

(文=川添史子)

 

家庭教師アニー・サリヴァンと三重苦の少女ヘレン・ケラーが、“奇跡”を起こすまでを描いた舞台『奇跡の人』は、2人の出会いからおよそ数カ月間の実話がもとになっている。戯曲を手がけたのは、詩や小説、舞台、映画、テレビと幅広い作品を手掛けた米国の作家ウィリアム・ギブソン。彼がこの作品について語ったインタビューを読むと、サリヴァンが盲学校の教師アナグノスに宛てて書いた手紙が、劇作のインスピレーション源になったと打ち明けている。作家は、14歳で盲学校に入ったときは字も読めず、自分の名前も綴れなかったサリヴァンが、20歳で卒業するまでに読み書きを覚え(9回もの手術を耐え視力を取り戻した)、家庭教師となって生徒ヘレンの目覚ましい成長、進歩を報告するこの「驚くべき手紙」を書くまでになった“タフネス(粘り強さ、不屈の精神)”に注目したと語る。「サリヴァンのタフネスがヘレンのタフネスを引き出したと分かった、実に刺激的な手紙です。私は何も創作していません」――この二人の女性のタフネスは、劇中何度もスパークする。

 

2019年舞台写真/高畑充希×鈴木梨央 演出:森新太郎(撮影:渡部孝弘)

 

 食事の時間、手づかみで人の分まで食べ散らかすヘレンに、サリヴァンは真っ向から向き合い、自分の皿からスプーンで食べさせる。この有名な「テーブル・ファイト」の場面は、ト書きだけで何ページにも及ぶ。なるほど、これは単なる伝記ではない。観客は二人の人間が、エネルギーをぶつけ合う様を目撃することになる。

 

事細かなト書きが数ページに及ぶ「テーブル・ファイト」(2022年版台本より)

 

 サリヴァンとヘレンだけではなく、ケラー家の人々の輪郭がしっかりと描かれる点も、この作品が面白い重要なポイントだろう。典型的な南部の男である父アーサー、娘を大切に思うがゆえに戸惑い、身動きが取れない母ケイト、父から愛されていないと思い反発する息子ジェイムズ、閉ざされた世界を生きるがゆえ、甘やかされ、わがまま放題で育てられたヘレン。それぞれの葛藤、衝突、成長――以前、召使いヴァイニーを演じた俳優にインタビューした際、「頭のいい人たちが随分不器用にコミュニケーションしているなと思いながら見守っている」と言っていて「確かに」と笑ってしまったが、これは愛し合っているのにバラバラになってしまった家族の、再生の物語でもあるのだ。

 サリヴァンは、幼いころに母を亡くし、飲んだくれの父に捨てられ、幼い弟と親戚中をたらい廻しにされたあげく、劣悪な環境の養護院で育った。そしてついには最愛の弟も亡くし過酷な境遇を孤独に生きてきたゆえに、舞台冒頭の彼女は人間不信で頑なになっている。教師という仕事に就いた目的は自立するため。過去の声に引っ張られながらも一人で必死に生きたサリヴァンもヘレンによって救われ、この家族との出会いを通してさまざまな感情を知る。

 

 

1997年舞台写真/大竹しのぶ×寺島しのぶ 演出:マイケル・ブルーム(撮影:谷古宇正彦)

 

 

 ドラマ、舞台、映画とあらゆる形で国も時代も超えて多くの人に感動を与えているこの作品。舞台の初演は1959年のNYブロードウェイ(プレイハウス劇場、演出はアーサー・ペン)、サリヴァンをアン・バンクロフト、ヘレンをパティ・デュークが演じ、700回にわたる上演数を記録した。ギブソンがトニー賞脚本賞、バンクロフトが主演女優賞、さらに作品賞なども受賞している。3年後には同じ監督・脚本・主演女優2人で映画化され、アカデミー賞作品賞にノミネート。主演女優賞をバンクロフト、助演女優賞をパティ・デュークが最年少で受賞した。1979年に製作された映画のリメイク版でパティ・デュークは、サリヴァン役もつとめている。

 日本初演は1964年(東宝)。演出は菊田一夫、サリヴァンを有馬稲子、ヘレンを湯浅恵子が演じた。その後、サリヴァン役に奈良岡朋子、市原悦子、大竹しのぶ、田畑智子、鈴木杏、木南晴夏。ヘレン役に荻野目慶子、中島朋子、寺島しのぶ、菅野美穂、石原さとみ、鈴木杏、鈴木梨央といった、実力派が起用されてきた。石原さとみ、鈴木杏、木南晴夏、鈴木梨央らは本作が初舞台であり、ヘレン役は若手女優の登竜門にもなっている。

 

2003年舞台写真/大竹しのぶ×鈴木杏 演出:鈴木裕美(撮影:谷古宇正彦)

2006年舞台写真/田畑智子×石原さとみ 演出:鈴木裕美(撮影:田中亜紀)

 

 2019年に引き続きサリヴァンを演じる高畑充希は、過去2回(2009年・2014年)ヘレンを演じており、足かけ13年で合計4度出演。野生的なヘレンも印象的だったが、3年前に観たサリヴァンは、まだ大人になりきっていない、生き生きと活発に心が動いている大胆な女性で、この役に新鮮な息吹を与えていた。

 

2009年舞台写真/鈴木杏×高畑充希 演出:鈴木裕美(撮影:田中亜紀)

2014年舞台写真/木南晴夏×高畑充希 演出:森新太郎(撮影:田中亜紀)

2019年舞台写真/高畑充希×鈴木梨央 演出:森新太郎(撮影:渡部孝弘)

 

 今回ヘレン役には、映画やドラマ、バラエティ番組で活躍する平祐奈。舞台初出演となる彼女が、一筋縄でいかないこの難役に、どう挑むのかにも期待が高まる。

 

2022年ヘレン・ケラーを演じる平祐奈

 

 

2019年舞台写真/高畑充希×鈴木梨央 演出:森新太郎(撮影:渡部孝弘)

 

 演出は2014年以来、同作を手掛けるのが3度目となる森新太郎。シェイクスピアやマーロウ、イプセンといった古典から、マーティン・マクドナーなどの現代劇まで多彩な作品を演出する気鋭は、テキストに対峙し、人間の弱さ/強さを見つめ、時に緻密、時にダイナミックな舞台を立ち上げてきた。森の稽古場は取材で何度か見学したことがあるが、視点を変え、動きを変え、試行錯誤を重ねて積み上げていく“100本ノック”な粘り強い演出は演劇界では有名。この演出家の“タフネス”も相当だ。これもひとえに、作品への愛情、ものづくりの情熱ゆえ。舞台の力を信じる純度高いエネルギーが俳優たちに伝わった瞬間、ギューッと集中し加熱していく緊密な稽古場の空気を作り出せるのは、この人の才能だろう。

 森は2019年の演出の際「僕がこれまで取り組んできた数多くの海外作品の中でも、『奇跡の人』は“王道中の王道”の人間ドラマです。演出を凝らそうにも、小細工はほとんど通用しない。アニーとヘレンの凄まじい関係を丸ごと掴み取らなくては、戯曲の持つ真の力を客席に提示できません」と語っている。

 

2019年舞台写真 美術:二村周作

 

 そして同じく“小細工なし”の抽象的な美術を手掛けたのは、二村周作。当初はオーセンティックな美術プランを提案したが、森から「目が見えない、耳が聞こえない、言葉も話せない。そうした感覚を表現した空間にしてほしい」という言葉を受け、この高い壁に囲まれた閉ざされた空間、削ぎ落とされた美術が生まれたとか。壁にある窓は直接出入りはなくとも外界との入り口であり、自己分析に使用する心理学モデル「ジョハリの窓」*につなげて考えを巡らせれば、人間の心理や記憶と密接に繋がる存在だと美術家は語る。

*ジョハリの窓(Johari Window):自己分析をおこなう際に使用する心理学モデルのひとつ。「自分も他人も知っている自分」「他人は知っているが自分は気づいていない自分」「他人は知らないが自分は知っている自分」「自分も他人も知らない自分」という4つの窓を切りわけて分析することで、自己理解をおこなう。アメリカの心理学者ジョセフ・ルフトとハリ・インガムが発表し、後に2人の名前を組み合わせた「ジョハリの窓」と呼ばれるようになった。

 

 

 ケラー家で飼われている愛犬がパペットで登場し、俳優が操るのも楽しい演劇的仕掛け。パペット指導を担当したのは、海外でも活躍する黒谷都だ。本来は専門職である人形操作を短期間で俳優に習得させるのは至難の業だと思われるが、「大切にしてほしいとお伝えしているのは、器用に動かすことではなく、内なるエネルギーや重力。そして人形であっても役作りは同じであること」と語る。人懐っこいセッター犬ベルも、この一家の大事なメンバーだ。

 

 最後に余談を一つ。戦後日本を代表する哲学者・鶴見俊輔がハーバード大学に留学していた10代、ニューヨークの図書館でアルバイトをしていた時に偶然ヘレンと会い、会話する機会に恵まれたそうである。鶴見氏が大学生であると知ったヘレンは、「私は大学でたくさんのことを学んだが、その後たくさん学びほぐさなければならなかった」と語りかけたという。鶴見氏はここで「unlearn」を「学びほぐす」と訳したが、これは、型通りにセーターを編み、一度ほどいて元の毛糸に戻し、自分の体に合わせて編み直すようなものだと説明している。これまでの経験を一度リセットして新たな視点で学び直すと、新しい風景が広がるという意味合いだろうか。ヘレンがサリヴァンから引き出した豊かなタフネスは、こんな小さなエピソードからもうかがえる。

 

2019年舞台写真/高畑充希×鈴木梨央 演出:森新太郎(撮影:渡部孝弘)

2019年舞台写真/高畑充希×鈴木梨央 演出:森新太郎(撮影:渡部孝弘)

 

 

参考資料:
STUDS TERKE RADIO ARCHIVE
https://studsterkel.wfmt.com/programs/interview-playwright-and-author-william-gibson
「奇跡の人 ヘレン・ケラー自伝」
「鶴見俊輔語録1 定義集」
森新太郎、二村周作、黒谷都のコメント部分は「奇跡の人」2019年パンフレットを引用

 

 


 

【公演概要】
『奇跡の人』

<東京公演>
期間:2022年5月18日(水)~6月5日(日)

会場:東京芸術劇場プレイハウス
主催:ホリプロ
企画制作:ホリプロ

<大阪公演>
期間:2022年6月8日(水)~12日(日)

会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
主催:梅田芸術劇場
お問い合わせ:梅田芸術劇場 06-6377-3888(10:00~18:00)
https://www.umegei.com/schedule/1027/

<キャスト>
高畑充希:アニー・サリヴァン
平 祐奈:ヘレン・ケラー

村川絵梨:ケイト・ケラー
井上祐貴:ジェイムズ・ケラー
山野 海:ヴァイニー
森山大輔:アナグノス/召使い
佐藤 誓:医師/ハウ博士
増子倭文江:エヴ伯母
池田成志:アーサー・ケラー

倉澤雅美、中野 歩、秋山みり、小林佑玖・荒井天吾(Wキャスト)、鈴木結和・石塚月雪(Wキャスト)
※Wキャストの出演スケジュールは未定

<スタッフ>
作:ウィリアム・ギブソン
翻訳:常田景子
演出:森 新太郎
美術:二村周作
照明:小笠原純 佐々木真喜子
音響:藤田赤目
衣裳:緒方規矩子
ヘアメイク:鎌田直樹
アクション:渥美 博
演出助手:坂本聖子
舞台監督:髙橋大輔

公式HP=  https://horipro-stage.jp/stage/kisekinohito2022/
公式Twitter= https://twitter.com/butai_m_worker #奇跡の人

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