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プロデューサーコラム 第二回【三夜連続更新】
2019年12月7日(土)
文/梶山裕三(『デスノート THE MUSICAL』プロデューサー)
「NYでのワークショップ、そして感動の初日」
台本作りは、あらすじのどこにミュージカルナンバーが入るかがわかるプロットを作るところから始まります。演出家は日本人、音楽・脚本・作詞のチームはアメリカ人でしたので、まずは互いの作品の理解を確認しあうところから始まりました。ある日の打合せで栗山さんが「テニスシーンを加えて欲しい」と仰ったところ、海外チームは「あのシーンはミュージカルにはならないのでは?」と反対しました。しかし栗山さんが「あそこは見事な心理戦だから絶対に入れて欲しい」と粘ったため、加えることになったんです。その後も何度も打合せを重ね、時にはバチバチにぶつかりながらも、納得いくプロットが仕上がりました。
初日の1年前に台本の第一稿と曲が仕上がり、俳優が実際にそれをリーディング形式で演じてみるというワークショップを行いました。ワイルドホーンさんからワークショップはニューヨークでやろうと提案されたのですが、そもそも初めてオリジナルミュージカルを作るのでワークショップが何のことかわかっていませんでした(笑)とにかく世界水準のミュージカルを作ると決めていたので、経験のあるスタッフの勧められることを全部やってみようと腹をくくり、準備はすべてブロードウェイチームに任せて、自分はニューヨークに乗り込んだのです。
左より)音楽監督 ジェイソン・ハウランド、フランク・ワイルドホーン、私、音楽監督 塩田明弘
NYでのワークショップは、それまでの人生でもっとも興奮した時間でした。ブロードウェイで上演中のキンキーブーツやジャージーボーイズ、ウィキッドという大ヒット作品の主演をつとめる俳優の皆さんが、できたばかりのデスノートの台本と曲を学んでくださるのです。作曲、脚本、作詞のブロードウェイチームはそれを見ながらどんどん変更を加えてブラッシュアップしていきます。
そして最終日に行われたリーディング上演を観たときは、素晴らしすぎてしばらく放心状態でした(笑)ただ欲を言うならば、あと1曲、この作品の代表曲となる曲が欲しいと感じたので、率直にワイルドホーンさんにそれを伝えたところ、ちょっとムッとしていましたが(笑)数週間後、主役ライトが歌う「デスノート」という素晴らしい曲を書いて送ってくれました。この曲は、劇中、何度も形を変えて歌われる、まさに作品を代表するナンバーとなりました。
初演が開くまでは、どんなミュージカルになるのかわからなかったので、従来のミュージカルファンの方々はチケットを買おうかどうか、悩んでいたと思います。そのため、普段は舞台を観ない漫画原作のファンの方や、海外にいる日本のアニメファンの方もターゲットにする必要があり、いろいろ試しました。その試みの一つが、シンガポールで行われたアニメフェスティバルアジア(AFA)にデスノート THE MUSICALのブースを出して宣伝をしたことです。
海外の漫画ファンにもミュージカルの存在を知ってもらい、日本まで観に来てもらうのが目的でした。ライト役の一人、柿澤勇人さんにも協力をしてもらい、ステージに立ってもらいました。「夜神月が来る!」とあおるとすごい人だかりになったのですが、まだ曲が完成していなかったので、柿澤さんには代わりにドラゴンボールの主題歌「チャラ・ヘッチャラ」を歌っていただきました。「なぜドラゴンボール?」という空気の中、シンガポールのお客さんを熱狂させてくださった柿澤さんは本当にかっこよかったです。東京公演には海外からいらしたお客様も多数いらっしゃったので、確実に効果はあったと思います。
シンガポールで行われたアニメフェスティバルアジア(AFA)の様子 柿澤勇人
稽古期間の40日は、まさに怒涛の日々でした(笑)稽古の初日にはまだ台本が完成しておらず、話し合いを続けながら、ようやく台本が固まったのは初日の2週間前でした。
新作ミュージカルの現場はとにかくやることが多いんです。役者が歌うミュージカルナンバー以外にも、劇中ではたくさんの「アンダースコア」と呼ばれるBGMが使われます。栗山さんから「ここの転換で使う30秒の曲を作って欲しい」という要望があると、すぐにメールでアメリカにいる音楽監督に送り、翌朝その曲が届くとすぐに稽古場で試してみる、ということが繰り返されました。
そんな中、ワイルドホーンさんが突然「2幕にエルのソロを追加したい」と仰り、ワイルドホーンさん自身がピアノ弾き語りで歌うかっこいいナンバーが送られてきたんです。あれには驚きましたが、栗山さんもワイルドホーンさんの提案を受け入れ、採用となりました。その曲が、エルが2幕で歌う「揺るがぬ真実」です。小池徹平さんに譜面を渡したときは、「ソロっていきなり増えるんですね」と笑ってました(笑)海外では何か月もかけて作る新作ミュージカルを40日で創り上げることができたのは今思えば奇跡のように思います。
稽古中の写真 左より)吉田鋼太郎、フランク・ワイルドホーン、濱田めぐみ(一番右)
2015年4月6日。いよいよ日生劇場で初日を迎えました。あの感動は今も忘れません。
カーテンコールで割れんばかりの拍手が起きたとき、思わず涙がこぼれました。いくつもの苦難を乗り越え、ブロードウェイチームと我々は見事なチームになれたと思います。
舞台の評判は瞬く間に広がり、あっという間に残っていたチケットはなくなりました。東京のあとに行われた大阪公演、名古屋公演も大成功でした。名古屋の大千秋楽の日、総一郎役の鹿賀丈史さんに「この作品の音楽は本当に素晴らしい。」と言われたときは感動しましたし、濱田めぐみさんに「ライオンキングやウィキッドのようなロングランミュージカルの舞台に立った時は特別な感覚があったけど、同じような感覚がデスノートにもある」と仰っていただいたときは、またまた感動しました。無謀とも思えるチャレンジに賛同し、力を貸してくださったオリジナルキャスト・スタッフの皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。
『デスノート THE MUSICAL』2015年 舞台写真
左より)柿澤勇人、小池徹平、吉田鋼太郎
2017年の再演も盛り上がりました。初演時に作ったライブ盤CDやWOWOWでの放送もあったおかげで、お客様をより作品を知ってくださり、初演時よりも客席との一体感を感じました。再演は国内だけでなく、初の海外公演となる台湾の台中でも上演しました。台中の盛り上がりは想像以上でした。「デスノートTHE MUSICALは海外でも通用する」という確かな手応えを感じられたという意味で、非常に意味ある公演でした。最終地は東京。連日、たくさんのお客様が当日券に並んでくださいました。僕はその行列を見るたびに感動していましたが、心の中では2020年の再々演のことを考え始めなければなりませんでした。
『デスノート THE MUSICAL』2017年 舞台写真
手前より)石井一孝、濱田めぐみ
★『デスノート THE MUSICAL』プロデューサーコラム連載一覧★
(C)大場つぐみ・小畑健/集英社
【公演概要】
音楽:フランク・ワイルドホーン
演出:栗山民也
作詞:ジャック・マーフィー
脚本:アイヴァン・メンチェル
出演:
村井良大 甲斐翔真 髙橋颯
吉柳咲良 西田ひらり
パク・ヘナ 横田栄司 今井清隆 ほか
<東京公演>
期間:2020年1月20日(月)~2月9日(日)
会場:東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
主催:日本テレビ、ホリプロ
後援:TOKYO FM、WOWOW
企画制作:ホリプロ
※静岡、大阪、福岡公演あり
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