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【作品をより楽しむための深掘り講座】アルモーメン アブドーラ博士に聞く『バンズ・ヴィジット』が描く「希望」

  • コラム

2023年2月28日(火)

 

(取材・文:市川安紀)

 

異色のトニー賞ミュージカル

米国演劇賞の最高峰「トニー賞10冠制覇!」と聞くと、ダイナミックなソング&ダンスや大掛かりなセットといった、派手な見せ場が詰まった作品を思い浮かべるかもしれない。ところが2018年に作品賞を含む同賞10冠の栄誉に輝いたミュージカル『バンズ・ヴィジット』は、少々趣が異なる。派手さや華やかさというよりも、オリエンタルな音色とともに、人間のおかしみや温かさがじわじわと心に沁みてくる“じんわり系”の佳品だ。「立場の違う者同士が理解し合うことができるのか?」というシンプルにして普遍的なテーマが、今という時代だからこそよりストレートに胸に響いてくる。

原作は2007年の映画『迷子の警察音楽隊』(原題:Bikur Hatizmoret/英題:The Band’s Visit)。イスラエル出身のエラン・コリリン監督・脚本によるイスラエル・フランス合作映画で、同年のカンヌ国際映画祭・ある視点部門「一目惚れ」賞、国際批評家連盟賞などを受賞。アキ・カウリスマキ監督映画を彷彿とさせる不思議な時間の流れとユーモアに満ちた、愛すべき一作となっている。長編デビュー作にして数々の賞に輝いたコリリン監督の同映画脚本をもとに、『ペテン師と詐欺師』『フル・モンティ』などで知られるデヴィッド・ヤズベックが作詞・作曲を手がけてミュージカル化したのが本作だ。

 

エジプトとイスラエル

海外作品を日本で上演する際には、作品中で描かれる言語や宗教、民族、文化の違いをどこまで噛み砕いて日本の観客に伝えるのか、あるいは取捨選択するのかが一つの鍵となる。本作で言えば「エジプトの音楽隊がイスラエルの地元住民と交流する」というシチュエーションそのものが、まず日本人には感覚的に掴みづらいかもしれない。
地図上では隣国同士にあるエジプトとイスラエルは、1948年のイスラエル建国以来、度重なる戦争状態にあった。1979年に平和条約が結ばれたものの、両国は時に「冷たい平和」とも称されるように“一触即発の緊張状態というわけではないが仲良く手を取り合うというほどでもない”という関係が続いている。イスラエルはヘブライ語、エジプトはアラビア語と、同じ語族に属しながらも、使用する言語は基本的に異なる。

東海大学教授で、日本とアラブ世界の言語文化学を研究するアルモーメン アブドーラ博士は、エジプト・カイロ生まれ。「和平協定があるのですが、形だけに留まっています。建前だけではあるが、お互いに行き来は出来るのでエジプトもイスラエルの観光客を受け入 れていますが、積極的な友好関係を築いているわけではなく、普段の生活の中で両国の市 民同士が交流する機会はほとんどありませんね」と、両国の微妙な関係性を教えてくれ た。
原作映画については、「あくまでイスラエルの視点による作品なので(エジプト側からの)評価は難しいところがありますが」と前置きしつつ、1990年代後半という作品の設定に着目する。1993年に当時のイスラエル・ラビン首相が奔走し中東和平が実現一歩手前まで進んだことを背景に、「この時代を生きた監督さんが(注:コリリン監督は1973年生まれ)、“戦争をしている国同士の人たちがなぜ仲良く暮らせないのか”という平和のメッセージとして作品を作ったことがわかります。実はエジプトでは国民感情もあってこの映画は一般公開されませんでしたが、平和への希求や協調性といったシンプルさが、世界各地で受け入れられた要因ではないでしょうか」と推しはかる。

 

未来の「希望」を見つめる

現実にはその後、中東和平は実現どころかますます混迷を深めていった。チュニジアやエジプトなどのアラブ諸国では2011年前後に「アラブの春」と呼ばれる民衆運動が沸き起こったものの、瞬く間に鎮圧されたり、「春」以前よりも厳しい体制に傾いたりと、いずこも解決には程遠い火種を抱えたままだ。そして今また広く世界を見渡せば、ロシアのウクライナ侵攻という新たな世界戦争にも発展しかねない危機的状況が続いている。

だからこそ、アルモーメン博士がこの作品を「未来の希望を描いている」と評することに大きな意味があるだろう。「問題を解決する時の思考法として、現在を起点に状況を捉える“フォーキャスティング”と、未来を起点に考える“バックキャスティング”という考え方があります。今盛んに叫ばれているSDGs(持続可能な開発目標)が掲げるさまざまな目標の中で、例えば『不平等をなくす』ことは、実際には不可能に近い。でも『未来にそうあってほしい』と考える“バックキャスティング”的思考です。個人的な見解ですが、この作品も現実的にはファンタジーかも知れません。でもバックキャスティング的思考が効いていて、未来の望ましい姿、希望される状況を描いていると言えます。もちろん純粋にヒューマンコメディとして楽しむことも出来ると思いますが、少し背景を知ることで、作品の味わい方も変わってくるのではないでしょうか」

平和という出口が見えない時代に灯す、ひとすじの希望。決して声高に叫ぶわけではないけれど、愛すべき人々のささやかな物語に託された未来への希望を、じっくりと噛み締めたい。

 

 

あらすじ

エジプトのアレクサンドリア警察音楽隊が、イスラエルの空港に到着した。ペタハ・ティクヴァのアラブ文化センターで演奏するように招かれた彼らだったが、いくら待っても迎えが来ない。誇り高い楽隊長のトゥフィーク(風間杜夫)は自力で目的地に行こうとするが、若い楽隊員が聞き間違えたのか案内係が聞き間違えたのか、彼らの乗ったバスは、目的地とよく似た名前のベイト・ハティクヴァという辺境の町に到着してしまう。一行は街の食堂を訪れるが、もうその日はバスがないという。演奏会は翌日の夕方。食堂の女主人ディナ(濱田めぐみ)は、どこよりも退屈なこの街にはホテルもないので、自分の家と常連客と従業員の店に分散して泊まるように勧める。

かくして、言葉も文化も異なる隣国の人間達が、一夜交わることとなった。迷子の音楽警察隊は、果たして演奏会に間に合うのか――?

 

 

▼もっと詳しいあらすじ&作品解説

『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』を予習しよう!あらすじ&作品解説

 


【公演概要】
ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』

<東京公演>
期間:2023年2月7日(火)~2月23日(木祝)
会場:日生劇場
主催:ホリプロ/TOKYO FM/WOWOW
後援:イスラエル大使館
企画制作:ホリプロ

<大阪公演>
期間:2023年3月6日(月)~8日(水)
―3月6日(月)17:00
―3月7日(火)13:00/17:00【貸切】
―3月8日(水)13:00
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
主催:梅田芸術劇場
お問い合わせ:梅田芸術劇場06-6377-3888(10:00~18:00)
https://www.umegei.com/schedule/1079/

<愛知公演>
期間:2023年3月11日(土)~12日(日)
―3月11日(土)17:00
―3月12日(日)13:00
会場:刈谷市総合文化センター大ホール
主催:メ~テレ/メ~テレ事業
お問い合わせ:メ~テレ事業052-331-9966(平日10:00~18:00)
https://www.nagoyatv.com/event/entry-33492.html



<キャスト>
風間杜夫:トゥフィーク(指揮者)
濱田めぐみ:ディナ

新納慎也:カーレド(トランペット)
矢崎 広:イツィック
渡辺大輔:サミー

永田崇人:パピ
エリアンナ:イリス
青柳塁斗:ツェルゲル

中平良夫:シモン(クラリネット)
こがけん:電話男
岸 祐二:アヴラム

辰巳智秋:警備員
山﨑 薫:ジュリア
髙田実那:アナ
友部柚里:サミーの妻
太田惠資:カマール(バイオリン)
梅津和時:警察音楽隊(マルチリード)
星 衛:警察音楽隊(チェロ)
常味裕司:警察音楽隊(ウード)
立岩潤三:警察音楽隊(ダルブッカ)

竹内大樹(スウィング)
若泉亮(スウィング)

<スタッフ>
原作:エラン・コリリンによる映画脚本
音楽・作詞:デヴィッド・ヤズベック
台本:イタマール・モーゼス
翻訳:常田景子
訳詞:高橋亜子
演出:森 新太郎

音楽監督:阿部海太郎
美術:堀尾幸男
照明:佐藤 啓
音響:井上正弘 けんのき敦
衣裳:西原梨恵
ヘアメイク:鎌田直樹
振付:新海絵理子
歌唱指導:石川早苗
稽古ピアノ:安藤菜々子
演出助手:伴・眞里子 玉置千砂子
舞台監督:小笠原幹夫



公式HP=https://horipro-stage.jp/stage/bandsvisit2023/
公式Twitter=https://twitter.com/bvjp_tweet #バンズヴィジット

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