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新生デスミュへの道 〜特別編〜 ブロードウェイのクリエイター、 音の魔術師ヒロ・イイダにインタビュー
2019年12月16日(月)
『デスノート THE MUSICAL』にブロードウェイの第一線で活躍するクリエイター、ヒロ・イイダが参加していることをご存知だろうか。ブロードウェイミュージカル『ビューティフル』(14年)、『バンズ・ヴィジット』(17年)、『ミーン・ガールズ』(18年)、『トッツィー』(19年)などに、“エレクトロニック・ミュージック・デザイナー”としてクレジットされている凄腕で、『デスノート』の高度な音作りにも深く関わっている。音を聴けば何からできているのか分析できるという、世界に誇る耳と才能の持ち主ヒロさんに語っていただいた。
electronic music designer ヒロ・イイダ
■シンセサイザーを駆使した音作り
ミュージカルの仕事に足を踏み入れたのは10年ほど前のこと。アメリカで作曲家として活動し、プロレスWWEの作曲をやっていた時、U2の仕事をしないかと誘われたんですね。U2ならWWEを辞めてもいいか…と辞めたら、ボノが作詞・作曲をしたミュージカル『スパイダーマン』の仕事でした(笑)。それからミュージカルの世界にどっぷり!現在、20年の3月にブロードウェイで開幕するプリンセス・ダイアナの物語『ダイアナ』、マイケル・ジャクソンのミュージカル『MJ』などを手がけています。
僕の仕事は英語でいうelectronic music designerです。まず、オーケストラのキーボードのサウンドをデザインすること。もう一つは作品で使われるトラックの製作と、それを含めたシステムをデザインすることです。オーケストラには生楽器があるので、劇場入りしてから生音と機械音のバランスをチェックして、最終的に理想的な音像を作るところまでが僕の担当です。ブロードウェイでは音楽監督、音響デザイナー、照明デザイナー、セットデザイナー、衣裳デザイナー、ヘアメイクデザイナーと並ぶ役割です。ブロードウェイとウエストエンドの最前線でこの仕事をしているクリエイターは僕を含めて9人くらいかな。
シンセサイザーには大きく分けて二つの要素があり、一つは既存の音を録音する機能。バイオリンなどオーケストラの楽器音を出したり、一人しかいないトロンボーンの音を4人いるかのように重ねたり。もう一つは今まで聞いたことがない音を出す機能。『デスノート THE MUSICAL』でいうと、渋谷のスクランブル交差点を歩く時に、電波が飛び交っている雰囲気を音で表す「渋谷クロッシング」。またエルが超人間的な能力で事件を解く際、脳内のコンピュータがすごい勢いで動く様子を表す「エルのテーマ」など。こういう音は、想像できても実在はしないので、シンセサイザーを使って無機的なサウンドを作る、いわば作曲と同じです。
■『デスノート』で目指す、21世紀の東京の音
この道に進んだのは、子供の頃、冨田勲に感化されたのがきっかけでした。当時、シンセサイザーはまだ楽器店では売っておらず、秋葉原にショールームがありました。小学生だった僕はそこに毎週通って、大学院生や企業の方々に混ざってシンセサイザーをいじっていた。ちょうどベーシックなマイクロコンピュータを使って、数値で音を再生するシステムが出始めた時期。2年ほど勉強して、気づいたら音がどうやって作られているかを解析し、再合成できるようになっていました。
僕にはどんな楽曲でもひとつひとつのエレメントが分かれて聴こえるんです。まるでマルチトラックのように。このスネアの音は90年代にロサンゼルスの人たちが作った音だろう、これは明らかに70年代後半のロンドンの音だとか、時代までわかる。ミュージカルには時代設定があり、当時使われていた楽器や演奏方法、レコーディングの手法など、その背景に合わせた音作りが大切です。もちろん今では手に入らない楽器もあるけど、それは分析して今の機材で再構成すればいい。僕が手がけた『ミュージカル 生きる』でも、黒澤(明)の世界に少しでも現代を思い出させる音がすると引き戻されてしまうから、気を使いましたね。
その点、『デスノート』では21世紀の音、それもパリ、ニューヨーク、上海とは違う東京の音を意識して作りました。ファンタジーなので、エルのキャラクターの音など想像力を駆使できるのが楽しかったですね。『デスノート』は僕にとって初めての日本のミュージカル作品で、現場に行ったらほぼ皆さん初めまして。そんなキャストの方たちから、「こんな音を使っているミュージカルは観たことがない」「日本のミュージカルじゃないみたい」と言っていただき、嬉しかったです。
今回、『デスノート』が再々演を迎えます。2年前のデータを見直すと、自分が納得できていないところがあり、改めて作り直しています。再演の時もかなり自分なりに手直しをしたんですよ。あの時こうすればよかったとか心残りもあるし、2年経つと自分のノウハウが変わり、新しい音を取り入れたくもなるので。ミュージカルは時間をかけて育てるもので、僕の仕事もエンドレス。上演されるたびにブラッシュアップしていきたいですね。
★<新生デスミュへの道>連載一覧★
~特別編~ブロードウェイのクリエイター、 音の魔術師ヒロ・イイダにインタビュー
(C)大場つぐみ・小畑健/集英社
【公演概要】
音楽:フランク・ワイルドホーン
演出:栗山民也
作詞:ジャック・マーフィー
脚本:アイヴァン・メンチェル
出演:
村井良大 甲斐翔真 髙橋颯
吉柳咲良 西田ひらり
パク・ヘナ 横田栄司 今井清隆 ほか
<東京公演>
期間:2020年1月20日(月)~2月9日(日)
会場:東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
主催:日本テレビ、ホリプロ
後援:TOKYO FM、WOWOW
企画制作:ホリプロ
※静岡、大阪、福岡公演あり
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