FEATURE・INTERVIEW
特集記事・インタビュー
特集記事・インタビュー
『ファインディング・ネバーランド』連載コラム|【第4回】デューク・オブ・ヨーク劇場 演劇に、どっぷり浸ろうよ ─ようこそ、ロンドンの劇場街へ─(文=福田剛士)
2023年2月14日(火)
演劇に、どっぷり浸ろうよ
─ようこそ、
ロンドンの劇場街へ─
デューク・オブ・ヨーク劇場。
英国におけるクリスマスとは、イヴの夜から一月六日までのこと。この一二夜を、人々はゆったりと楽しむのだ。演劇好きなお国柄ゆえ、『ジャックと豆の木』や『シンデレラ』、はたまた『くるみ割り人形』といったバレエまで目白押し。年末年始は、そういうクラシックなおとぎ話が喜ばれる季節でもあった。
一九〇四年の一二月二七日。この日もロンドンの紳士淑女らは、『ピーターパン』とかいう演目を、てっきりおとぎ話の一つと思い込んでいた。なにせ人気劇作家バリの最新作だ。内容は全く公開されていないが、慣習にのっとるなら、クリスマスに相応しい昔話に違いなかろう。皆が勝手に、そう決めつけていたらしい。
だが、その期待は完全に裏切られた。むろん良い方に、である。劇はクライマックスを迎え、永遠の少年ピーターが、観客に向けてこう言い放った。「このままじゃ、ティンクが死んじゃう。妖精は信じる人が居なくなると、消えてしまうんだ。ねえ、みんな妖精を信じて!信じてくれるなら、手を叩いてよ!」次の瞬間。割れるような拍手が劇場を覆い尽くしたのである。このとき、ピーター役の女優は、感極まって涙したという。この記念すべき初演が幕をあげた劇場こそ、「デューク・オブ・ヨーク劇場」だった。
デューク・オブ・ヨーク劇場内にあるバー。
その名も、J.M.バリ・バー。
『ピーターパン』の公演の宣伝ポスター。
J.M.バリ・バーの壁には、ピーターパンの舞台写真やイラストが飾られている。
トラファルガー広場にほど近いところに、ロンドンの劇場街がある。その一角に、今も古式ゆかしき佇まいを見せている。二〇二三年の年明けも、しっかり上演されていた。演目は『マザー・グース』だ。これまた英国の古くから語り継がれてきた童謡である。それをパントマイムにアレンジして、劇に仕立てたという。ちなみに、本邦でパントマイムといえば、黙劇のことをいう。だが、あちらでは観客も参加する笑劇のことだ。
ゆえに開演に先立ち、俳優が舞台に登場し、こう言ったから鳥肌が立ったものだ。「みんな、手を叩いてよ!」なんと、ピーターパンが今でも、この劇場にいたのだ!むろん割れんばかりの拍手が沸き立ったのは、いわずもがな。
さて、『マザー・グース』。グースおばさんに扮する男優を中心に、ハチャメチャな物語が展開した。ネコに猿、クマにカメやらコウモリまで、なんでもござれの一行が、連れ去られたグース(ガチョウ)を奪還しにグースランドまで飛んでゆく。ちなみに、国際線のジェット機に乗って、である。舞台の合間に、観客と俳優で合唱し、ダンスを踊った。あるいは、コウモリたちに水鉄砲を浴びせられ、お菓子をバラ撒かれたり、果ては、花火の洗礼まであり。さすがピーターパンの劇場だと、うならされた。
カーテンコールには、俳優たちが客席に飛び込み、ハイタッチの嵐である。叩いた手の平が、とっても熱く、舞台が客席と一体になったのを実感できた。
夜のデューク・オブ・ヨーク劇場。
劇場を出ると、夜のとばりがおりていた。その通りを、笑顔の観客らが帰路をたどってゆく。
ちなみに、『ファインディング・ネバーランド』で俳優たちが癒やしを求め、パブ「スワン」に行くシーンがあった。もしや、そんなパブが、本当に劇場の近くにあるのでは?さっそく探してみよう。
──ところで、英国におけるパブだが。これを単純に居酒屋と訳すのは、誤りだ。そもそもパブリック・ハウス(公共の家)が省略されて、パブと呼ばれるようになった。つまり、市民にとって憩いの場という意味だ。歴史は長く、一〇〇〇年前には、その原型があった。
今も、昼前から開けているところが多い。新聞片手に通う常連が、必ずいるものだ。ロンドンのパブに昼食どきに訪れると、サラリーマンがビールでフィッシュ&チップスを食べている光景など珍しくない。夜は夜で、常連が仕事帰りに立ち寄って、夕食とビールという定番コースだ。
さて、劇中のモデルになったパブはないか、と歩いた。すると、デューク・オブ・ヨーク劇場の帰りに、「ザ・スワン」というのを発見!俳優たちが、実際に屯したパブか?と、心躍った。彼らが「スワン」に行ってギネスを呑む場面が、脳裏によぎった。
残念ながら、モデルになったパブかどうかは不明だった。だが、「スワン」で一杯の夢は叶う。
では、さっそく注文といこう。「ギネス、ワンパイント、プリーズ」
ギネスの1パイント。
1パイントは、約0.57リットル。
■劇場街の近くにあるパブ「ザ・スワン」
店長のステファニーさん、店員をしている息子のロブさん(取材日:2023年1月4日)
お酒の種類も豊富。
Q:このパブにバリは通っていたのでしょうか。
店長のステファニーさん:ここは色々な劇場から近いから、おそらくバリも来ていたと思うわ。
建物自体は1709年からここにあって、18世紀中頃にはパブとして開業しているので、年代もクリアしているわね。
左より)ロブさん、ステファニーさん
ステファニーさん:このポスター、とってもラブリー!装飾的で美しいわね。
俳優さん達も美形ぞろいだし、劇のプロットも面白いから、きっと成功すると思うわ!
ロブさん:是非観に行きたいな。ロンドンで観れるの?
⇒「今のところ、上演は日本だけの予定です」と答えると、お二人共とても残念がっていました。
▼第1回~第3回の記事はこちら
『ファインディング・ネバーランド』連載コラム|【第1回】 ジェームズ・バリの生涯 大人にならなかった文豪ーかくて、名作は生まれたー(文=福田剛士)
『ファインディング・ネバーランド』連載コラム|【第2回】 ジェームズ・バリの生きた時代 小さな大人って? ー子供を子供と思わぬ社会ー(文=福田剛士)
『ファインディング・ネバーランド』連載コラム|【第3回】ケンジントン公園 ピーターパンに会いたい?─それなら、あそこにいかないとね─(文=福田剛士)
▼ミュージカル『ファインディング・ネバーランド』キャストコメント動画も公開中
【公演概要】
ミュージカル『ファインディング・ネバーランド』