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やめるくらいの覚悟で大きな山に挑む、今年はその第一歩/『ジキル&ハイド』柿澤勇人インタビュー
2023年1月16日(月)
圧巻の演技力とエッジの効いた存在感。演劇ファンにはお馴染みの顔が昨年の大河ドラマで大ブレイクし、今年は名作ミュージカル『ジキル&ハイド』のタイトルロールを務めることに。俳優人生16年目を迎え、大きく開花したその才能。果たして今の思いは?
(撮影:番正しおり/取材・文:三浦真紀)
追加公演決定!まもなく発売
追加公演:3月23日(木)18:00
発売日:1月21日(土)11:00~ホリプロステージほかで販売開始
[出演キャスト]
ヘンリー・ジキル/エドワード・ ハイド:柿澤勇人
ルーシー・ハリス:真彩希帆
エマ・カルー:桜井玲香
ジョン・アターソン:上川一哉
数年以内にくる山。
その山を登れなかったら俳優をやめるかもしれない
――大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(三谷幸喜作)では、源実朝役で一世を風靡なさいましたね。配役を知った時はイメージが違う気がしましたが、実に見事な実朝でした。
ありがとうございます。配役を知った時は僕も意外でした。三谷さんも、「こういう役は初めてでしょ?」と。三谷さんは、人を見る観点が僕らとは全く違う上に天邪鬼。僕が普段、アグレッシブな役をやっているから、そのままやってくださいとは絶対に言いません。真逆だったり、あるいは役者の素質を見抜き、出し切れていない部分を引き出す力がある気がして。台本を読んだら、ああ、見透かされてる!わかってくれているんだなぁ、と思いました。
――どんなところを見透かされていると感じましたか。
うーん、孤独というか、誰も僕のことをわからないだろうという、諦めみたいな。僕は仕事では明るくやっている方だけど、どこかにそんな思いがあるので。
――国民に認知された実感は?
いやいや、全然そんなこと思ってないですよ。こんなに人生が変わるんだ!と驚いているし、本当に感謝しています。だけど全く満足していない。次が大事だと思いますしね。具体的に何をしたい、どこまで行きたいというのはないけれど、直近で言えば、23年の舞台はかなりハードなので、倒れたくないなという思いはあります。でも、どれもギリギリまで攻めないと面白くならない作品。おそらく数年以内に、自分が俳優人生で一番頑張らなきゃいけない、全てのものをぶつけなきゃいけない作品がくるので、それは一つの山になるでしょう。もしかしたらその山を登れなかったら俳優をやめるかもしれない。今はその覚悟を自分に課しています。
――忘れられないのは『サンセット大通り』(15年)の稽古場。柿澤さんが初めての立ち稽古でタイトル曲を歌われた時のことです。セットはビーチチェアだけ。一人芝居で、そこで愛人生活に甘んじるジョーの苛立ちが見事に表されていて、あの爆発的な表現力、火をつけたら即座に燃え上がる瞬発力はどこから来るのか、心底感動しました。
あまり覚えていないなぁ。でも正直に言うと、あの頃が一番生意気でしたね(笑)。何がミュージカルだ!? ねじ伏せてやる!くらいに思ってて。本気でギラギラしていました。大概の人には嫌われていたかもしれません。とはいえ、今も言っていることはそんなに変わっていない気もします。ミュージカルだけにこだわっているわけでもないですし。
2015年『サンセット大通り』舞台写真 撮影:渡部孝弘
――それでもミュージカルも続けてこられた。どこに魅力を感じますか。
ハマった時はストレートプレイのお芝居より、インパクトがあるのかな?でもあんまり意識していないですね。例えばシェイクスピアなら台本3ページの独白をねじ伏せる、あの感覚とミュージカルは似ています。特にミュージカルは音楽の力が大きく、ハマると強い。もちろんミュージカル全部がハマれるわけでもないところが、面白くて難しいところです。
僕がこんなにひねくれたのは蜷川さんのせいです(笑)
――最近演じていて、これがハマった!という瞬間はありましたか。
やはり「鎌倉殿〜」の実朝は何カ所か、ハマったかなと思います。それまで僕のやってきた役は、自分から能動的に仕掛けたり、掻き回したり、影響を及ぼす側だったんですね。その点、実朝は静で受けの芝居。そこで、共演の小栗旬さんや大竹しのぶさん、小池栄子さんに引き出してもらった。その引き出してもらった感覚は、もしかしたら初めてだったかもしれないです。
そして、演技が上手くて熱い人っていっぱいいるんだな、とも思いました。いい芝居をしている人たちは途轍もない熱量を持っていて、ものすごく繊細に考えている。非常にワクワクする現場でした。蜷川幸雄さんの稽古場を思い出したんですよ。みんなが何かやってやる!とギラつき、食らいつく感じ。もちろん全然違うんだけど、芝居に対する熱量を同じくらい感じ取れたんですよね。かき立てられるものがいっぱいあって、自分が求めている環境はこれだ!と。
柿澤は初演時よりカフカ少年に寄り添う謎の人物・カラスを演じた。/2019年『海辺のカフカ』フランス公演 舞台写真 (c)KOS-CREA/国際交流基金
――熱い現場だったんですね。蜷川作品は『海辺のカフカ』(12・15・19年)に参加されていますが、勉強になったことは?
蜷川さんの数々の言葉は今も、僕の中でかなりを占めています。僕がミュージカルばかりやりたくないと言っていたのは、蜷川さんの影響ですから。「お前、そこで満足していたら俳優人生終わるよ」「何事も疑え」と常に言われて、今も夢に出てくるくらい。僕がこんなにひねくれたのは蜷川さんのせいです(笑)。
闇に落ちて泥水を飲み、ひたすらストイックに突き進んだ先に
――今年で俳優人生16年目。振り返ってみて、いかがですか。
ずっと走っていたイメージがあります。挫折と失敗ばかり繰り返してきたなぁ。多分、俳優は皆さんそうなんでしょうね。あの時こうしていれば、あの時この役をやっておけばよかったとか。たくさん失敗してきたけど、僕が選んできた道。矛盾するようですが、悔いはないです。この道だからこそ出会えた人たちもいる。
僕は今まで恵まれてきたんだとつくづく思います。普段はこんな適当な人間なのに、僕を世に売ろうとしてくれる人、叱咤激励してくれる人、支えてくれる人がいっぱいいて。
――人に恵まれたのもあるでしょうが、やはり柿澤さんの類まれなる演技力、表現力がなければこの道は生きていけません。ご自身の中では、演技力に自信がありますか。
『サンセット大通り』の頃は根拠のない自信がありました。よく、吉田鋼太郎さんにも「自分さえよければいいんだ」って言われて、そんなふうに思っていました。俳優としてはその精神も大事ですが、やはり「鎌倉殿〜」で、みんなで作っていく大切さ、一人だけ出来が良くても作品が面白くはならないんだと痛感しましたね。三谷さん作・演出の『ショウ・マスト・ゴー・オン』を観ても、一人だけが良くても成立しない。キャスト全員が板の上でちゃんと生きて、各々が魅力的で、その相乗効果で作品が良くなるんだな、と。そこは僕自身、変わりつつあります。
最近、ホリプロの堀義貴会長からよく「明るくなったね」と言われるんです。怪我したり、コロナ禍の影響、いろんな人との出会いが価値観を変えてくれたのかな。
――三谷幸喜さんの存在は柿澤さんにとって大きいみたいですね。
そうですね。僕は劇団で浅利慶太先生に出会い、基礎を学ばせてもらって、それをすぐ蜷川さんにぶっ壊されました。闇に落ちて泥水を飲み、汚いところを見ろ、そこから這い上がれって。俳優という職業は苦しみ、自分を逆境に置いてなんぼだと植え付けられていた。だから、ひたすらストイックに突き進み、楽しんだらダメ、楽しちゃいけない、楽しむことを感じてこなかったんです。いつもどこか荒んでいて、心を開けなかった。
でも三谷さんと出会って、芝居することの楽しさ、芝居の上で会話することの楽しさを教わった気がします。『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』(19年)なんて、めちゃくちゃやるべきことが多かったけど、それを凌駕する楽しさがありました。
2019年『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』舞台写真 撮影:渡部孝弘
人を驚かせたい、予想を裏切りたい
――『ブラッド・ブラザーズ』(22年)はずっとやりたくて温めてきた作品でしたね。他にもそういう作品があったら教えてください。
いくつかあります。そんなに多くはないけれども。でも何かは絶対に言いません!だって面白くないじゃないですか。僕は確実に驚かせたいんですよ。
2021年『ブラッド・ブラザーズ』舞台写真 撮影:岩田えり
――人を驚かせたい、予想を裏切りたいというマインドがある?
めちゃくちゃあります。それこそ、実朝でも演劇ファンの方々からは豹変してほしい、叫んでほしいと、アグレッシブなことを期待されたりしたんですよね。でもいつもと違う一面をお見せするのが俳優の仕事。それを認めていただけたのは嬉しかった。
日本の場合、2パターンあって、この俳優はこの芝居と決まっている方。これはこれで素晴らしいです。もう一つは、役によって違う顔、声、佇まいになれる人。僕は後者でいるのが理想なんです。
――作品に取り組む時、どのくらい考えるものですか。器用で何でも即できるイメージでしたが、もしかしたら家でものすごく考えていらっしゃるのかな?と。
家ではあまり台本は見ないですね。作品によりますが、台詞が多い作品の場合、喫茶店など外で集中して覚えます。稽古場では、稽古が終わってからずっと一人でやっていたりもします。家では台本を開かないけれども、頭の中には常にあるわけで、映画を見て、これ使えるかな?と考えたり。例えば『ブラッド・ブラザーズ』の子供の動きだったら、すでに何度も見ている「ギルバート・グレイプ」や「太陽と月に背いて」をまた見て、参考にしたりもしました。
一色にならないような、多面的な悪を見せたい
――今度、主演を務める『ジキル&ハイド』で、何かアイディアになりそうな映画は?
いっぱいありますよ。それこそ「ジョーカー」、そして「レオン」に出てくるゲイリー・オールドマンが演じたヤク中の刑事など。
――ミュージカル『ジキル&ハイド』は悪を撲滅するために、ジキル博士が自ら人体実験を施し、ハイドという悪の人格が生まれてしまう悲劇です。ジキル/ハイドという大役に、どう挑みたいですか。
稽古に入ってみないとなんとも言えませんが、ハイドという悪になった時、一色にならないようにしたいなと思います。例えば野獣だからといって、ただウォーウォーやっていても面白味がないじゃないですか。多面的な悪を見せたいですね。また実験室でジキルが薬を飲むと、徐々にハイドの人格が現れてくる、あのプロセスを演じるのは楽しみです。
――最後に、読者の皆さんへメッセージをどうぞ。
日本の演劇、ミュージカルは、まだまだ浸透してない気がしているんです。僕は演劇出身の人間で、ミュージカルで人生が変わったので、恩を返す意味でも、一人でも多くの人たちに生の舞台を観てほしい。こんな面白い世界があるんだと伝えるきっかけをどんどん作りたい。実朝をご覧になって興味を持ってくださった方々にも、ぜひ劇場で、生で演じる柿澤勇人を観ていただきたいです。
【公演詳細】
ミュージカル『ジキル&ハイド』
<東京公演>
期間:2023年3月11日(土)~3月28日(火)
会場:東京国際フォーラム ホールC
主催・企画製作:東宝/ホリプロ
<名古屋公演>
期間:2023年4月8日(土)、9日(日)
ー4月8日(土)17:00
―4月9日(日)12:00
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
主催:キョードー東海
お問い合わせ:キョードー東海 052-972-7466
(平日12:00~18:00)(土 10:00~13:00)※日曜・祝日は休業
http://www.kyodotokai.co.jp/events/detail/2526/
<山形公演>
期間:2023年4月15日(土)、16日(日)
ー4月15日(土)13:00
―4月16日(日)13:00
会場:やまぎん県民ホール
主催:さくらんぼテレビ/キョードー東北/キョードーマネージメントシステムズ
お問合せ:キョードー東北 022-217-7788(平日13:00~16:00/土曜日10:00~12:00※祝日を除く)
http://www.kyodo-tohoku.com/main.php
<大阪公演>
期間:2023年4月20日(木)~23日(日)
ー4月20日(木)18:00
ー4月21日(金)13:00
ー4月22日(土)12:30/17:30
―4月23日(日)12:30
会場:梅田芸術劇場メインホール
主催:梅田芸術劇場/関西テレビ
お問い合わせ:梅田芸術劇場 06-6377-3800(10:00~18:00)
https://www.umegei.com/schedule/1097/
<キャスト>
ヘンリー・ジキル/エドワード・ハイド:石丸幹二、柿澤勇人(Wキャスト)
ルーシー・ハリス:笹本玲奈、真彩希帆(Wキャスト)
エマ・カルー:Dream Ami、桜井玲香(Wキャスト)
ジョン・アターソン:石井一孝、上川一哉(Wキャスト)
サイモン・ストライド:畠中 洋
執事 プール:佐藤 誓
ダンヴァース・カルー卿:栗原英雄
宮川 浩、川口竜也、伊藤俊彦、松之木天辺、塩田朋子
麻田キョウヤ、岡 施孜、上條 駿、川島大典
彩橋みゆ、真記子、町屋美咲、松永トモカ、三木麻衣子、玲実くれあ(五十音順)
スウィング:川口大地、舩山智香子
<スタッフ>
原作:R.L.スティーヴンソン
音楽:フランク・ワイルドホーン
脚本・詞:レスリー・ブリカッス
演出:山田和也
上演台本・詞:髙平哲郎
音楽監督:甲斐正人
美術:大田 創
照明:高見和義
衣裳:小峰リリー
ヘアメイク:林 みゆき
声楽指導:ちあきしん
振付:広崎うらん
殺陣:渥美 博
音響:山本浩一
指揮:塩田明弘
演出助手:郷田拓実、小川美也子
舞台監督:中村貴彦
プロデューサー:今村眞治(東宝)、鵜野悠大郎(ホリプロ)
公式HP=
https://www.tohostage.com/j-h/
https://horipro-stage.jp/stage/jekyllandhyde2023/
公式Twitter=https://twitter.com/Jekyll_2023 #ジキハイ2023