FEATURE・INTERVIEW
特集記事・インタビュー
特集記事・インタビュー
「“芝居歌”を聴かせる、歌いっぱなしのコンサートをお届けします」~『石川 禅 5th ソロコンサート』石川禅インタビュー~
2019年7月16日(火)
『レ・ミゼラブル』『エリザベート』『ジキル&ハイド』など数々の大作ミュージカルに主要な役で出演する実力派ミュージカル俳優、石川禅。自身初のレギュラー出演となる連続ドラマ 日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」(TBS系・毎週日曜日21時より放送中)での脇坂賢治役も話題の彼が、毎年恒例のソロコンサートを今年も開催します。過去4回と今回のコンセプトからドラマの裏話まで、幅広くお話しいただきました。
取材・文/町田麻子
■声色で魅せる“芝居歌”
――毎年開催されているソロコンサートも、今回で5回目を数えます。まずはまだ体験されたことのない方のためにも、開催に至った経緯を教えていただけますか?
最初に開催した5年前は、僕の役者生活25周年の記念だったんです。今やらなきゃもうできないんじゃないの?という年齢にさしかかっていましたからね(笑)。それで始めたら、ありがたいことにチケットがすごい勢いで売り切れて、見られなかったお客様のためにももう一度…と続けていくうちに、気付いたら5回目という感じです(笑)。
――過去4回は、どのようなコンセプトで開催されたのでしょうか。
1回目のコンサートは勢いでできちゃったんです、自分のやりたいことを詰め込んで(笑)。2回目は1度目に来られなかったお客様のためにもその再演みたいな形で、3回目はせっかくだから新たな挑戦をしようということで得意分野ではないダンスをテーマに、女性ダンサーを従えてやったんですが、4回目が決まった時に「さあ次はどうしよう」と。1stから3rdコンサートまではエレクトーン奏者の方と二人三脚でやっていたのですが、初めて生バンドを入れることになったんですね。1台のエレクトーンが幾重もの音を奏でるコンサートも僕はすごく好きだったんですが、生バンドとのコンサートということで、だからこそできるテンポ感のナンバーを中心に選んだのが4回目でした。
――なるほど。では、5回目となる今回のコンセプトは?
実は4回目の時、もうひとつ大きな変化があって、自分が歌う意味というものを根本的に考え直したんです。もともと僕の中で、コンサートを開催していいのはソングライターやプロの歌手だけという考えがあって、1回目の時から嬉しい反面、「俺がやっていいの?」という抵抗もあった。もちろんミュージカル俳優にも、歌唱力が素晴らしい方はいっぱいいらっしゃいますから、そういう方はいいと思うんですけど。
――禅さんも十分、そういう方のおひとりだと思うのですが……。
いやいや、僕は芝居から入ってきてますからね。『レ・ミゼラブル』などの大きなミュージカルでプリンシパルキャストをやらせていただいてますから、「歌えません」とは言えない責任は感じてますが、意識としては役者なんです。だから4回目にして自分が歌う意味、お客様が自分の歌に何を求めてくださってるかを考えた時に、「やっぱり“芝居歌”、“役者歌”だ」と。歌っているんだけど語っているような、1曲終わるとその作品を全部観たあとと同じ疲労感がくるような(笑)、そんなドラマの見える歌を目指そうと思いました。それで前回は、『エリザベート』のシシィとフランツの掛け合いのナンバーを、ひとりで落語のように歌い分けたりもしたんですよ。
――ひとり二役は、一歩間違えると笑いが起こってしまうリスクもあると思います。
僕もそう思ってました、だってひとり二役やってる上に、10代のシシィと20代のフランツを50代の僕がやってるんですから(笑)。失笑が起きなかったのはもしかしたら、1回目からの積み重ねもあったかもしれないです。それまでにも『エリザベート』の《私だけに》など、女性のナンバーを歌うことはあって、女性の気持ちを表現するために声の色を変えていたんです。話が脱線しますけど、僕は変声期がなく、徐々に大人の声に移行したタイプ。そういう子って大人になっても、“音程”じゃなく“音色”っていう意味での高い声が出たり、高い声から低い声への移行がスムーズだったりするみたいなんです。だからフランツとシシィも、そんなに不自然じゃなくやれたのかな、と。お客様もすごく喜んでくださったので、5回目の今回は、“芝居歌”をより意識してお届けできたらと思ってます。
『ジキル&ハイド』 写真提供/東宝演劇部
■禁断!?の女心ソングからJ-POPまで
――今回のセットリストを拝見しましたが、J-POPの曲もいくつか入っていますね。
4回目の時に、当時は“ミュージカルコンサート”と銘打っていたんですが、アンコールだからいいよね?ということでCHAGE & ASKAさんの《SAY YES》を歌ったんですよ。そうしたらアンケートなどでも非常に好意的なお声が多かったので、今回は最初から“コンサート”とだけ銘打ってます。《SAY YES》を歌ったのは、その前にやった舞台『シラノ・ド・ベルジュラック』のセリフに歌詞が登場してたからなんですが、実は前々から、馴染みの歌が聴きたいお客さんもいらっしゃるんじゃないかという思いもあって。僕自身、ミュージカル俳優さんのコンサートに行って「この歌知ってる!」「こういうのも歌うんだ!」っていうのがあると嬉しいですからね。
『シラノ・ド・ベルジュラック』 写真提供/東宝演劇部
――J-POPの歌も、歌い方としてはやはり“芝居歌”なのですか?
そうなんです! こういうナンバーを、俳優がメロディーや歌詞の世界観を表現しながら歌ったらどうなるか、というのが今回の狙い。どんなジャンルであれ、歌には絶対にドラマがありますからね。それに今回選んだのは、僕が生まれてから今に至るまでの歴史と、重ね合わせて歌えるような楽曲たち。お客様の、その歌に対する見方が変わるようなプレゼンができたらと思っています。
――ほかにも興味深いナンバーばかりのセットリストですが、いくつかピックアップして解説していただくことはできますか?
具体的な曲名を挙げることは、いらしてからのお楽しみにしたいので避けますが、あるミュージカルの中で続けて歌われる3曲を、僕がいくつかの役の感情で歌うパートがあります。それと、僕がこれまで「男は絶対に歌っちゃダメだ」と思ってきた女性役のナンバーを、同じような想いを歌ったポップスのナンバーと並べて、ひとつのリンクした世界のように見せるなんていう試みも。男性の歌に置き換えるのではなくて、女心を自分の世界観の中で表現したらどうなるかっていう、僕の表現者としての挑戦ですね。
――俄然、聴きたくなってきました! ちなみに、ゲストを呼ばないのは禅さんのこだわりですか?
僕のこだわりではないんですけど、ゲストがいないと喉を休めたりゆっくり着替えたりする時間がないから、それが結果的にこれまでの僕のコンサートの色を決めることにはなってると思います。とにかく歌の表現を観て、聴いていただきたいという思いから、トークもそんなにしないので、僕のコンサートって怒涛の勢いで終わっちゃうんですよ。最近ではお客様もそれに慣れてくださっていて、余計なトークをすると「それ要らないんじゃないですか?」って言われることもあるくらいです(笑)。
■石川禅史上、最大の役に挑戦中!
――最後に少し、ドラマ「ノーサイド・ゲーム」のお話も伺えればと思います。ご出演が決まった時は、どんなお気持ちでしたか?
ちょっと本当に、狐につままれたような感じでした(笑)。イメージに合ってるかどうかを確かめたいということで、まずはテレビ局に何度か足を運んで簡単なホン読みをしたんですが、決まったという連絡をいただいた翌々日にはもう衣装合わせがありまして。実はその日が原作本の発売日だったので、僕はまだ読めていないまま向かったんですよ。そうしたらそこに監督がいらして、初めて役どころの説明を受けて、「結構重要な役だよね?」と思った瞬間にもう硬直(笑)。そのあと原作本を読んだら、やっぱり「えっ、これを俺が演るの!?」というようなお役でしたね。ドラマ化した時にどうなるかは分かりませんけど、石川禅史上、テレビドラマでこんなに出番の多い役をいただいたのが初めてであることだけは確かです。
――撮影は順調ですか?
映像の仕事は、昔、劇団にいた時に結構やらせていただきましたし、一昨年にもいくつかの作品に出演させていただいたので、舞台の芝居との違いは分かっているつもりです。だからそういう意味での戸惑いはないんですが、監督が何を求めてくださるかによって表現方法は変わってくるので、今はただ無心に取り組んでいる感じですね。「どうして俺、今ここにいるんだろう」って思いながらやってます(笑)。
――ドラマを観て禅さんに興味を持った方が、コンサートに来てくれたりもするかもしれないですね。J-POPを取り入れたことには、もしかしてそんな狙いもあったり……?
今回のコンサートでJ-POPを歌うと決めたのは、「ノーサイド・ゲーム」への出演が決まるずっと前のことなんですよ。でも確かに、ミュージカルを知らなくても楽しめる内容にはなってると思いますから、ドラマをきっかけに来てくださる方がいたら嬉しいしありがたいですね~。これ、山崎育三郎くんも同じようなことを言ってましたけど(笑)、僕が映像にる意味はやっぱり、その映像を見て、少しでもミュージカルに興味を持って劇場に足を運んでくださる方が増えてほしい、ミュージカルを広めたいというところにありますから。
――そうなるといいですね! では改めて、コンサートへの意気込みをお願いします。
これから高齢化が進み、僕の世代の人間は多分、あと10年20年経っても頑張っていないといけない時代になると思います。「体が動かなくなった」「若い頃はこんなんじゃなかった」って言いながらも(笑)、「まだまだ人生これから」って思えるような社会を作っていくことに、役者なりの貢献ができればという思いが僕にはありまして。体がしんどくても観に行きたいと思えるような舞台を作って、観て元気になって帰ってもらえたら、こんなに嬉しいことはありません。このコンサートも、そんな舞台のひとつにできるように頑張ります!
【プロフィール】
石川 禅(いしかわ・ぜん)
1964年6月22日生まれ。劇団青年座出身。主に舞台、ミュージカルを中心に、映画の吹き替えやTVドラマなどでも活躍。1995年ミュージカル「回転木馬」にビリー役で主演を務めたことを皮切りに「レ・ミゼラブル」ジャベール役/マリウス役、「エリザベート」フランツ・ヨーゼフ役等数多くのミュージカルで主要な役を務めている。近年の出演作に「レベッカ」「笑う男」などがある。8月「フリーダ・カーロ」、11月より「ダンス オブ ヴァンパイア」アブロンシウス教授役での出演が控える。
【公演概要】
期間:2019/9/2(月)、3(火)<全2公演>
18:00 開場/18:30 開演
会場:よみうり大手町ホール
主催:読売新聞社/ホリプロ
企画制作:ホリプロ